第6話夜会


「アガリビト」


俺が聞いたのはもうかなり昔の話としてだ。

21 世紀初頭にインターネットで「怪談話」や「洒落怖」として様々な話が散見されていた。


そのうちの一つ。



もう何番煎じもされていて最後はどうなったかわからなくなったのでその話を追うのを止めた。



だが確かに「アガリビト」は存在したのだ。



根来は多分鉄砲撃ちだ。


それも正確に三発も当てた。


だけれどもヤツは倒れずに襲いかかる寸前だった。


人間離れしているタフネス…



そして特徴的なのが「鳴き声?」であろうか。


口を引き結び、「ンー」と言うそうだ。



今日遭遇したアガリビトは正しくそれを踏襲していた。



そして「投石」


初期のアガリビトの記述には、特に殺気なども無く、大ぶりの石で頭を狙ってきた様な話があった。


アガリビトは人間を殺すのだ。





「あんまも、もっと呑まんけ」


思考に沈んでいた頭をしわがれたガラ声が浮かび上がらせた。


「きんの(昨日)は打ってすまんかったのぉ」

俺の隣には、「第一村人」と言っていいのか日焼けした男が腰掛けていた。


「まま、呑まんけ呑まんけ」

そう言いながら素焼きの碗に黄みがかった液体を注いで俺に渡す。


もう何人目か分からないがその液体を碗に注いでよこす。



俺は覚悟を決めてぐいとソレをあおる。


酸味の強い濁った味だが「酒」である。

俺の持ってきた酒より度数が低く、雑味も強い。


だが、村人達はそれを喜んで呑む。



今は村の開けた場所で篝火と焚き火を焚いて「戦勝会」と言う名の「夜ふかし」である。



「ええ呑みっぷりやな、あんま」


そう言いながらまた日焼けた女が「餅」を出してくれる。


「『だまし餅』だけんど寝ずの番には力餅になっちゃね」


だまし餅


本当は『婿騙し』と言うそうだ。少ないもち米に黍や粟を混ぜて餅にする。

そうすると「黄色い」餅になる。

それを「白餅」と言って騙す為に夜の篝火等の灯りの下にだす。

すると不思議と黄色くても火の色だと思えて中々に美味しく食べられる。


昼近くに振る舞われたくすんだ粥よりよっぽど「ご馳走」なので酒より餅をつまむ。



「あんま、アガリビトに詳しいのぉ」


「いや、俺も…読んだだけで…」

昨日殴ってきた村人相手なので言葉を選ぶ…


和尚ま達が俺の身元を保証してくれた事と、日暮れ前にアガリビトを共に追いやった連帯感があり、村人達は懐っこくなってくれた。


そしてこの「夜ふかし」である。


夜ふかしは今回みたいな「妖怪」じみた事や足軽や賊が出た時に行う村総出の「威嚇行為」であるようだった。


そして役得として少しばかり贅沢が許される。


今回の夜ふかしの「目付け」は鉄砲撃ちの根来だ。


少しばかり安心し、餅と酒をまた交わす。



ここで「ドッキリ大成功!」となれば良いのに…




そう思いながら過ごした。

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