第13話 装置改良その2&部活禁止令

 放課後




「じゃあ、僕部活あるから」


「うん。また明日ね」




 日熊さんに別れを告げ教室を後にする。


 さて、部活動の時間だ。


 部室に着くと、既に部長の姿があった。




「あれ、装置の様子変わってない?」




 装置を見ると、周辺のコードの散らかり具合が前よりもマシになっていた。結束バンドで固められていたり、ホースに入れて見えないようにしていた。


 その代わり、サーバー用PCに刺さっているコードの本数自体は増えていた。


 なぜか、一部は窓の方まで延長され、端の方から外壁へと延びていた。




「ちょっと装置を改造してな。非常用電源を用意した」


「非常用電源?」


「ああ。前はスマホから装置の電源オンオフを操作できるようにしたけど、それだとブレーカー落ち対策にはなるけど、実際にブレーカーが落ちた時は対応出来ないだろ?他にも、停電とかで装置に電気が送られない可能性がある。その対策として、屋上に発電機を設置して、電気が落ちた時に自家発電できるようにした」


「は?」




 屋上に発電機を置いただと?


 屋上は生徒は立ち入り禁止で入り口に鍵が掛けられてるはずだ。一体、どうやったんだ?




「ふふふ。その顔は『どうやってそんな事をしたんだ』と疑問に思ってるだろ?」




 笑いながら答える部長。僕の疑問は彼の予想の範疇だったらしい。




「そりゃそうだよ。屋上の鍵は閉まってるはずだろ?どうやって設置したんだよ」


「これがあれば鍵など無意味だよ」




 そう言いながら部長がポケットから取り出したのは一本の鍵。




「何それ?」


「マスターキーだよ。これがあれば学校中どこのドアも自在に開錠できる」


「なんで、そんな物持ってるんだよ……」


「友恵が昔、職員室から拝借してな、こっそり合鍵を作ったんだよ」


「元部長なにやってるんですかねぇ……」




 そんなの窃盗、犯罪だろ。部長も元部長も時々ヤバい行動を平気な顔をして実行するからな。彼、彼女の神経が僕には信じられなかった。


 というか、マスターキーって盗まれたらかなりマズイだろ。この学校のセキュリティーリティーもガバガバすぎて怖くなってきた。




「で、卒業した時に部長である俺に引き継がれたわけ」


「でも、発電機なんて屋上においてあったら不審すぎだろ。見回りの先生に見つかったら一発でアウトじゃないか?」


「ごもっとも。だが、それも対策済みなんだよなぁ。エアコンの室外機に偽装してあるから、外から見たら発電機に見えない。室外機って、大きな排気口もあるから、排熱処理もバッチリ。コード類も、部室から排水溝のパイプの裏を通して配線してるから、正面から見ても絶対にバレない。な、俺、かしこいだろ?」




 ほめて、ほめてと言いたげな部長。


 確かによく考えられてるよ。常人の僕には発想すら思いつかなかったね。


 だが、その努力と知恵をテスト等別の事にも使うべきだと思う。だから、ここはあえて何も言わないでおこう。




「で、今日も異世界探索するのか?」


「俺の努力は無視かよ……まあ。いいけど。一応しようかと思ってるけど、今日のメインは自家発電の作動テスト。装置の改良に時間が取られてて、騎士対策の方はまだ全然できてないんだ。だから、今日は村までは行かずに、草原と森をうろうろして、スマホから装置がきちんと作動するかやってみる」


「ほい。分かりました」




 さて、異世界探索の準備を始めよう。


 外靴に履き替えて、飲み物やカメラなどをリュックに詰める。


 部長はサーバー用PCを操作して、装置の起動準備を始めた。


 だが、ここでアクシデントが起こるのだった。




「まずい。誰か来た」




 机の上の人感センサーが反応。


 廊下に誰か来た事の証だ。




「清。早く外靴脱いで隠せ。俺は装置の方なんとかするから」


「ああ」




 言われた通り、靴を素早く履き替えて、部屋の隅に放り投げた。


 部長もサーバー用PCにダンボールを被せ目隠しする。


 いくら部活道とはいえ、勝手にパソコンを持ちこんでいるのがバレればマズイ。会長が見たら怒り狂ってしまうだろう。


 そうして数秒後ノック音が走った。




「ごめんくださいませ」




 この声は会長だ。




「(どうするんだよ部長)」


「(用件だけ聞いてさっさと追い返す)」


「はいはい。今出るよ」




 あからさまに嫌そうな声を上げながら、扉を開く部長。




「ごきげんよう。その様子だとちゃんと部活動をしてるようですね」




 ドアは最小限しか開いていなかったが、隙間から中を覗いた会長からは、机の上に乱雑した設計図やニッパー等の工具が見えたらしい。それで、僕たちが真面目に部活をしていると思ったのだろう。


