第8話「ちゃんと話せ」
第三講義室で昼飯を済ませ、机に突っ伏して昼寝をする羽沢を置いて、俺と堀宮は教室を出た。別に用事は無いのでクラスに戻ってスマホゲームでもしようかと考えていたところ、隣を歩く堀宮が羽沢の話を切り出した。
「希崎君…、よく羽沢君と一緒に居るよね。凄いな」
「え、凄いって何が?」
確かにあいつ取っ付き難いかもなと思いながら、俺は胸元のリボンをいじる堀宮の言葉に反論する。
「別に、電車も同じ駅だし、普通に話すようになっただけだけど」
「羽沢君が希崎くん以外の人と居るところ、高校に入学してから私見たことないよ。断言できると思う」
確かにあいつ友達居ないかもなと思いながら、それでも俺は控え目に胸を張っている堀宮の言葉に反論する。
「そうなのか?それでも流石に俺以外と交流が無いって事は無いだろ。あいつちょっと取っ付き難いところあるかもしれないけど…。堀宮、確か中学一緒だよな?あいつ、なんか嫌われるような事したの?」
そう聞くと堀宮は慌てて「え?ううん!それは違うんだけど!」と、両手を胸の前で降った。そして「そうじゃ、なくて」と、言葉を続ける。
「そうじゃ、なくて。多分、羽沢君の方が皆に近づかない、って言うか、遠ざけてるって言うか…。中学で話した事ある人の事は、特に。だから今日、普通に話せた事が私的には結構衝撃的だよ。…希崎君、羽沢君が中学の時に付き合ってた、吉川さんって、知らない?」
「ええ!?あいつ彼女居たの!!?」
思わず大きな声が出た。堀宮があわわわ…と周りの目を気にしているが、それどころではない。
そんな。まさか。あいつに先を越されてたのか、俺は…!?確かにあいつ、なんか斜に構えてる感じが女子受け良いかもしれないけど!でもあの生活態度だぞ?怠けたライオンだぞ?無理だろ!いやむしろライオンだからなのか!?一夫多妻の王者なのか!?だとしたら俺はさしずめ、縄張り争いに負けて群れの雌を全て奪われた敗者という事なのか…!?
「あ、でも中学の時にって事は、もう別れてんのか…」
俺が冷静になると、堀宮もホッと胸を撫でおろしたようだった。なんだかさっきから俺が堀宮の胸にばかり注目しているような描写ばかりが続いているが、決してそんな事は無い。
「あの、別れてるっていうか、その…ね」
堀宮は歯切れの悪いテンポで言葉を続ける。
「吉川さん、中学校の卒業前に、自殺してるんだ」
「…え?」
「だから、別れたっちゃ別れたんだけど、死別、なんだよね。表現があっているかは、分からないんだけど…。それ以来、羽沢君あんな感じで、誰とも話さなくなっちゃって。だから希崎君、どうやって仲良くなったのかなぁって話、友達としてて…」
隣で話し続ける堀宮の言葉は、もう俺の耳には入っていなかった。
羽沢の彼女が、自殺している?
「…あいつ、マジで腹立つ!!」
「え!?ちょ、希崎君!?」
俺は堀宮を置いて、走って第三講義室まで戻った。
〝羽沢君が希崎くん以外の人と居るところ、高校に入学してから私見たことないよ〟
バカか、俺は。
話を聞いてくれるのを良い事に。
彼女が自殺しちまった友達に、自分の家族が自殺するなんてボヤいてたのか。
あいつ、どんな気持ちで聞いてたんだ、俺の話を。
なんで俺なんかとつるんでたんだ。
意味わかんねえよ!
俺は乱暴に、第三講義室のドアを開けた。
しかしそこにはもう、あの怠けたライオンの姿は無かった。
なんなんだ。どいつもこいつも。
「何でみんな、大事な事、ちゃんと話さねえんだよ…!」
俺は何より、愚かな自分自身に、腹が立って仕方がなかった。
自殺宣言 44 @Ghostshishi
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