第12話 祈祷師が来た③
ステンドグラスから漏れるわずかな光が、部屋の中央にあるガラス管を流れる琥珀色の液体を照らしている。
薄暗い部屋の片隅には高く積まれた革の表紙の本、液体に浸された生物標本、天井付近を飛び回るコロッケ達、壁に架けられた未知の器具、そして中央にある椅子に腰かけた半裸の老人に向かって男は言った。
「相変わらず気味の悪い部屋だぜ☆とても商工会議所の一室には見えねな」
ダークエルフの男が言う通りに不気味なその部屋が、商工会議所の一室だとは誰が思うだろう。
老人はそのアフロでグラサンなダークエルフの男の言葉を気に留める様子もなく、ガラス管の下に水差しを置いた。するとその中に琥珀色の液体が一滴、また一滴と溜まっていく。
「インテリアとか興味ある??いい家具デザイナー紹介するけど」
「モンドレー・チャンヤマ、お前も相変わらずのようだな」
老人は液体の溜まった水差しを手に取り、中身をマグカップに注いでチャンヤマに渡した。
「炭酸抜きコーラだ」
「どうも」
「さて、そろそろ報告を聞かせて貰おうか」
「結論から行くとマキ黒にスキルは無いじゃん☆」
チャンヤマは無駄にポーズを取りながら言った。
「でもYOアンタの言った通り、あのマントはタダモノじゃねぇな。あれはユニクロとかでは手に入らない様なシロモノさ。俺には何かのスキルを宿した秘宝に見えたぜ」
この世界では、転生者が自身のスキルを所有物に宿すという現象はそう珍しくない。
「やはりそうか……」
「俺はこう見えても鑑定には自信ある方だ、まず間違いないね」
チャンヤマは星型のサングラスを光らせて言う。
「あれは『月下の水面』と呼ばれるマントだ。それを身に纏えば一切の魔力を寄せ付けず、むしろ反射させてしまう、それはまるで月の光を反射して映し出す水面の様にな」
「なるほど恐ろしい一品だぜ。爺さん良く知ってるな」
チャンヤマもリュド王国ではかなりの情報通であるが、この老人はチャンヤマが知らない事をいくつも提示して来るのだ。
切り干し大根の作り方とか。
「じゃあさぁ、やっぱりやっちゃうの??G☆O☆U☆D☆A☆T☆U」
「いや、今はまだ目立ちたくは無い」
「随分と弱気だなぁ大将」
「あの家はあれで中々厄介、やり合うならそれなりの戦力が必要だろうな」
またしてもそうだ。
国中のあらゆる場所に出入りして情報を得ているチャンヤマの知らない事を、この老人は知っている。
どうも知識では敵わないらしい。
「それとついでにもう一つ、マキ黒の刀についてもなんか知ってるんじゃなぃ??」
それを聞き、老人は目を見開いた。
「よく目の利く男だ。あれが「月下の水面」ならあの刀にも心当たりがある。だが、それをお前が知るのはまだ早い。物事には何事も順序と言うものが」
「あぁ~~解るぜそれ、ダンスと一緒だな。踊ろうぜ☆」
話が長くなりそうな割に情報が無さそうなので、チャンヤマはとりあえず踊ってごまかした。
「とりあえず転生者の確認ご苦労だった。さて、次の一手を打とうではないか」
「それってYO!!もしかして」
「そうだ、いよいよ長年の計画を実行に移す時、即ち国盗りの開始だ」
老人は興奮して椅子から立ち上がった。
「まずは世界中に散ったパノプティコン商店街七哲をここに呼び戻す。お前は『天竜奏者(ドラゴンマイスター)』の元へ行き、この事を知らせよ。これは高速馬車の回数券だ。宿代は領収書を貰え」
「OK!!領収書のあて名は??」
「マグナ・ヴォルカン、この私の名前だ」
──ライヒトゥムベルクの魔法陣──悪霊転生新訳 コウベヤ @KOBEYA
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