 確かに真面目に部活動はしてますよ。まさか異世界探索をしているとは思ってないだろうが。




「で、何の用だ。須川」


「あら、人がせっかく親切に忠告に来てあげたのにその言い草は何?」


「忠告だと?」


「ええ。今井、この間の約束は覚えてますか?」


「は?約束?」




 多分会長が言ってるのは、部長が次のテストで赤点を取ったら廃部になるという話だと思う。


 部長、まさか大事な約束なのに忘れてるのか?




「ほら、部長。赤点取ったら廃部になるってやつ」


「ああ。あれか。すっかり忘れてたわ」




 やっぱり忘れてたのかよ。部活が出来なくなったら、異世界探索も難しくなるだろ。しっかりしてくれ。




「あらあら、そんな様子では廃部まっしぐらですね。先生方から話を聞けば、授業中でも最近居眠りを頻繁にしているとか」


「うるせえな。テストなんて一か月以上先の話だろ」


「……いや、部長。期末テストまであと二週間とちょっとしかないよ」


「へ?おいおい、冗談キツイよ」


「冗談を言ってるのはあなたの方ではないかしら?」




 会長がポケットから取り出したのは学生手帳。後ろのページの方はカレンダーになっていて、年間の行事予定が書かれていた。




「今日がここだから……あと十七日しかないですね」


「……」




 黙り込む部長。みるみる顔が青ざめてくる。


 おい、何とかしてくれよ。部長のせいで廃部になったら、俺まで帰宅部の身になるんだぞ。巻き添えは勘弁してくれ。


 弱気になる部長を見てか、会長はニヤニヤと笑いながら、




「あらあら。どうやら、かなりマズイ状況みたいですね。とはいえ、私だって鬼ではありません。今井が赤点を回避できるようにサポートでもしてあげましょう」


「サポート?」


「ええ。通常、拘束ではテスト一週間前は部活動禁止となり、自学自習に励むようにと記載されています。とはいえ、今井が赤点を回避するには、今ぐらいから勉強しないと間に合わない。いや、今からでも遅すぎるかもしれない。という事で、今井の為に科学部は今からテストまで生徒会権限で部活禁止とします」


「はぁ!?」


「だって、今井はこうでもしないと勉強しないでしょ?だから、これは私からのサポート。ありがたく思いなさい」


「そんな……横暴すぎるよ……」




 新作の装置を試したかったのか、活動禁止を宣告されて落ち込む部長。


 僕も悲しかったが、でもこれで良かったかもしれない。キッカケがなかったら、部長が文系教科なんて勉強する機会がないだろう。下手に異世界探索に注力して、勉学が疎かになれば、後々首が絞まる。それならば、今多少我慢する事で後が楽になる。


 異世界探索なんて、急いでやらないといけない事でもない。ゆっくりのんびり進めていけばいいのだ。




「ほら、部長。元気だしなよ。今我慢すれば、廃部になる確率は下がるんだしさ。ねっ?頑張って勉強しようよ?」


「ぐぬぬ……」




 部長は、悔しそうな顔をしていたが、また会長が活動停止と書かれた紙をちらつかせると大人しく荷物をまとめ、退室の用意をするのであった。








「ほら、これでいいかよ」




 部室を施錠すると、鍵を会長に渡す部長。


 正規の鍵がなかったとしてもマスターキーを持っている以上、入ろうと思えば入れるのだが。




「では、確かに。今井、しっかりと勉強するんですよ」


「へいへい。じゃあ、清行こうぜ」


「あ、ああ」




 態度は悪かったが、大人しく指示に従う部長であった。




「あ、最後に米山さん」


「はい?」


「日熊さんとお付き合いされたそうですね。おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」




 なんで知ってるの?


 会長は僕らとは違うクラスだろ?




「教室で大々的に告白を受けたと学校中で話題になってますよ」


「マジかよ……」




 視線に晒されるのは苦手なのに、皆が僕の事を話の種にしてるってことだよな。勘弁してくれ……まあ、告白してもらえた事自体は素直にうれしいのだが。




「くれぐれも清く正しい交際をお願いしますね」


「は、はい。もちろん」




 適当にあしらいつつ、僕と部長は昇降口へと向かう。

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僕と部長の異世界探索 @katatani_manabu

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