気がついたら俺が幼馴染との関係の外堀を埋めたことにされていた
赤茄子橄
本文
「なぁ、
ぶふぅっ。
俺は、目の前の親友である
「ど、どういうことだ?ってか何の話だ?」
俺たちは今、朝イチの大学のカフェテリアにいて、さっきまでは穏やかに大学生活について駄弁っていたはずが、急激な爆弾発言に驚かされてしまった。
テーブルに散ってしまったコーヒーを紙ナプキンで拭き取りながら、身に覚えのない結婚式話について慌てて尋ねる。
その俺の慌てた様子に、朝人は爆笑で返す。
「はははっ。いやいや、もう隠さなくていいって。ずっと前から外堀、埋めてたろう?昨日とうとうニュースになってたじゃん。もう周知の事実なんだからさ、これからは隠す必要もないでしょ」
い、意味がわからない......。マジで何の話だ?
確かに結のことは好きだけど、まだ告白すらしてないし、ただの幼馴染のままなんだけど......。
俺、
その記事の見出しと本文に、俺の思考回路はショート寸前の状態に陥る。
記事にはこう書かれていた。
『アイドル声優
彼女は、16歳から声優業界に入り、現在20歳になるまでのたった4年間で世の中を席巻する有名声優になっていた。
俺は小さい頃から
結とは幼稚園のころに出会った。そのころの結はいつもぐでっとだらけていて、可愛らしい見た目とそのユルい雰囲気のギャップに、俺は出会ってすぐ好きになった。
それから高校までは同じ学校に通っていたわけなんだけど、結は俺たちが中学2年のときから急に声優の学校にも通いだして、高校1年の夏にはデビューを果たしていたから、そのころには一緒にいる時間が減っていた。
ちなみに、今目の前で話している
結は今や仕事でひっぱりだこだから、毎回参加することはできないようだけど、それでもたまには顔を出してくれたりする。
お忍びにしないとファンに囲まれて大変だから、休みの日はあんまり外には出たがらないけどね。
ともかく、そんな関係を幼稚園の頃から大学も2年生になる今まで続けてしまった上に、今となっては世間で大人気のアイドル声優と、多少勉強ができるだけの1大学生という身分の差までできてしまっている。万が一にでも俺から告白でもして、彼女と会えるただでさえ少ない時間が皆無になってしまったらと思うと、とてもではないが関係を進めようなどという気にはなれないままでいた。
彼女と会えない時間は、溢れる情動をぶつける先を探して、あと少しでも結に並べるような男になるべく、とにかく勉強したおかげで、ラッキーなことに18歳で公認会計士の資格を最年少取得することはできたんだけど、それもたまたまだ。今の俺が結に告白なんかしたところで、受け入れてもらえるはずもない......。
これまでそんな風に
朝人の
少なくとも俺ではないはずだ......。
結の幼馴染ということは、いつもつるんでる俺たちの中の誰かなのだろう。彼女がオフに他の人間と遊んでいるところなんて見たことがない。
だけど、俺らの中の誰かが結にそんなアプローチを掛けているなんてことすら、俺は気づいていなかった。
特に俺が大学に進学してからは、結は休みで出かけない日のほとんどを一人暮らしを始めた俺の家でぐだって過ごしていたし、誰かがちょっかいを掛けているなんて思っても見なかった。
更には傲慢なことに、家に入り浸ってくれてるなら結は俺のこと結構好きなんじゃないかと思っていたくらいだ。
とはいえ、それとなく「俺のこと好きすぎかよ〜」と冗談めかして聞いてみた時の反応は「あはは〜」と適当な相槌しか返ってこないので、それ以上掘り下げることはできなかったんだよな。
でも、幼馴染の誰かと結婚するってことは、もう結がウチでぐだぐだすることも、彼女と普段の何気ないやり取りをすることも、もうできないということか......。
ん?だけど、ちょっと待てよ......?
いつも一緒にいる幼馴染はみんな、俺と結以外、それぞれ幼馴染同士で付き合っていたはずじゃなかったか?
いつもつるんでる幼馴染は男女4人ずつの8人グループで、高校まではずっと同じ進路を歩んできた。その中の数人は、学部は違えども皆同じ国立大学に進学までしている。
そのグループでは、俺と結以外の6人は、それぞれ中学のときには付き合い始めてたのを知っている。俺が知っている範囲では別れたなんて話は聞いてない。
もしかすると結は、あいつらが付き合ってるってことを知らずに、結婚を迫られてるのか......!?
