第18話 訪れる異変
コード達がテントを設営している頃、ティアは高等部学生の
(やっぱり最高だ...! このフォルム!この重厚感! まさに全てに勝る芸術...!)
ティアが見惚れているのは、高等部でもトップの実力を持つ者だけが乗れるカスタム機。名をサンウルファム。
「そこの中等部! こんな所で何をしている! ...ん? お前は...ティア・アルカトラか」
ティアの背後から現れたのは、サンウルファムの搭乗者、レルガナ・ウォードラン。
「また見に来たのか...」
「はい!また来ました!」
呆れた様子でレルガナは言う。
何を隠そうティアには前科がある。
この3年の中で、5度も
その度に教師からのお叱りを受けていたが、今回めでたく6回目の侵入だ。これほど多くやっていれば、良くも悪くも顔を覚えられる。
「まあ、いい。 何だったらしばらく見ていけ。 減るものでも無いしな」
「ありがとうございます!」
そう言って頭を掻きながら、レルガナはその辺の大きな石に腰掛ける。
そうして、日は暮れていく。
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高等部の設営地から離れ、中等部の設営地へ急ぐ人影がある。ガルザ・カルマーニだ。
(中等部の教師の方と今後の予定について話さなくては......)
ガルザは1人、森を歩きながら考える。
高等部最強であり、生徒会長でもある彼は、高等部のリーダーとして、中等部と高等部のこれからの予定を中等部の教師と話し合おうと設営地を歩いていた。
(来ていたはずの先遣隊の姿が見当たらない。 場合によってはこの訓練を中止しなければーー)
「ツッシャアッ!!」
木から飛んできた何者かが、ガルザへと襲いかかる。
「ツッ!? ...何者だ...!」
ギリギリで攻撃を避け、剣を抜いて応戦する。
「今のを避けるか... い〜い食材だぁ!」
襲いかかって来た男がまるで軟体動物のように動き、
立ち上がる。
「名を名乗れ! ッ!?」
正体を明かすようにガルザは男へと叫ぶが、振り返った男の付けた仮面を見て、戦慄する。
(血塗りの、仮面......!)
「名前ェ? ...言うなって母様に言われてっからよお、ヒントだけ出してやるぜ」
そう言ったと同時に、仮面の男は全身を筋肉のようにしならせ、一瞬でガルザの懐へ潜り込みーー
「暴食、だ」
ナイフをガルザの右腕に突き立てた。
「がっ...?! あ”あ!」
苦し紛れに剣を振るうが、先程と同じ動きで避けられ、ガルザの剣は掠りもしない。
「もう、いっ、ちょ!」
更にスピードを速めて、今度は左太ももへナイフが突き刺さる。だが今回は、
「あり?」
反撃が、実る。
ガルザの剣線は仮面の男を捉え、男の片腕を落とした。
「...いいねえ騎士サマ! これぞ命を掛けて喰らいあってる、って感じたぜ! ヒャハハ!」
それでも仮面の男は笑いを消さない。
「ぐうっ...」
剣を杖のように使いどうにか立ち上がるが、残った力は微かなもの。
ガルザは、死を覚悟する。
「俺と食い合えたのは騎士サマが初めてかもなぁ! 楽しませてくれた代わりに、命は喰わねえでおいてやるよ。兄貴を喰うまでの楽しみが出来た。」
「え...?」
「あとこの森な、バカクソでけえ竜?がいるから気を付けろよ。 でけえ騎士サマ集団全員殺されたからな!」
仮面の男は言いたい事だけ言って、ガルザに背を向ける。
「おっと忘れてた!」
踵を翻し、今にも倒れそうなガルザへと近寄る。
「騎士サマ、名前は?」
「は......?」
「名前はって聞いてんの!」
先程まで殺し合っていたはずの敵が、殺そうとした自分の名前を聞く。
余りにも可笑しな状況を、ガルザは理解できなかった。
「ガルザ...... ガルザ・カルマーニ...だ......」
切れそうな意識で自身の名を伝える。
「覚えとくぜ、ガルザ兄! 俺が来た事、
そう言って、仮面の男は消えた。
(伝え...なくては! 先遣隊は、あの話を信じる限り壊滅している。 竜......伝説の生き物がいると言うのなら、みんなに逃げるように言わなくては...!)
ガルザは傷ついた体を引きずりながら、仲間を助けるために中等部のキャンプ地へ向かう。
生徒会長としての役目を果たすために。
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「静かだねー...」
「ああ、静かだ...」
一方、中等部キャンプ地ではやることが終わり、暇を持て余していた。
「ティアは結局どこいったんだよ?」
「高等部の
茶の入ったカップをすすりながら、他愛のない話をする。
「よいしょ! 食べれる木の実取ってきたよー!」
木登りをしていたテトラが帰ってくる。
これだけ運動が出来て、力も強い。 これで料理もそれなりに出来るんだからずるいよな、とコードは思う。
「ありがとな! 煮込んでスープにするか?」
「うん! 夕食はスープだよ!」
「じゃあ、ティアを迎えに行かないとね...」
そんな平穏を形にした会話は、唐突に壊れていく。
ガサッ と言う音と共に、人が現れる。
「ハァー... ハァー... 君...達..先生を呼んでくれ...」
「きゃあ! 誰!?」
「この声...まさか!」
聞き覚えのある声に気付き、現れた人にコードは駆け寄る。
「ガルザ先輩!」
「あ?...ああ...コード君......久しぶりだね...」
(傷が深い...! 何があったんだ!?)
「テトラ! 救急箱!」
「う、うん!」
応急処置をどうにかあるもので行い、寝かせる。
「これで、よし...!」
ガルザはうわ言のように同じことを言い続ける。
「逃げて、逃げてくれ... 先遣隊は全滅した... 竜が、いる...」
「竜...?」
「竜って伝説の生き物だろ? 今は絶滅した...」
「いや、一体だけ生きている」
そう、竜は生きている。
自らの死を恐れ、他へ死を振り撒く、『歪』として。
「ジード、先生探して呼んできて! 先輩の状態を報告しなきゃーー」
「「「ッ!?」」」
背中に走る不快感。
それを感じ取ったのは幸か、不幸か。
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「はぁぁぁぁあ...!」
「そんなに見て飽きないのか...?」
「飽きませんよ!! 何だったら飽きないポイントを解説...」
ティアとレルガナは未だにサンウルファムを見ていた。
「にしても遅いな...? もう帰ってきてもいい頃だが」
「誰か待ってるんですか?」
「生徒会長をな。急いで中等部キャンプ地に行ったんだが、まだ帰ってこない」
「それは心ぱーー」
不快感を、ティアも感じ取った。
「ッ! ...これは...!」
「何だ?どうしたアルカトラ?」
何もわからないレルガナはティアに質問する。
「何か... 来ます!」
今再び、『歪』が目覚める。
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