第19話 逃走と、闘争

 背中を走る不快感に気づいてからは、早かった。


「伏せろォ!!」


『何かが、来る』、コードはそれを感じてジードとテトラに呼びかける。


刹那、


「ゴアァァァァア!!!」


衝撃と共に、魔物の咆哮がクロム森林を包む。


「うぉあ!?」「きゃあ!」


(ぐっ...... 凄い衝撃波だ!)


魔物の咆哮による衝撃波で飛んできた物が、ほとんど意識のないガルザへと向かって行く。


「...まずい!」


碧盾アルカシルトでは間に合わない...!)


咆哮によって萎縮する体を無理矢理にでも動かして、コードはガルザを庇う。


「ぐうっ...!」


咆哮が止まり、一瞬の静寂が訪れたのち、今度はパニックに陥った中等部の声と指示を出す教師の声が遠くから聞こえ始める。


『中等部の者は森林の外にある馬車へ乗り込め! 高等部と騎士団は魔灯騎士マジックリッターは乗り込み、咆哮がした方角へ向かえ!』


「大丈夫かコード!」「頭から血が...!」


飛んでくる物からガルザを庇ったコードは、頭部に飛んできた木片を受け、出血していた。


「大丈夫。多分...」


(頭が揺れる...... 痛い... フラつく...)


「テトラ、ガルザ先輩を馬車まで連れて行って。ジードも一緒に行ってあげて」


「お前はどうすんだよ?!」


「ティアを探しに行かないといけない。まだ高等部のキャンプ地にいるはずだ...」


そう言ってコードは歩き出す。


「ティアが高等部のキャンプ地にいるって保証はねえんだぞ?! もしかしたらもう馬車にーー」


ジードが止めようとするが、それでもコードは進む。


「いいや、あいつは魔灯騎士マジックリッターの所にいる」


「変な話、ティアはそう言うやつだって、してるから」


そう言ったと同時に、コードは左手の甲に右手で触れ、碧盾アルカシルトを足場として飛んで行った。


「......お兄ちゃん、馬車で待とう。 あの2人だもん。 絶対帰ってくる!」


「...そうだな。 友達が信じないで誰が信じるって話だしな!」


そうしてジードはガルザをおんぶしたテトラと共に、馬車へ向かう。


(生きて、帰ってきてくれ...!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「何だ!? 何の音だよ?!」


魔物の咆哮は、高等部キャンプ地で魔灯騎士マジックリッターを見ていたティアとレルガナの元にも届いていた。


「魔物の... いや、それにしては咆哮が大きい...!」


『中等部の者は森林の外にある馬車へ乗り込め! 高等部と騎士団は魔灯騎士マジックリッターは乗り込み、咆哮がした方角へ向かえ!』


教師の声が響く。


「なっ、あんな咆哮をする魔物と戦えだと?! 死ねと言う物じゃないか!」


「何言ってるんですか! レルガナさんは高等部トップの実力者なんですよね!? それならやる事は一つでしょう!」


「ぐっ、ぐうう...」


自分の命を取るか、名誉の為にどれほどの強さかわからない魔物に向かって行くか、レルガナは究極の選択を突きつけられた。


(自分の命を可愛がって逃げれば、私は敵を前に逃亡した腰抜け...... それだけは、嫌だ!)


「...よし! アルカトラ、サンウルファムに乗れ! 私の活躍を超、至近距離で見せてやる!」


「乗って良いんですか!! ありがとうございます!!!」


「搭乗席を見てもいいぞ!」


(ガルザが帰って来ない現状、私が気張るしかないのだ...! 意地を見せろ、レルガナ・ウォードラン!)