あいつの誰かがそんなことをするなんて思えないけど、そうじゃなきゃこの状況は説明できないだろ。
刹那の間にこれだけの思考を巡らせた俺は、ショックで速度を上げ続ける心臓のビートとは裏腹に、記事に向けていた目線をギギギと壊れたロボットのような緩慢な動きで、目の前の親友に向け直す。
「な、なぁ。こ、この幼馴染って......誰のこと......なんだ?」
口が乾いてうまく言葉が紡げなかったが、なんとか聞きたい疑問を発することができた。
きっと俺の表情はありえないくらいテンパっていることだろう。瞳孔も開ききってる気がする。なんだか息苦しくなってきた。呼吸の仕方がわからない。
そんな俺に朝人はにこやかに言って返してきた。
「いやいや、今更そんな演技しなくていいって!透がいろんなとこで外堀を埋めて回ってたのは僕達みんな気づいてるんだからさ。それに昨日、結さんから俺らに透との結婚式の連絡あったし」
..........................................ん?..................え?............どゆこと............?
こいつが何を言っているのかわからない......。俺が外堀を埋めて回ってた?
結が俺との結婚式の話を朝人たちに連絡していた?
俺が言葉に詰まっていると朝人は「おいおい、だからもういいってば」と言って、手元の端末に表示されたメッセージアプリの画面を見せてくる。
画面トップには『Yusora Yui』と表示されている。この表示名やアイコンは確かに結のものだ。
そこには結婚式の日程や場所なんかが一覧されている。何より目を引いたのは『神楽透♥結の結婚式』と書かれた電子的な招待状みたいなものと、結から最後に送られてきている「とぉくんには完全に外堀埋められちゃったよぉ」というメッセージだ。
ちなみに、とぉくんっていうのは、結が俺のことを呼ぶときの名前だ。「
いやそんなことより、「とぉくんには完全に外堀埋められちゃったよぉ」ってなんだ?僕は今までと違う世界線にでも来てしまったのか?ここはベータ世界線か?シュタイン◯ゲートの選択か?
というか外堀を埋める活動ってなんだよ。俺はそんなのしてないぞ......。
むしろ何のアクションも起こせてないことに落ち込んでたくらいなんだけど......。
しかも結婚式の話って?付き合ってすらいないのに?俺も聞いたことないのに?
俺の頭の中を混乱が駆け巡る。
ただ、さっきとは違って、ショックによる動悸に襲われているわけではなく、天にも登るような喜びの気持ちと、意味がわからないという混乱の気持ちが心臓の太鼓を乱舞している。
心拍数はともかく、朝人の発言のおかげで少しだけ頭を冷静にすることはできた。
落ち着いたといっても、今の状況が飲み込めたわけではない。
うん、まずは1つずつ謎を理解していかないとな。
「えっと、ごめん、朝人?俺が外堀を埋めてたってのは、どういうこと?俺そんなことした記憶はないんだけど」
「はぁ、透。いくら僕でもいい加減怒るよ?もうネタバラシは済んでるんだからさ。ただでさえ僕らに相談してくれなかったことには少し怒ってるのに、これ以上否定するのはやめようよ?」
なぜか朝人に怒られた。いや、これは俺は悪くないだろ。
なにが起きてるんだ?
「いやいや、マジで。ホントにわからなくて混乱してるんだって。なに?結婚てどゆこと?」
「おいおい、透。もしかして幸せ過ぎて頭がおかしくなっちゃたのかい?もう少ししたら君も誘って会社を始めようとしているのに、あんまりにもイカれるのは勘弁してくれよ?
