第13話

 『まず家族についてだ、俺の家族は両親と妹が1人の4人家族だった、妹は俺と3つ離れていた、当時俺は6歳、妹が3歳の頃だ、比較的普通の家族だったよ。問題の出来事は家族4人でピクニックに出掛けたことだ、あの街の近くの峠に車で向かっていた、その日は途中までは晴れていたんだ。だが峠を登り始めてすぐ、濃い霧が出てきた、父は慎重に運転をしていたが、その霧は一向に晴れる気配もなく、ゆっくりゆっくりと進んでいた、その時だ、道のカーブに気付かず俺達は車もろとも崖下に転落した。その時だった、俺が才能に目覚めたのは、落ちていく瞬間俺は咄嗟に【助けて】と叫んでしまった。その声を聞いた家族達は落ちていくその中で我が身ではなく俺だけを助けようとした、3歳の妹ですらだ。その甲斐あってかは分からないが不幸な事に俺だけが助かった。事故現場を見たわけじゃないから絶対ではないが、搬送されたあの街の医師の話では救急隊員が駆けつけた時に息があったのは俺だけだったとの事だ。そうしてあの街に俺は来たというわけだ、そして病院で治療を受けながら俺はあの時に目覚めたこの才能の使い方を学んだ。この力を学んでいる間に病院の中の人間は全て俺の洗脳にかかっていた、その時だ不妊で悩んでいる夫婦に出会ったのは。俺は天涯孤独の身になった、そしてその俺の目の前に子供を欲しがる夫婦、俺は彼らの子供としてこの街で生きていこうと決めた。時を同じくしてこの力の欠点にも気付いた俺はその日から街中の人間にとある洗脳を施した。』


 「欠点?」


 『あぁ、お前も実際に見た光景だ、あの時栞の身に何が起きたか忘れたわけではないだろう。俺の洗脳の欠点、それはある一定以上の恐怖だ。この欠点に気づいた時まだ俺は病院に居た、病院にくる患者に洗脳をかけ力の使い方を学んでいた時だ、以前、洗脳をかけた男が急患で運び込まれてきた、交通事故だった、その男を見た瞬間俺は気付いた、男の洗脳が解けていることに。流石に驚いたよ、実際洗脳が解けた所を見るのはその男が初めてだったからな。自分の力が尋常じゃない事にも気付いていたからこそ余計驚かされた、そして俺は慌ててその男が何故洗脳が解けたのか調べたよ、そうしたら解けた瞬間は事故直前だと言うことが分かったんだ、そこから色々と試した結果、さっき話した通り事故の直前にその男が死を感じ恐怖が一定の値を超えた、それが原因だと突き止めれたのだ。』


 「待ってくれ、それが本当なら僕の家族の時はどうなるんだ、正しく死の恐怖を感じている最中だったはず、だけどお前は家族に洗脳をかけたと言った、これはどういうことなんだ?」


 『あぁ、俺もそこは当然気になった。俺が見つけた洗脳を解く条件が一定の恐怖ならあの時何故家族に洗脳出来たのか、色々考えたが分からなかった、だが仮説を一つ立てることは出来た』


 「仮説?」


 『俺がこの力に目覚めたのがその時だったという事が1番の要因だという事だ、つまり覚醒したてのこの力がその瞬間は通常解けるはずの恐怖を感じている人間すら洗脳してしまえるほどの力になっていたと考えれば辻褄は合うのだがあくまでも仮説だ、勿論その後色々な人間に試したがやはり一定の恐怖で洗脳が解けてしまい、その時を再現することは叶わなかった。そこから約1年街中の人間に俺がこの街の人間だという事、そして恐怖を感じ洗脳が解けないように犯罪や事故を起こさないようにといった洗脳をかけて回った。その1年でこの力を色々試したがそれでもまだ全てを把握することは出来ていなかった、つまり、俺達の持つこの洗脳という力は簡単に洗脳が出来るだけの力とは考えない方がいい何か未知の力として認識すべき力だ。そして最後、何故俺とお前、2人の人間が出来上がったのかを教えよう』


 とうとう、僕が感じていた最大の疑問、何故僕にもう1人の人格のコイツがいるのかその謎が明かされるとあって思わず息を呑んだ。その反応を見てニヤリと笑いながらそいつは口を開いた。


 『俺たちは先ほども言った通り街中に洗脳をかけて回った、そして最後の詰めとして俺たちが誤ってまた洗脳の力を暴発させないように自分自身に洗脳を施そうとした。この力を忘れ普通の人生を送るようにするためにな。しかし、その時だった、大きな誤算が生まれた、そうそれが俺たち2人の人格の誕生だ、片方は俺、洗脳や全ての事情を知っている状態の人格もう一つがお前だ、今までのことを全て忘れ狙い通りの状態になった人格、だが俺が残ってしまった、本来なら俺はその時消えるはずだったんだ!だが消えずにただ二つに分かれた、だから俺はこうしてお前の中に閉じ籠りそこから先の人生を任せることにした。だが、今となってはそうもいかなくなった為にこうしてお前と接触する事にした、これが今日までのお前の全てだ、そしてこの話をお前にする時に決めていたことが一つある』


 「それは一体何だ?」


 僕はもう1人の自分が何を考えているのか分からず素直に尋ねた。


 『それはこの瞬間から、少しの間俺がお前の代わりに表に出るということだ。何、別に乗っ取るってわけでは無い、ただ現状俺とお前どちらが表で舵を握ったほうがいいかは火を見るより明らかだろう、だから暫しの間俺の中で眠れ』


 そう言われた瞬間僕の意識は暗闇へと落ちていった。

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才能 倖村 @yukimura224

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