第7話酔ったように生きて



したたかに痛飲した。


慣れるまでは酸味の気になる濁った酒だったがだまし餅と一緒に呑み呑みすると中々に乙な味だった。


そして交代で村を手燭を持って見廻る。



「おらは竹蔵や。きんのはぶって悪かったわ」

俺の廻る班には俺を殴り飛ばしこの村に「連行」した男、竹蔵が居た。


手にはボロいが長槍をぶらぶらさせている。


「あー、大丈夫だよ。気にしないで」

正直俺は竹蔵が怖かった。

だが話しながら村を廻ると不思議と酔いもあり、気心がしれてくる。

更に四十代にも見える竹蔵が同じくらいの年だと分かると何だか気安くなり、あっという間に見廻りが終わりに差し掛かる。


「おらが気になるちゃ…」

竹蔵は少し困った様に言った。


「和尚ま達には言わないよ」


「ほんまけ!」

竹蔵の声が弾む。

多少気安くなったとは言え、俺は丸腰で竹蔵は槍持ちだ。

元々豪胆ではないから相手が何を求めるかは分かる…類だと自分で思う。


夜廻りを監督している根来が俺と竹蔵だけで夜廻りに出したのは恐らくはこの「手打ち」を望んでの事だろう。


竹蔵はアガリビトの時にも率先して戦列に加わった。

「勇敢」なのだろう。

その竹蔵が俺に少しおかしな態度を取るのをあの根来が見逃しはしない。

多分和尚まから俺を連行したのが竹蔵と仲間達だと聞いてもいたろう。


そして恐らくは俺が「折れる」事も。


「あんまはいい奴や!」 

バシバシと俺の背中を竹蔵が叩く。

俺の持つ手燭が揺れる。


揺れた手燭がぶれて山側を照らした。



「ヒッ!」

俺は声を出した。


照らされた山側の木の一つに何かが「ぶら下がって」いる様に見えたからだ…


慌てて手燭を逸らす。


「気にすんな」

グイと竹蔵が低い身長から無理に俺と肩を組む。


(あんま見んなや)

竹蔵が耳元で囁く。


(もうすぐ広場や。それまでしょんべん漏らしてもそっち見んな)


何かがぶら下がる木々の側を通ると


バッサバッサ…


葉擦れが煩くなる。


竹蔵は鼻歌を歌いながら俺の肩を更にその音から逸らす。



股間が温かくなる…



俺は漏らしながらも声を上げずに通り過ぎた。



「チッ」


木の上から舌打ちが聞こえた。



広場が見えて篝火が明るい。



俺はアガリビトと対峙した時の様に縮み上がっていた。

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架空もののけよもやま話 太刀山いめ @tachiyamaime

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