第16話 いざ実践!魔物の地へ!

 「手袋、よし」


寮内の部屋で、黒色の手袋のメンテナンスを終える。


「あと30分か......ティア、迎えに行かないとな......」


王立エルグ騎士学校では中等部と高等部で年2回、魔物の生息する場で、班に分かれての実践が行われる。

毎年開催地は違うが、今回は強力な魔物が確認されていない、フラマヴィル王国領のクロム森林にて行われる事となった。


「行くか」


扉を開け、コードはティアを探しに行く。


一方、ティアはーー


「やっぱ凄いです......! 魔灯騎士マジックリッター、内部までも美しい!」


「なあ、今からでも盗み見るのやめねぇ?」


校内にある魔灯騎士マジックリッターの整備、生産工場を、盗み見ていた。


「なんでですか! ガラタも見たいって言ってたでしょう!? ほら見てくださいよあれ! 普通なら炉心ハートの搭載の手順なんて見れませんよ!?」


「目が怖えよ......」


「ティアちゃーん? コード来たよー!」


「そろそろ時間だ、行くよー!」


「今行きます!」


「気をつけろよ? 高等部が付いてるといえ、魔物は危険だからな」


「はい!」


元気よく返事をして、ティアは蒼空スカイブルーを使い盗み見ていた所から、コード達の元へ飛ぶ。


「揃ったな、じゃあ行こうぜ!」


ジードの声を合図に、コード達は実践へ向かう馬車へ乗り込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学校を出て、少し時間が経った頃ーー


中等部を乗せた馬車を先導する3機の魔灯騎士マジックリッター。この日の為に整備され、鮮やかな色にそれぞれ塗装された機体、その搭乗席には、騎士の中でも上位の実力を持つ高等部の学生がいた。


「全く、中等部の子供達を守るのは良いが、こうも退屈では眠くなるな! このレルガナ・ウォードランにかかってくる魔物は居ないのか!」


「うるっさいよレル......! あんたそんなこと言ってるけどこの3人の中で1番弱いじゃない!」


「何だとぉ...! ふん、いいだろう! 帰ったら君を我が機体、サンウルファムで叩き伏せ、『わたくしアン・フィルカンはウォードラン様に負けました。』と言わせてやる!」


「は!? 言うじゃない...! 50戦50勝、あんたと私の戦績覚えてて言ってるなら相当バカね!」


「何だと...!」

「何よ...!」


「辞めないか、2人とも」


男女の騎士、レルガナ・ウォードランとアン・フィルカンの間の険悪なムードを、もう1人の騎士が破る。


「僕たちが集中するべきは中等部の護衛と不測の事態への対応だ。そんな言い争いは目的地についてからだ」


レルガナが、呆れたように肩をすくめる。


「はいはい分かったよ、流石フラマヴィル最強の騎士ガルザ・カルマーニ様だ!」


「そう言う言い方はやめてくれよ...... 僕たち友達だろ?」


悲しそうに、縋るような声で、ガルザは問う。


「ぐっ...... 分かったよ! 前の方が可愛げがあったぞ」


一転、明るくなり、


「うん、ありがとう、親友よ! 帰ったら模擬戦でもしようか」


「ガルザ、ほーんと神経太くなったわね、前とは全然違うわ......」


楽しそうに話す高等部の3人からは、どうしても緊張と言う物は感じ取れなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、馬車の中ではーー