2人でサンウルファムへと乗り込み、向かう。

『歪』の待つ場所へと。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「第二陣、隊列を崩すな! 盾を吹き飛ばされれば焼かれるぞ!」


「後方部隊、魔法放て!」


数十体の魔灯騎士マジックリッターから、渾身の魔法が放たれる。がーー


「グゥゥウ......」


標的である竜は全く動じない。それどころか、


「ぎゃぁぁあ...」


魔法で盾を弾き飛ばし、双頭の頭で無防備な騎士を喰らって行く。


「何なのよこいつ...!」


今は高等部No.2であるアン・フィルカンと、ヒルガメスから護衛として付いてきた騎士団の働きによって押し留められているがーー


「うゎああああ!」

「あづい”あ”ツ”イィィィ”!!」


陣形の崩壊は時間の問題だった。


(ガルザとレルガナはどこいったのよ!! この大変な時に......!)


そう、アンが考えた時、


「すまない! 待たせたな!」


ティアとレルガナを乗せたサンウルファムが前線へ到着する。


「やっときた! おっそいわよバカ!」


「私の力を見せてやるぞ魔物よ! オォォォオ!!」


レルガナは到着するやいなや、隊列の中を突っ切って行こうとするがーー


「レルガナさんは馬鹿なんですか!」


「馬鹿だとぉ!?」


それをティアが止める。


「何でいきなり突っ込んで行くんですか?! もうちょっと考えてくださいよ!」


「何を言うか! 考えた末の突進だ!」

「もうどいてください!」


そう言ってティアはレルガナを蹴り飛ばし、操縦権を奪う。


「何をする!」

「もう見てられません!」


中の様子がわからないアンは、その様子を見て驚愕する。


「レルガナが、突進を止めるなんて...何があったの...?」


一方で、ティアは興奮を止められなかった。


(ああ、私は今、夢にまで見た魔灯騎士マジックリッターの操縦をしている...! このレバー、これで私は、この騎士を操っているんだ...!)

「ふ、ふふふ......」


「だ、大丈夫か、アルカトラ...?」


あまりの興奮にティアは鼻から血を出すが、本人は気づいていない。


「ゴアァァァァアァァア!」


停止しているサンウルファムを狙い、竜は左の頭で噛みつこうとするが、


「はッ、せえぇぇい!!」


牙を受け流し、ティアは剣を竜の首に斬りつける。


「むっ、硬いですか...」


刃は通らなかったが、その反撃は、竜のプライドを傷つけるには充分過ぎる攻撃だった。


「「アアァァァァア!!」」


竜は激しい怒りを表すように、2つの頭で吠える。


「ひいっ!」「負けませんよー... まだまだ魔灯騎士マジックリッターを操縦し足りないんですから......!」


闘争心を剥き出しにし、ティアは竜と相対する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「...クソッ...! いないか...」


コードは碧盾アルカシルトで高等部キャンプまで飛んできたが、すでにもぬけの殻だった。


「? 何で一機だけ......」


そこに一機だけ佇んでいたのは、黒色に青のラインが入ったカラーの魔灯騎士マジックリッター、名をメディウール。


「もしかして、ガルザ先輩の...」


今、高等部で魔灯騎士マジックリッターに乗っていないのはガルザしかいない。


「...オォォォオ!...」


遠くから、また竜の咆哮が聞こえる。


「...... 何か、ここにあった魔灯騎士マジックリッターにティアが乗っていったとしたら...」


時間が経ち、少し落ち着いた頭で決意する。


「ガルザ先輩、この魔灯騎士マジックリッター...... 借ります」


搭乗席に入り、受けた授業通りに起動する。


「よし...」


左右にあるレバーを握った瞬間ーー


ピシッ、とヒビが入ったような痛みと共に、


「がっ...!? あ...?!」


コードの記憶を閉じていた蓋が開く。


(何だ?! 俺は...! 魔灯騎士マジックリッターとは違うけど似ている、操縦の仕方も一緒の...)


機械パワード.....人形ドール...?」


意識を、現実へ戻す。


「ハアッ...!ハァ...! ......今は、ティアのところへ...!」


手慣れた動きでレバーを動かし、初めて乗った者には出せないスピードで、竜のいる、ティアのいる前線へコードは向かう。





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