透が大学のみんなとか、結さんのお父さんの芸能事務所とか、お前が働いてる悠莉さんの親父さんとこの会計事務所とか、あまつさえマスコミにも、もろもろ根回ししていたことはもう周知の事実だよ。
僕らを驚かせようとしたのかもしれないけど、週刊誌に載っちゃったらもうサプライズは諦めてよ」
朝人の表情は呆れ50%、祝福30%、面白さ20%といったところで、本気で言ってるのだろう。
しばらくしても何も言葉を発しない俺に朝人が続ける。
「だいたい、君たち一緒に住んでて僕達にバレてないと思ってた〜とでも言うつもりなのかい?僕らにとっては漸くって感じだよ」
変わらず真面目なかおで告げてくる。本気......なんだと思う。
ということはおかしいのは俺の方なのか?いやでも一緒に住んでないしな......。少なくとも俺の認識とは違っている。
だとしたら一旦帰って落ち着いたほうが良さそうだな......。
「すまない、ちょっと嬉しさで熱が出て、頭がオカシくなってるみたいだ。今日は帰って寝ることにするよ」
「ん?あぁ、そうかそうか、幸せなのはいいことだけど、体調管理はしっかりしなよ?今日くらいはいいとおもうけどさ!この後の講義はどうするんだい?」
「今日はフケることにする。じゃあ、すまないがお先に」
そう短く告げて、かばんを持って急いで家に帰宅した。
部屋に帰ってきて1人の空間になったので、ようやく周りの様子を気にせず自分の正気度を確かめられる。
まずは、今の状況が夢ではないか確かめようと思い、全力で自分の顔面を殴る。うん、痛すぎる。夢じゃないな。顔の骨折れてないかな大丈夫かな。まぁいいや。
次に、さっきのニュースが本当の話なのか確かめるため、ネットのニュースサイトをいくつも巡って確認してみる。どこのサイトもSNSも、
ここまで確かめられたあたりで、メッセージアプリの幼馴染たちのグループに「おめでとう」を表すスタンプがどんどん連投されていることに気づいた。
あまりに多いのでざーっと一気にスクロールして最後の方まで進めると、そこには結が一言メッセージを残していた。
『とぉくんはホント、大胆なんだか繊細なんだかわかんないことするよねぇ』
さらにこのメッセージにみんなが「ほんとだよね」とか返してる。
おいおい、俺じゃないって。
未だ混乱抜けきらぬうちではあるけど、心の中でツッコミを入れつつ、このあたりでなんとなく状況が見えてきた。
どうやら結が俺をハメて(?)、「
このままでは結にいろいろ動いてもらった上に、「俺が頑張った」みたいに思ってもらえてしまう。
いくら俺がヘタレだと言っても、流石にその認識を放置することは男の沽券に関わってくる。
遅いかもしれないけど、そういう大事なことくらい、俺自身の力でなんとかしたかった。
そう思った時、ちょうど結から、「おはよぉ〜」と気の抜けた、いつもと変わらないメッセージを受信した。
今起きたのだろうか。なにはともあれ、まずは結に直接確認しないと。
決意を新たにした俺はすぐに端末を手に取り、結の電話番号を入力する。
ぶるるるるる。ぶるるるるる。ぶるる......がちゃ。
3コール目の途中で電話が取られた音が聞こえて、すぐに声がした。
『あ、もしもし〜とぉくん〜?ふふふ〜、どうしたのぉ?』
声優モードじゃない、結のいつもの声だ。結側の音の後ろが少しガヤガヤしている気もするけど気になるほどじゃないし、結の声は安定感があって聞き取りやすい。
それより、なにが『どぉしたのぉ?』だよ。可愛いなちくしょう!
そろそろ電話が来るだろうなってことも、俺がどんな要件を伝えてくるのかまで全部わかってるくせにそういうことするとか素敵すぎかよ。
......じゃない!俺は結に確かめないといけないことがいろいろあるだろ!正気を保て俺!
「結、ニュース、見た。ってか朝人からもいろいろ聞いた」
『あ、そーなんだ!それで、状況はもうわかっちゃってるのかな?』
いたずらっぽい声で俺に問いかけてくる。
そんな小悪魔みたいな声を出されるだけで、俺の意識は容易に刈り取られ......ってる場合じゃないよね今日は!
「あ、あぁ、多分。これ、結がやった......ってことでいいんだよな?」
ほとんど確信しているけど、そうじゃない可能性も考慮して中途半端な聞き方になってしまった。
『にしし。えー、なに言ってるのぉ?ぜぇーんぶ、
電話口でクスクス笑いながら話しているのが伝わってくる。
そうか......そういう
ならこっちにも考えってものがあるぞ!
