言葉や感想を発することに対する恐怖。
kayako
発言恐怖症なので小説やエッセイはともかく感想が書けない。
『肥後守正常。名に反して異常である。
彼は自己にあらざる全てのものに対して口がきけなかった』
大尊敬する作家である筒井康隆の名著『虚航船団』より。
(以下、『』内全て同作より引用)
『文具船』に搭乗する船員であり文房具の一人である『肥後守正常』の描写はこのように始まる。
彼は一言で説明すれば発言恐怖症。
『自らが何かを答えなければならぬようなことを話しかけてくると思える者が近づいてくるのを見ると彼は逃げた。逃げ切れぬと悟ればその場に倒れて死んだふり、もしくは眠っているふりをするのだった』
しかもその発言恐怖が他者にまで伝染してしまうという、とんでもないキャラである。
『彼のその様子を見た者はたいてい深く胸打たれああ自分は今までなんというがさつな、無神経な、文法を無視した、相手を傷つける、不用意な、粗雑なことばばかりを発し続けてきたことだろうかと思いこれからはそれを改めねばならぬと決意し、それが故に二、三カ月の間は何も喋れなくなってしまうのだ』
同作には他にもトンデモなキャラが多数登場するが、私が最も共感したのはこの肥後守正常だった。
このレベルにまではとても行かずとも──
他者との会話は可能な限り忌避したがり。
どうしても他者と喋るとなると、適切な話題や言葉を脳から引っ張り出すまで人の数倍時間がかかり。
言葉を引っ張り出せたとしてもそれを発言していいものか、吟味するのにやっぱり人の数倍(ry
私はそんな、発言恐怖一歩手前人間である。
だから、周囲で当たり前のように交わされる会話のキャッチボールにはあっという間に置いていかれる。
大勢の前で喋るなど、カンペがあったとしてもとんでもない。
お笑い芸人やゲーム実況者という人種は人ではなく神だと思っているくらいだ。
会話だけではない。文章を書くのでさえ、人より多分かなり時間がかかる。
あまりにも書けなさすぎて、せめて休みの日ぐらい一日3000文字は書こうとノルマを課しているくらい。
ツイッターもやっているが、一つ呟くまで上からも下からも左からも右からも何度読み直すか分からず、それでいて呟いた直後に間違いに気づいて削除ということもしょっちゅう。
そんなんだから小説を書く時も、さらさらすらすら書けるなどということはめったにない。
1行書いては見直し、2行書いては違うと消し、その繰り返し。
やっと10行書いて、この部分まるごと要らないのではと悩んで消すというのもよくある。
それを繰り返し何とか1パートを書き上げて、時間を置いて読み直してみると「ナニコレ……」などと呆れることもしょっちゅう(だから小説をあげる時は必ず、書き上げて1日は置いてからあげるようにしてるんですが)
それで出来たのがあの文章かよwと呆れる方々も多かろうと思いますが。
そして同じようなことは、人さまの作品に感想を書く時にも言える。
そもそもこのような性質ゆえに、どなたかの作品に感想を書くという行為が滅多に出来ない。
なろうやカクヨムを1か月見てきただけでも、心を揺さぶられた作品は本当に多い。
書き手にとって、感想は何よりもの糧だということも分かっている(自分の作品にも素晴らしい感想をたくさん頂き、それが次への大きな力となっているのは間違いない。いつもありがとうございます!)
でも、やっぱり、いざ感想を書くとなると尻込みしてしまう。
色々思うところや感じるところや揺さぶられたところ、ここをちょっと変えればもっと良くなるのになという感想はあれど
・あのキャラの名前最初と最後で違うのは実は間違いじゃなくて叙述トリックなのでは? じゃあそれを間違いとして指摘するのは失礼では?
・視点変更があっても改行を入れてないからどこで視点変更あったのか分かりづらいのはこの作者様のポリシーかも知れないしそれも味のうちかも知れないしやっぱり指摘するのは失礼?
・このキャラがうちのめされるシーンで滅茶苦茶揺さぶられたんだけども性的にキタって意味もあるからそれを感想にしちゃうと作者様にものすごく失礼ではないか いや勿論はっきりと書くつもりはないけど行間から読み取られるのでは
・私の感想ごときで作者様が作品の方針変えちゃったりしたらどうしよう
・ここ滅茶苦茶笑ったんだけど実は笑うところじゃなかったらどうしよう
・このキャラの健気なところ滅茶苦茶好きなんだけど、実は健気なキャラとして書いたつもりはなかったんだったらどうしよう
……というわけでまさしく
『ああ自分は今までなんというがさつな、無神経な、文法を無視した、相手を傷つける、不用意な、粗雑なことばばかりを』な状態になってしまう。
ヘタに一本エッセイ書くより、感想の方がハードルが高い。少なくとも私にとっては。
こんなんなので、感想が書けないかわりに
揺さぶられた作品には大抵☆5評価をつけているし、ちょっと細部直せばもう少しよくなりそう?とか意見はちょっと違うけど気持ちは分かるなぁと感じた作品には☆3か☆4をつけている(カクヨムでの評価も似たような感じ)
それでも何とか感想を書こうと思って作品を読み込んでいくと、今度は作者様の才能への嫉妬がふつふつとわいてきてしまう困った事態に。
いや本当、なろうやカクヨム1か月見回ってみただけでかなり価値観変わった感がある……
二次だけやっていたのでは分からないことって多いものですね。
しかし何故か、推しが邪険にされた時だけは勇気振り絞って感想(という名の文句)言いに行ける不思議。
いやその時だって勿論大分吟味はしますし結構な確率で引っ込めるんですが。
そして虚航船団は今読んでもやっぱり面白すぎる。
なろうの読みやすい文章に慣れすぎていると開始3秒で投げ出したくなる詰まりっぷりだけどw
言葉や感想を発することに対する恐怖。 kayako @kayako001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます