第2話 守られた未来

 20XX年。

 

 世界を絶望と混乱に陥れた◯◯感染症は、各国の精鋭が集められた特別チームが開発した特効薬によって撲滅され、世界には再び平穏が訪れた。


 夫の命日。

 私はひとり墓地へ出かけ、墓の脇に植えた紫苑の花に水を遣り、線香をあげる。

 目を瞑り、夫と話しをしていると遠くから人の気配がして、花束を抱えた美女がやってきた。

「おばちゃん、何で呼んでくれなかったのよ」

「いや、だって実花ちゃん、忙しいと思って」

「この日は特別。今までだってちゃん来てたでしょう。それに薬は私達の手を離れて世界中で作られているからもう大丈夫よ」

 研究室にいても最近はマスコミが鬱陶しい。そう言って実花は笑う。

 笑った顔はとても夫に似ている。


 姪の実花は、医者ではなく医学博士になった。

 そして、世界を救う特効薬の開発に成功したのだ。

 世界の救世主は、今片田舎で夫の墓に手を合わせている。



 ほら、僕は言った通り、ちゃんと君のことも守っただろう?


 そんな夫の声が聞こえた気がして、私は背丈ほどの紫苑の花に、そっと唇で触れた。

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紫の花に口づけを 碧月 葉 @momobeko

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