「いやいや、結。俺はこんなの認めないぞ!?」
少し語気を強くして伝える。
ぐはっ!辛い......結を傷つけるかもしれないことを言うなんて、心臓が潰れて汚ぇ花火をぶち撒けてしまいそうだ......。
自分が吐いた反抗的な言葉に自分自身でダメージを受けていると、電話口で一瞬間があってから声がした。
『......ぐすっ......ずずっ。そっか、私の勘違いだったのかな......。なのに私だけ舞い上がっちゃってごめ「そんなわけないだろー!!!!!結のこと愛してる!俺は結と結婚したい!!!!!」』
耐えきれなかった。いくら売れっ子声優の全力投球といっても100%演技ってわかってる。でも結が悲しそうにしてるのは許せなかった。
......こう意志力がないから、今こんな状況になってんだろうなぁ〜。
『ぐふふ。嬉しい。まさか
............ん?全国放送?何を言ってんだ?
『もぅ......私から電話する直前にとぉくんからかけてくるなんて、
日本中のみなさんの前でプロポーズ?どういうこと?ってとぼけていたいけど、今俺の頭の中は日ごろ無いくらいに超高速回転しているようで、彼女の言葉から正確に状況を把握できてしまったようだ。
そう、彼女は今、朝のテレビの生放送でインタビューか何かを受けているのだろう。
おそらく番組の中で俺に電話をかけて話すような流れになっていたのだろう。
そして俺が結の起床メッセージを見たらすぐに電話をしてくるだろうと踏んでタイミングを見計らって俺にメッセージを送り、見事それに引っかかった俺は、彼女が電話をかける前に自分から電話をかけた。
その結果、視聴者の皆さんからみれば、
つまり、「俺がその番組を見ていて、さらに全国お茶の間の皆様に向けて『外堀を埋める』ために積極的に動いて愛の告白をブロードキャストした」という脚色された
これに気づくまでの時間、わずかコンマゼロ1秒にも満たない。
最年少公認会計士を取得するに至った頭脳は伊達ではなかった。
だけどこの状況を覆すような次の一手は何も思い浮かぶことはない。やはり頭脳は伊達なのかもしれない。
1〜2秒の間をおいて発することのできたのは、「いや、えっと、失礼します」という言葉だけ。
その後すぐに電話を切った。
....................................盛大にやらかしてしまったようだ。
恥ずかしさで頭から火を出しそうになりながら、もっと言えば、既に火炎を上げていると錯覚しながらも、自分の仮説を検証するためにテレビをつけて、チャンネルをザッピングしていく。
そうして、4つ目のチャンネルで見つけた。結と女性アナウンサーが向かい合うように座って、インタビューに答えている。
間違いない、これの番組で、やってしまったんだろう。
アナウンサーは「いや〜、それにしても、情熱的なプロポーズでしたねぇ。聞いてる私も恥ずかしくなっちゃうくらい、まっすぐな言葉でしたね。これまでは裏で地道に外堀を埋めて、
いや、違うから。俺は何も意識してないから。全部全部、結の策略だから......。
心の中では、まだかろうじて弱々しくツッコむこともできたけど、正直もう諦めの気持ちが大きい。
さっきまでの状況であれば、まだ「外堀埋め活動」の主犯が結であることを示して、改めて俺から告白なんてことも、あるいはできたかもしれないけど、今のテレビでのプロポーズはもう無理だ。
客観的に見て、あの電話は「俺が幼馴染との関係の外堀を埋めた」ことの信憑性を高めるのに十分すぎる。
もう現実を変えられなさそうだという現実に打ちひしがれていると、電話の後放置していた端末がひっきりなしに通知を響かせ続けているのに気がついた。
画面をつけると、幼馴染たちのメッセージグループが祭っていた。通知の数が上限を突破して「99+」と表示されている。一体どれだけ送られてきてるんだろうか......。気が滅入る。
恐る恐る開いてみると、「ヒューヒュー」とか「男前ー!」とか「この策士野郎〜!」とか「独占欲の塊〜」とか、そういう冷やかしのオンパレード。
みんな見てたんかい。だめだ、幼馴染たちにももう言い訳もできないだろう......。
まだ起きてから数時間も経ってないけれど、今日の僕はもう活動限界を迎えてしまったらしく、倒れるように自分のベッドで眠ってしまった。
あぁ、結......。まったく。なんてことしてくれたんだ......大好きだけど。愛してるけども............zzz。
*****
ニュースへの緊急出演が終わって、私、
うんうん、急にいっぱいの情報が入ってきて疲れちゃったんだね。
もぉ〜しょーがないなぁ。......チュッ。
ふふ、今日もチュ~しちゃった♫
とぉくんってばホントぉに可愛いんだから!