「なーんも起きねぇ......暇すぎねぇか?」


馬車に乗り、5時間ーー

ジードが暇、と言い始めるのも無理はない。

周りの変わらない景色を見るか、子供同士のおしゃべりしかこの馬車の中ではやる事が無いのだ。 

それらも5時間やっていれば、飽きはくる。これがあと2日ほど続くのだ、ジードだけでなく、他の学生も「暇だ」と漏らし始めていた。


「じゃあ寝る?」

「揺れが凄くて寝れねえよ...... こんな中で寝れるのよっぽど眠いやつだけだぜ?」

「でもテトラは寝てるよ?」


ぐーぐー寝てるテトラを横目に、呆れたように肩をすくめながら、ジードはコードと話し始めた。


「で、お前は何してんだよ?」

。 ぼーっとしてるだけだよ」


はぁ、とため息を吐き、ジードは項垂れる。


「何か暇つぶしになる物ねえか? ここまで暇だと苦痛だぜ......?」

「じゃあ、こうしようか」


そう言うとコードは、馬車の後ろの扉を開け、屋根へと登る。


「よっ...と、何で屋根に登ったんだよ?」

「狭い馬車内よりは外の方がいいでしょ? それに先客も居るし」


そう言ったコードの視線の先には、前を歩く魔灯騎士マジックリッターを見て興奮しているティアがいた。


「...あいつは退屈しなさそうだな......」

「まぁ、そうだね。 俺もアレを見ている限りは退屈しないよ」

「はぁーあ、馬車内よりはまだマシか...」


そう言って、ジードは座りこむ。


「あっ、お兄ちゃんとコード! いた!」


ひょっこりと顔を出し、テトラが屋根へと出てくる。


「あー...起きたか」

「寝ようと思っても寝れなくて......起きたら2人ともいなくてびっくりしたよ!」


テトラも登ってきて、無理矢理寝ようかな、なんてジードが考え始めると、


「んー... いいや、クロム森林に着いてから言おうと思ってたけど今言おう。 2人ともちょっといい?」

「何だよ?」「なにー?」


コードは、今まで伝える暇が無くて伝えられてなかったことを、ちょうど暇な時間に伝える事にした。


「俺、この世界の人間じゃないんだ」

「「...は!?」」




「えー... 本当なの?」

「本当だよ。知らない言葉も言える」

「嘘だろ...?」


空から落ちてきた事、翻訳機を使わないと言葉が分からず、ここの言葉も喋れない事、ほぼ記憶喪失な事を話した。


「じゃあ、知らない言葉でしゃべってみてくれよ」

「いいよ?じゃあーー」


首につけた首輪型の翻訳機を外し、軽く話す。


「Hello Geed, How are you?」

「うわーっ!ホントに分かんねえ!」


翻訳機を首へ戻す。


「あはは... これで信じてもらえた?」

(ただのヘタクソな英語なんだけどね...)


「......まあ驚いたけどよ、それでも俺達は友達だからな!」

「! ありがと!」


そんな話をしながら、馬車は進んでいく。

その先に何があるかも知らずにーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 丸2日馬車に揺られ、騎士学校の面々はようやくフラマヴィル王国最大の都市とされるヒルガメスへと到着した。

ヒルガメスはかの碧炎の戦士が拠点としていたとされる街であり、それによって観光都市として大きくなっていった。

魔灯騎士マジックリッターの始まりの地であり、

魔物の襲来に備えて建てられた城壁は学校のあるエルグ地区をゆうに超える厚さを誇り、魔灯騎士マジックリッターの数は一個旅団ほどと言われる。



「疲れた〜」

「やっと揺れから解放されたよ......」


馬車から解放された事に喜ぶ学生や、


「ここが魔灯騎士マジックリッターの始まりの地...!」

「ここで碧炎の戦士様が...」


観光気分で目を輝かせる学生もいたが、


「今回は街へは入らん! 物資補給のみ行う! 観光気分はここへ置いていけ、ここから先は魔物が出るからな!」


教師の一言でそんな気分は消し飛んだ。


ヒルガメスへ到着したのは夕方、もうすぐ夜になるであろう時間帯であり、さっさと補給をして、さっさと拠点の設営をしなくてはならなかった。


「ちぇ、少しぐらい街の中見せてくれたっていいじゃねぇか!」


また馬車に乗って、ジードが寝っ転がりながら言う。


「そうも言ってられないよ。この人数が街の中に入って行ったら軽いパニックになるからね」

「でも魔灯騎士マジックリッターは見たかったですよ......」


ティアは項垂れ、不貞腐れる。


「2日間ずっと見てただろ? 今日ぐらいは我慢して、また明日に見ればいい。ほら、着いたよ!」


設営地に着く。

ここからはスピード勝負。

拠点の設営は高等部が行う為、コード達中等部は寝床となるテントを設営する事になる。

高等部は流石に回数を重ねているだけあって設営が早い。

拠点の設営を10分で終え、自分達のテントをやり始めた。

中等部は体格が小柄な者が多い為、少し遅れている。

だがコード達の班はーー


「ふんッッ!」


テトラが思わぬ怪力を発揮して、早々にテントの設営を終えた。


「俺、テトラを怒らせないようにするよ...」

「コードもそうした方がいいよ...あいつのアイアンクローはマジで頭が砕けるから...」


一方、

テント設営の裏でコードとジードは「テトラを怒らせない契約」を結んでいた。


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