捜査開始!

 夕暮れ時。

 家に帰ろうと住宅街を歩いていると、突然声が聞こえた。

「悪魔が動き出した気配がするニャン」

 民家の塀の上に、ニャッピーが佇んでいた。

「悪魔が?」

 僕の返しに大きく頷く。

「そうニャン。正義も感じるんじゃニャいか」

 僕は胸に手を当てる。

「なんか不思議な胸騒ぎはするけど」

「それが悪魔の気配ニャン。ウォッチを付けていることで感じるようになったニャン。それをたどって悪魔に操られている人を見つけるニャンよ」

「どうやって?」

「それを考えるのはホーリームーンの仕事ニャン。初仕事、頑張るニャンよ」

 要件は終えたとばかりに、ニャッピーは塀の向こう側に消えていった。

「えっ。丸投げ?」

 僕はニャッピーが消えた先を呆然と眺めた。



***


 翌朝、どうしようか悩みながら登校する。教室に着いても、なんの策も考えつかなかった。そもそも僕は人と話をするのが得意でない。どうしたものか。


「どうしたんだ。朝から神妙な顔をして」

 声を掛けてきたのは、同じ中学出身の兼志けんしだった。僕と同様目立たない生徒で、この学校で唯一気心の知れている人物だ。

「いや。ちょっと考え事。僕に何か用? 朝からうちのクラスに来るの珍しいね」

 兼志は隣のクラスだった。

「そうそう、正義。昨日妃奈ちゃんと何話してたんだよ。廊下で見てたぞ」

 兼志が歯をギリギリさせて悔しそうに言ってくる。彼も妃奈に想いを寄せているのだ。

「特に何ってことはないけど、テストの順位についてだよ」

「そういやお前の名前、張り出されてたな。オレもあそこに張り出されたら妃奈ちゃん、声掛けてくれるかな」

 期待を込めた目をこちらに寄越す。

「どうだろう。始めに声掛けてきたのは麻亜沙だけどね」

「うげ。麻亜沙かぁ。アイツ可愛いけど、オレら陰キャをバカにするからなぁ。近づきたくないぜ」

「でも、麻亜沙に声を掛られたら、妃奈ちゃんと話すチャンスが出てくると思うよ」 

「それなぁ。けど、アイツのオレらを蔑むような視線は、破壊力があるからなぁ。悩ましい問題だ」

そういいながら、兼志は髪をワシャワシャ掻きむしる。


「そう言えば、兼志のクラスの修斗君、長いこと学校に来てないんだって?」

 話題を変えてみる。

「あぁ、あのモテ男な。もう半月くらい休んでるぜ。けど、珍しいな。お前が人のこと気にするなんて」

「麻亜沙に修斗君がいないから名前が載ったんだと言われたから」

「うへ〜。修斗さえいなきゃ、ずっと名前が載るのにとか思ってるのか?」

「いや、彼が居てくれなきゃ名前が載っちゃうから嫌だなって」 

「お前、ほんとに目立つの嫌いだな。陰キャの鑑か」

 兼志が感心したように言う。

「なんだよ、陰キャの鑑って」 

 僕は憮然とする。そんな僕に構いもせず、兼志は、話を続ける。

「でも、修斗のやつ、病気ではないみたいなんだよな。女子たちが駅前の繁華街で見たって言ってたし、なんか悪い奴と関わってるのかも」

「よく知ってるな」

「これでもオレは新聞部だからな。常日頃、情報は集めてるんだ」

 そう言えばそうだった。新聞部は行事やらなにか有る度に校内新聞を発行しているが、特に人の目に止まることもなく、廊下に捨てられているのをよく見る。

「正義も新聞部に入らないか? 上下関係緩いし、お前ならいつでも大歓迎だぜ」

 兼志は新規部員獲得を目指し、目を輝かせて誘ってくる。

「また、考えとく」

 僕は曖昧に笑っておいた。


 修斗は悪い奴と繫がっているかもしれない。それは悪魔関連のことなのだろうか?判断がつかない。

 考え込んでしまった僕に兼志は呆れた顔をする。

「そんなに、修斗に学校に来てほしいのかよ。けど、あんまり首を突っ込まないほうがいいと思うぜ。オレの勘だけど、いろいろヤバそうだ」

「そうだね。もうしばらく様子を見ておくよ」

 僕は素直に頷いた。


 ヤバいなら、なおさら慎重に、そして突っ込んで調べなければならないのだろう。

 胸のザワザワ感は相変わらず落ち着かない。

 僕は次の一手にまた頭を悩ませた。


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