ぜぇーんぶ結の計画通りに動いてくれちゃってさ。でもおかげでこれまで頑張って準備した苦労が報われたよぉ〜。
好き好きとぉくん!
日本中の人たちの前で公開プロポーズなんてしちゃって〜。
まぁ、結の作戦なんだけど。
だからこそ、まだとぉくんの心は完全に折れてはいないだろうな。
とぉくんのことだから、「
ここでしっかり、負けを認めてもらって、一生結のお願い聞き続けてもらわないといけないんだから!
あ、せっかくだし、今から既成事実も作っちゃお♫
誰もまさか結からやったなんて思わないだろうから、これで更にとぉくんが外堀だけじゃなく内堀まで埋めに実力行使しだしたって思うよね!
そう思って、寝てるとぉくんのベッドに入り込んで、服を脱いで......彼の腕を結の身体を抱く形になるように動かして、口の中に結の舌をねじ込む!
幸せ〜。だけどそんなことをしていたら、残念なことに彼が起きちゃった。
「ん、え、結!?何してんだ!?」
どうも混乱してるみたい。これなら勢いで言い負かせるかな?
「んもぉ〜、とぉくんが襲ってきたのに、ヒドいよぉ〜」
「んぇ!?いやそんなことあるわけ無いだろ!ともかく、結に言いたいこといっぱいあるんだよ!何から喋ればいいのかわからないけど!」
「えー、それよりも、とぉくんが急に襲ってきたこと、認めるところからだよぉ。ほら、服だって、とぉくんが脱がせてきたでしょ?覚えてないの?」
「い、いや......たぶんしてないから!俺がいきなりそんなことする理由ないだろ!」
うんうん、ちょっと自信が揺らいでるな。このまま押せ押せだ〜!
「えー?そんなこと言って、とぉくん、結の外堀埋めきったからって、とうとう結に直接とぉくんの証を注ぎ込もうとしてたんでしょ〜。急に恥ずかしがっちゃって〜」
「え?いや、そんなはずは......そんなはずない......よな?」
後ひと押しだ♫
「ぐすっ......責任、取ってくれないんだぁ」
「うおおおおおおっっっ、結ぃぃぃぃ!!!!大好きだあああああああああ!」
はいっ、堕ちた♫
「もぅ、そんなにがっつかないで?結のこと大好きなのはわかったからさ」
可愛い可愛い!めちゃくちゃぎゅっとしてあげちゃう!
「ここまで結のこと大好きアピールされちゃったら、もう結が折れるしかないよ〜」
とぉくんの頭をよしよししながら、ぎゅっとしてあげる。
でも、とぉくんはこの期に及んで不満があるみたいな顔をしてる。
「あのさ、結?やっと好きって言えたのはいいんだけどさ?好きなのはホントなんだけどさ?
あ〜、やっぱりそれ聞いちゃうか〜。
「え?どっからって、単にとぉくんがパパママとか、色んな人に根回ししてたってところからでしょ?」
とりあえず恍けておこう。
「いや、俺はそんなのしてないから!そっちは結の策略なんだろ!?どういうつもりなんだ?」
往生際が悪いんだから〜。でも、こういうときのために、
「そんなに信じられないなら、証拠を見せてあげるね?」
結は1つの動画を表示して、とぉくんに見せてあげた。
『仁さん、優香さん。どうか、結と結婚する権利を俺に......いや、僕にいただけないでしょうか!』
そう、そこに映ってるのは......。私達の両親の前で、そう叫びながら全力で土下座をして頼み込む
とぉくんの顔を見ると、またすっごく混乱した表情をしてる。
ふふふ、やっぱり覚えてないんだね?
