第17話 『歪』、来たる

 コード達がクロム森林へ到着する、1日前ーー


「......はあ。 隊長、警備ってこんな暇なんすか?」

「無駄口叩くなよ、新入り。 暇暇っつったってこれで飯食えるんだから文句言うな!」


クロム森林の外側。そこには魔物が森から出てくるのを防ぎ、学生達が来るのを待つヒルガメス の魔灯騎士マジックリッター部隊がいた。


「とはいっても、流石にここまで静かとはな......」


「何か問題でもあるんすか?」


「無い!」「無いんすか!」


新入りを怖がらせないように戯けて見せたのち、隊長の男は少し顔を顰め、考える。


「でも少しおかしい事は確かだ...」


通常、多少なりとも魔物が外に出ようと走ってきたり、人に対して攻撃を仕掛けてきたりするが......


「流石に


1日中見ていたり、魔灯騎士マジックリッターから降りて森を見てみたりしたが、本当にのだ。


「......しょうがねえな。 みんな聴こえるか!?」


覚悟を決め、待機状態だった魔灯騎士マジックリッターを動かして部下へ指示を出す。


「今年の森は少しおかしい! 少し様子を見に行って、異常が有れば学生サマに付いてる本隊に報告する! 2人1組で報告し合え! 新入りは俺とだ!」


「隊長とっすか...? ええ...」


「もっと喜べ! じゃあ行くぞ!」


そうして、森の奥地へと部隊は向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「たいちょー? 何もありませんよー?」


「警戒を解くなバカヤロウ!」


隊長の男は気づいていた。


(これは...... 魔物がいないんじゃねえ、生き物がこの森から消えてやがる!)


「新入り、いつでも逃げられる準備をしておけ」


「何でですか? さっきから警戒するような物はなにも...」


「いいから準備してろっつってんだ!」


男の怒号が飛ぶと、新入りの男も「分かりました...」と警戒を始めるがーー


「..... えっ...?」


「! なっ...!」


一足早く、何処からか放たれた火球が新入りの男を包んだ。


「... あ゛ッッッチぃ゛イイ!?」


「守備隊形を組め! また来るぞ!」


(魔法!? おかしい! 魔物は魔法をーー)


そう、使えないはず。


「ぐっ...!」


だがそんな常識を砕くかのように、進もうとした方向から火球が襲い来る。


「だい゛ちょお゛ぉぉ... だずゲッ」


火球に包まれ、溶けてしまった魔灯騎士マジックリッターから新入りの男が助けを求めるがーー


思い届かず、ぐしゃり。


「おい...... 嘘だろ...?」


新入りの男を、溶けた魔灯騎士マジックリッターを踏み潰し現れたに、部隊は絶望する。


「竜...... チクショウが...!」


伝説の生き物、竜。

コイツと戦えば、きっと、自分は生きて帰れないーー そんな事を思いながら、隊長の男は部隊に最後の命令をする。


「デイヴ! 1人で逃げてでも逃げて本隊へ異常を伝えろ! その他の2人はーーすまねえ、俺と共に、コイツとやり合ってくれ...!」


「もちろんですよ、隊長!」


「今度は俺達が隊長を助ける番です」


「絶対、生きて帰ってきてくださいね!」


それぞれの部隊員が覚悟の言葉を言う。


「お前ら...! 行くぞ、馬鹿野郎ども!!」


「「「了解!!」」」


隊長の男を中心に、竜を取り囲んで攻撃隊形を組み、武装を杖に持ち替える。


「今だ! 放て!」


隊長の指示と同時に魔法が放たれ、竜の頭部へ直撃する。だがーー


「効果ナシ、かよ!」


効果はなく、竜は進む。


「だったら...!」


杖を投げ捨て、剣を装備して隊長の男が竜へと直進する。


「援護しろお前らァ!」


「「了解!」」


命をかけて戦う魔灯騎士マジックリッター部隊を横目に、竜はまた魔法を放つ準備に入る。目標はーー


「早く、本隊に伝えなくては...!」


逃げる、魔灯騎士マジックリッターだ。


「ガァァァァァアァ!!」


ほぼノーモーションで魔法が放たれる。今度は火球ではなく、いわゆるレーザーのような魔法が。


「逃げなキャッ」


ジュッ、と言う音がした。


焼き尽くされる。皆、一様に。


「デイヴゥ! てめぇえ!」


隊長は竜に向けて、全身全霊を賭けて突っ込むがーー


「ぐあっ!」


とてつもない速さで噛みつかれ、宙に浮かされる。


(チクショウ、チクショウ! だが喰われるのが俺だったのが良かった、これならあいつらも俺を捨てて逃げーー)


動けない隊長の目に映ったのは、焼かれ、溶かされた、だった。


「はは...... 誰も、生きてないじゃねえかよ...... 俺も!学生達も!! 本隊も!!! 全員コイツに喰われて死ぬしかねえじゃねえかよ!!!」


そうやって、叫びながら、男は噛み砕かれた。



「グゥゥ...」


寝床の平穏を取り戻し、竜は眠る。

本来なら、人間が勝てるはずではない『歪』。


大地の『歪み』を司る聖獣。それが

アジ・ダハーカ。破界の竜。



そして、それと同時に目覚めるは『聖』。


「彼が、目覚めましたか... 」


魔灯騎士マジックリッターと同じくらいの大きさで、羽を背中に生やした鳥の巨人。


「終わりにしたいものです」


大地の『聖』を司る聖獣。それが

フレズヴェルク。守護の鳥人。


邪竜は待つ。聖鳥は向かう。


運命へと、出会う地へーー






「チッ、結局喰われちまったのかよ... ほんっとつまんねー!!」


木の上から戦いを見ていた仮面の男がイラついたように頭を掻きむしる。


「ホントムカつくぜ、さっさと上質な奴を叩き伏せて食い散らかしたくてたまんねーのによ!」


「少し黙りなさい、グラ。 貴方の役目は聖獣との戦闘データ収集よ」


仮面の男の耳についた通信機から、冷徹な女の声が聞こえる。


「でもよ母様! そのうち来る騎士サマ達、めちゃくちゃ美味そうでよ、少しぐらい食っても構わないよな!」


「グラ。」


女の声が、ヒートアップする仮面の男を止める。


「......分かった、分かりましたー! データちゃんと届けます!」


「...よろしい。帰還の際には連絡を」


そう言うと、通信は切れる。


「母様も人使い荒いぜ。...... さっさと来いよ兄貴!《暴食》が待ってるぜ...!」


仮面の男の笑い声が、誰もいないクロム森林に響く。





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