第20話『聖』の声

 「うう......」


「あ、ガルザ先輩! 動かないでください!」


揺れる馬車の中、ガルザは体を少し起こして、周りを見渡す。


「君たちは...? それに、此処は...」


「コードの友人です、ここは馬車ですよ。 中等部と怪我人は馬車でヒルガメスまで撤退することになったんです」


「そうか... 間に合わなかったんだな、僕は...」


そう言ってガルザは俯くが、あることに気づいてジード達へ質問する。


「コード君は? 見当たらないが...?」


「...森の中にいる、もう1人の友達を探しに行きました」


「そんな...... 森の中には、竜が...」


竜は物語の中でも強すぎると言えるほどの力を持つ。

そんな生物に生身で出逢えばーー死しか無い。


ガルザはさらに深刻な顔をして俯いてしまう。


「それでも、俺たちは信じてます。 あの2人が帰って来るのを...」


(ティア、コード... 生きて、帰ってきてくれ。 信じてるからな......!)



少し時間が経ち、馬車がヒルガメスに到着し、ヒルガメス内の騎士団に情報に伝えられた情報、

竜の居場所、残された高等部の人数、そしてーー


「アルカトラとコードが取り残されていると言うのか、生徒会長...!?」


「...っ、はい...」


残された中等部2人。


これらの学生達を救助し、竜がヒルガメスに来ないように討伐する司令の為、騎士団から急遽討伐隊が作られ、クロム森林へ出発した。



「ねえお兄ちゃん、大丈夫かな...」


「...今の俺たちには、待つことしかできない。 まぁ大丈夫だ、その気になれば蒼空スカイブルーなんかの魔法で逃げてくるさ」


そうやって話す兄妹の上を、鳥が飛んで行く。


「うおっ! ...何だ、アレ」


その鳥は、魔灯騎士マジックリッターほどの大きさで、槍を持ち、魔灯騎士マジックリッターより速い。


「アレは......」


地上の人間には目も向けず、巨大な鳥人はクロム森林へと飛んで行くーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ハアッ、ハアッ、ハァッ......」


森林内、竜と相対するティアは過呼吸になるほど魔灯騎士マジックリッターでの戦闘に興奮していた。


(凄い、凄い凄い!!)


双頭による噛みつきも、火球による攻撃も、盾や剣で受け流し、カウンターする。


(もっともっと、速く強く動け!)


その戦いぶりは、今まで脳内で繰り返した魔灯騎士マジックリッターの操縦、それを完璧に現実とするまさに天才的な動きであった。がーー


「うわわっ?!」


噛みつきを避けようと足を地面に踏み込んだその瞬間、サンウルファムの脚部が限界を迎え、崩れ落ちる。

本来、魔灯騎士マジックリッターはティアの操縦のように攻撃を避けて反撃するのでは無く、盾で受け、相手に組みつき戦う機体。

ティアのやっていた戦法は、魔灯騎士マジックリッターと真逆を行っていた。


「おい止まったぞ!?」「レルガナ先輩は黙って!」


その隙を逃さず、竜はサンウルファムへ首を伸ばす。


「やらせるかァァァァア!!!」


何処かから杖が投げつけられ、不意を突かれた竜の動きが止まる。


「喰らえェェ!!」


その後、森の中からコード...黒い魔灯騎士マジックリッターが現れ、投げつけた杖を空中で掴み柄を生物の1番柔らかい部分、目へ突き刺した。


「ギュオァァァァア!」


竜は激しく暴れるがーー


「せェい!」


目から杖が引き抜かれ、もう1つの目へと杖が刺される。


「このまま......!」


そのまま、根元まで突き刺さそうとするが、

べキィ、と木の乾いた音とともに杖が根本から折れる。

鉄で作られた剣ならまだしも、木でできた杖では頭を破壊するには至らず、耐久が限界を迎えた。


竜は使い物にならなくなった頭を引きずりながら、怒りのままに叫ぶ。

傷など付けられたことは無く、ただ本能の叫ぶままに喰らってきただけの竜にとって、この痛みはプライドをズタズタに引き裂かれたのと同じだった。




「ぐうッ!」


竜の叫びに怯みながら後ろへと飛び、コードは竜と距離を取る。


「双頭の竜...... やはりか!」


今目の前にいるのは『歪』、アジダハーカ。

前に本で読んだ、聖獣である事にコードは気づく。




「ガルザのメディウール...! やっと来たんだね! 此処はガルザに任せて、一旦撤退するよ!」


アンはメディウールに乗っているのがコードと知らず、アジダハーカを任せて、騎士団と共に撤退する。


(こいつは甲殻が硬過ぎる! 狙うならさっきの様に頭!)