「こ......これは?合成映像?ははは、今どきのCGってのはホントに凄いんだなぁ」
むぅ、これを見せられてもまだ往生際の悪い反応をするなんて。
「違うよ?これは今年のお正月にみんなで集まった時、とぉくんがパパたちに自分で言ってたやつでしょ?ね?こんな風に結の外堀を埋めていったんだなぁ〜」
そう、これは本当に本物。結はその行動を後押ししてあげただけ。
ハジマリは去年のお正月、幼馴染やその両親達が集まって新年会した時、とぉくんはお神酒を一口飲んだだけでものすごく酔っ払ってた。
20歳の年だからって、初めてお酒を飲んだみたいだから、そんなとぉくんの姿は見たことなかったんだけど。
酔っ払ってたって言っても、表情は全然変わらなくて、足取りとかもものすごくしっかりしてるんだけど、言動だけは明らかにおかしくなるんだよね。
普段大人しいから、心のなかでいろんな想いを抑圧してるみたいで、それをぶち撒けちゃうみたい。
それに一口飲んだだけで、酔っ払ってた間のことは忘れちゃうくらいなんだから、とぉくんには普段はお酒を飲ませないように注意しないとね。
ともかく、そんなとぉくんのお酒癖を知ったから、今年のお正月、二人っきりのときにお酒を飲んでもらって酔っ払ったところを見計らって、「結と結婚したかったらパパたちにお願いしなきゃダメじゃない?」って伝えたら、すぐにパパたちのところに行って、この動画に映ってるような必死なお願いをしてたんだよね〜。
パパたちはすっごく驚いてたけど、「透くん、娘を頼んだよ」なんて言ってて。
あの日から結の『とぉくんが結との関係の外堀を埋めようとしている、ってことにしてとぉくんにプロポーズさせちゃおう大作戦』が始まったんだよねぇ〜。
ふととぉくんを見ると、ふるふると肩を震わせながら、「な......なんで......」なんて呟いてる。記憶にないことを見せられたら、そりゃあ驚いちゃうよね?でも、これも仕方のないことなの!
うん、最後のひと押しだ。
「それだけじゃないでしょ?とぉくんってば、大学のお友達とか、結のマネージャーさんにも『結と結婚させて欲しい』って伝えて回ってるんだもん。結びっくりしちゃった!」
「え?いや、そんなわけないだろ......。俺はこれまで誰にも隠してきて......それで......」
「そんなこと言って〜。もう嘘つくのやめよ?ほら、メールとか送ってるでしょ?知ってるんだからね?」
そういってとぉくんにメールを確認するように促す。
「なっ!こんなの送った記憶ないぞ!」
うんうん、こっちはちょっとだけ勝手なことをしちゃいました♫
プログラムに詳しい
「証拠もあるのに、ま〜だそんなこと言うの〜?もう諦めよ?」
ふっふっふっ、これで完全に私の勝ちだね!
「あ、諦めるって、何を?」
あ、もしかして、とぉくん、勝負をなかったコトにするつもりかな?も〜、見苦しいぞぉ。
「そんなの決まってるじゃん!先に告白した方が一生相手の言うことを聞かなきゃいけないでしょ?『とぉくんが』結に熱烈なアプローチをしてきて結婚することになったんだから、とぉくんは結の言うこと、一生聞き続ける義務があるでしょ?ほら、昔一緒に見たアニメでも、そう言ってたじゃん!」
ふふふ、頑張ってとぉくんが好きな声優さんになって、いろいろと裏で根回しをして、綿密に作戦を立てて実行したおかげで、漸くここまでたどり着けた!
*****
覚えのない証拠がいくつも提示されて、今日イチ混乱しているけど、結の最後の一言で俺の頭の中では大体の事情が把握できた。
どうやら結は、とある「恋愛は戦ぁ!先に惚れたほうが負けなのである」みたいなキャッチフレーズのアニメに影響された結果、いろいろ画策して、『俺が先に結に迫った』という事実を捏造するに至った、ということのようだ。
そのアニメでは、「惚れた弱み」だとか「好きになったら負け」という格言を拡大解釈して、「先に告白したほうが一生相手の言うことを聞くのが常識だ」と吹聴する作品だった。結はおそらくこの作品のネタを本気にしたんだろう。昔から、そういうところはめちゃくちゃ単純で、ちょっとアホの子入ってるもんな。
その結果、どうやら俺はその戦に敗れて、結に一生服従することになったらしい。
うん、まぁ全然、むしろ幸せだからいいんだけどね?
『気がついたら俺が幼馴染との関係の外堀を埋めたことにされていた』わけだけど、大好きな
気がついたら俺が幼馴染との関係の外堀を埋めたことにされていた 赤茄子橄 @olivie_pomodoro
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