第6話
「そっかー明日帰るんだな、ちょっと寂しいな」
そう言われて僕もなんだか寂しい気持ちになって言葉が出なくなった。
「ちょっと待ってろ」
カーくんはそう言うと、川に飛び込みさらに上流の方まで
僕はカーくんをボーっと見送るとハッと我にかえって周りを改めて見回し、この美しい景色を目に焼き付けるようにゆっくりと眺めた。
それから、目をつぶって草むらに寝転び、陽射しを感じながらこの夏休みにカーくんと過ごした楽しかった思い出の一つ一つを
「フミオ、フミオ」
ハッと目を覚ますとカーくんが僕の顔を覗き込んでいた。
「わっ!」
思わず飛び起きるとカーくんが笑って
「寝ぼけてんな、フミオはやっぱガキだな」
その言葉にちょっとムッとしたが、カーくんが
「これ」
と言って何かを差し出した。
それは赤ちゃんの握りこぶしくらいの石のようだったが、ガラスのようにちょっと透明でキラキラと光っていた。
「わぁ、きれいな石だね。なんの石なんだろう」
僕が手に取ってマジマジと眺めていると
「それやるよ」
「え?これを?」
「あぁ、持ってけよ」
しかし僕は戸惑って
「いや、いいよ、なんか悪いし…」
というのも、あまりにきれいな石なんで子供心に貴重なものと感じて
「いいよ、これ、フミオにもらってほしいんだよ」
「でも……」
「実はこれ、おまえのじいちゃんと昔、村のハズレにある洞窟に行った時見つけて持ち帰ってたんだけど、おまえのじいちゃんが俺に預かってくれって渡されて、ずっとそのまんまだったんだ」
「そうなんだ……」
「だから、孫のフミオに返す。受け取ってくれ」
そう言うとカーくんからそのキラキラ光る石を手渡された。
持ち上げて陽の光に透かすと益々輝きを増して、太陽の光くらい眩しく感じた。
「フミオ、また、来年の夏くるか?」
カーくんが尋ねた。
「もちろん来るよ、また、カーくんに会いに来る」
そう言うとカーくんは嬉しそうに顔を歪めていた。
しかし、その年の冬、じいちゃんが亡くなり、ばあちゃん一人では暮らせないと僕の家に引っ越してきたため、田舎の家がなくなり、次の年から田舎へは行かなくなってしまった。
僕自身は行きたかったが、まだ、小学校低学年だったからひとりでは行けるはずもなく、カーくんとの約束を果たせないまま、いつかそんなことも忘れて大人になっていた。
「パパ、この石なあに、すごくきれい」
娘がどこからか、カーくんにもらった光る石を見つけ出して僕のところに持ってきた。
これが、きっかけで先程の記憶がふつふつと蘇っていた。
「これか、この石はね……」
子どもの頃、体験したことを娘に包み隠さず話すと
娘は目をまあるくして
「パパすごい。かっぱの友達がいたんだね。わたしも会いたい。カーくんに会いたいな」
娘の輝く瞳の中にはあの頃の僕と同じたくさんの夢が詰まっていた。
了
追話
ちなみにカーくんからもらった石はダイヤモンドの原石で磨けば二億円くらいの価値がありますが、フミオは知らないまま一生を終えたとさ。
めでたし、めでたし。
みどりいろのともだち 美月 純 @arumaziro0808
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