コードが作戦を考えながらレバーを動かしていると、

急に人の声が聞こえる。


「おーい!! そこの魔灯騎士マジックリッターの方! 協力してください!」


サンウルファムの搭乗席から頭を出したのは、ティアだった。


「ティア!? 此処にいたか!」

「では行きます!」


ティアは言いたいことだけ言うと頭を引っ込め、もう1つの傷ついていない頭へ向かって行く。


「ちょっ、待て!」


それを追いかけるようにコードも向かう。

向かってくるティアとコードを殺し、喰らうためにアジダハーカは首を振り回して吹き飛ばそうとするが、


「ふっ!」


避けられる。

ならば、と噛みつきを行うがーー


「この程度...!」


剣によって受け流される。


「ゴアァァァァア!!!!」


苛立ちが頂点に達したのか、アジダハーカは火球とは違うレーザーの様な魔法を放とうと魔力マナを溜め始める。がーー


空から現れた白き影によって、その魔法が放たれることはなかった。


「ゴアァァァァアァァァァア!!??」


それは一瞬だった。

白き鳥の巨人が刹那のうちに、手に持った槍で目の潰れた方の頭を貫いたのだ。


魔法が中断され、高濃度の魔力マナが周りに飛び散る。


「何が起こった......?」

「......」


あまりに突然の出来事に、ティアもコードも反応できない。


魔灯騎士マジックリッターで彼に傷を負わせるとは...... 大した人達だ』


「「喋った?!」」


(と言うか、この言葉...)


コードには分かった、この巨人が話す言葉はーー


「ァァァァアァァァァア!!」


鳥の巨人、フレズヴェルクを見たアジダハーカは更に怒りを強くする。


「...取り敢えず、頭は一つになった! なら、あの作戦が使える...!」


そう言うと、コードは残った頭へと突撃する。


「うおおああ!!!」

「ガアッ!!」


それを待っていた、と言わんばかりに噛み付かれるが、噛み付かれる直前で機体を回転、機体の背部に着いているタンクに噛み付かせて高濃度の魔力マナ

を充満させる。


「これなら...!」


コードは搭乗席から脱出して、右掌を左拳で叩きヴォルカ穿槍ペネトレイターを発動する。それは今までのヴォルカ穿槍ペネトレイターとは違いーー


魔力マナが高濃度ならそれに比例して魔法も強くなるはず。 この理論ならーー)


貫通力の増した、焔の豪槍と化していた。


「貫けェ!」


無防備な頭へとヴォルカ穿槍ペネトレイターが突き刺さり、脳を貫通してーー


『......』


『歪』と呼ばれた聖獣、アジダハーカはその命を終えた。


「ゼェ......ゼェ...」


戦いを終え、静寂に包まれた森でコードは息を整える。


(あ......血が......)


気付けば出血も多くなっており、もうすぐ気絶するほどに意識が朦朧としていた。


「コードー!」


遠くから、サンウルファムから降りたティアが近づいてくる。


(助けられただろうか? 生きてて良かった......)


だが今は、それよりも気になる事があった。


「フレズヴェルク!」

『......?』


(鳥の巨人、いや『聖』の聖獣、フレズヴェルク。

コイツが喋った言葉はーー)


コードはふんッ、と首に付けた首輪型翻訳機を千切りとる。


「お前の喋った言葉、俺の知る言葉と同じだな!?」

『!...... 何と...』


(やはりか......)


『......場所を変えましょう』



そう言われ、大きな手を差し伸べられる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「死ぬかと思ったぞ......」「死ななかったんだからいいじゃないですか!」


レルガナはぐでっとして倒れ、ティアは鼻血を手で拭いながらコードの下へ向かう。


「コードー!」


手を振りながらティアは歩いていく。


「コード...?」


(何か、あの鳥の巨人と話してる?)


不思議に思い、ティアは駆け寄るがーー


(手に乗った...? 空を!?)


コードと、だんだんと離れていく。


「ま、待って、行かないで...!」


(まだ、返せていない! あの時もーー)


『危ない!!』


蜥蜴型の魔物から、助けられた。


(今回のもーー!)


『やらせるかァァァァア!!!』


竜から、守られた。


(まだ、返せて、いないのにーー)


蒼空スカイブルーを使って飛び、追おうとするが

聖獣であるフレズヴェルクのスピードには追いつけない。


(やめて、私のーー)


「私の親友を、連れて、行かないでーー」



親友として、コードに助けて貰った恩を返したかった。


それだけの事も出来ず、ただ連れて行かれるコードを見てることしか出来ない自分をティアは、激しく、嫌悪した。

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紅き赫星のイラ @hikaritikuwa

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