第6話 最強の少女、どこに行っても変わらない反応。
「ゴブリンの耳、持ってきました」
昼前のギルドは、冒険者が依頼で出払っていることもあり、和やかで落ち着いた空気が漂っている。
「あ、ルミナさん!初めての依頼がゴブリンですか・・・頑張りましたね。無事でよかった!」
大袈裟に喜ぶ受付嬢フィーナに、ルミナは眉を顰める。
「・・・ありがとうございます?それで、耳はどこに出せば良いですか」
亜空間収納を開きながら尋ねると、フィーナはギョッとしたような顔をした。
「「は?!」」
多方面から飛んできた驚愕の声には敢えてスルーを決め込む。
ルミナは亜空間収納から自身の身長よりも大きな麻袋を黙々と引きずり出した。
――カシャン。
鉄製のボウルが落下して金属音が響く。
耳の受け取り用にフィーナが持っていた物だった。
周囲の反応に気付かないフリをして、ルミナは口を開く。
「これなのですが・・・置き場所が無くて」
「ひっ?!」
はち切れんばかりに膨らんだ赤紫の麻袋を軽々と片手で持ち上げてみせる少女には、流石のベテラン受付嬢も悲鳴を隠せなかった。
尚も無反応を決め込んでいたルミナは、若干声のトーンを落とす。
「受付嬢さん・・・この耳、どこに持って行けば良いですか」
美形の無表情は怖い。
この日ギルドに居合わせた者達は、身を以ってその言葉の意味を知った。
「ルッ、ルミナさん!数が多い、ので・・・あの、その・・・お支払いが明日でも良ければ・・・そこに置いて行っていただいて・・・も・・・」
可哀想な程に青褪めてガタガタと震えながらも、フィーナは懸命に口を動かす。
しくじれば命は無いと思うような、正体不明の恐怖があった。
「分かりました。では、明日のこの時間に」
そう言うと、ルミナはもう話すことは無いとでも言うかのように、宿の自室に
『今のガキ、ヤバくないか?』
『・・・ひぇえ・・・おっかねぇバケモノだ』
『アレは成長するとかなりの美人に』
『人間止めてないか?新人だよな』
ルミナが去った後のギルドは興奮冷めやらぬ様子でざわついている。
「やっぱり私は化け物。何者にだってなれやしない」
化け物だ何だと好き勝手騒ぐ声を聴きながら、ルミナはふふふっと昏く嗤った。
涙はもう出なかった。
ルミナは盗み聞き用の風を操る魔法を解除して、青い空を覆い隠すようにカーテンを閉め切った。
ルミナが選んだ宿は、カーテンさえ閉めれば昼間であっても日光が一切届かない程、分厚いカーテンを使用している。
どんな色も、全てを飲み込む真っ暗闇。
どんな時も、黒だけがルミナの味方だった。
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