夜の街の大冒険
手掛かりが乏しいなか、どうすれば良いのか考えた末、母が夜勤の時に夜の街に行ってみることにした。
家を出てしばらくすると、ニャッピーが塀の上に現れて、街に向かう僕について歩く。
「こんな夜遅くに一人で出歩くのは危険ニャン」
「でも、修斗君を知ってる人がいるかもしれないだろ」
「1時間ほど待つニャン。一緒に行けるように準備するニャン」
「結構時間が掛かるんだね。先に行ってるから」
「あっ、待つニャン!」
僕はニャッピーの制止を無視して街へと向かった。
駅前の繁華街は、仕事帰りのサラリーマンや、騒ぎたい若者たちで溢れていた。
駅前の時計は8時半を指していた。
昼間の賑やかさとはまた違った喧騒の中を歩く。
僕は若者が集まっている所を探した。そして、あんまり怖くなさそうなグループを見つけては、勇気を振り絞って修斗のことを尋ね回った。
場違い感が半端ない僕の風貌を訝しがりつつ、知らない、と興味なさげに言われることが続いた。
何組目かに尋ねた時だった。
「修斗ってやつ探してるのか? ちょっと着いてこいよ」
知ってる人に会えた!
僕は赤や金色など派手な髪の高校生だろう少年たちに着いていく。
暗い路地裏に入ったところで少年たちは立ち止まる。
「あの……」
「こんな夜にお前みたいなガキが歩いてたら危ないぜ?」
「俺たちみたいな悪いお兄さんに絡まれちゃうぞ?」
騙された、と思ったときには、少年たちに囲まれていた。
体が強張り、心臓がバクバクする。
「大人しく財布とスマホを出してくれたら、痛い目にはあわないからさぁ」
少年たちはニヤニヤしながら近付いてきた。
万事休すだ。
「おい。こんな暗いところで何やってるんだ!」
通りの方から男の声がした。
振り返ると、黒いジャンバーを着た長身の20代くらいの大人の男性が立っていた。
「浅倉!」
少年たちが、ヤバい、という顔をする。
「お前ら中学生相手に恐喝とかダサ過ぎないか」
呆れたような声で言いながら近づいてくる浅倉と呼ばれた男性は、少年たちを鋭い視線で見遣った。
「いや、違うって。こいつが困ってたみたいだから詳しく話を聞いてやろうかなんて、なぁ」
中心格らしい赤髪の少年が、隣の金髪の少年に同意を求める。
「そ、そうだ。オレたちまだ指一本触れてねぇっての」
「お前らが人助けなんてらしくねぇだろうが。これからやる気だったんだろ?」
「やだな。そんなことあるわけ無いじゃん。あっ。こいつ、人探してるみたいだから話聞いてやりなよ。俺たちはもう行くわ」
そう言うと、少年たちは苦々しい顔をしながら通りの方へ去っていった。
呆然と見送っていると浅倉と呼ばれた男がこちらにやってきた。
「君。こんな時間に一人で歩いてたら危ないぞ。俺がたまたま彼らに連れられた君を見かけたから良かったものの、こんな路地裏に連れ込まれたら、助けを呼んでも誰にも聞こえないんだからな」
厳しい顔で僕を叱る。
「すみません……」
下を向いて小さい声で言う。
浅倉は恐縮している僕にため息をつく。
「俺は浅倉。このあたりの青少年を見守るためにボランティアで見廻りをしてるんだ。君、人を探してるって言ってたな? 話聞いてやるから明るい場所へ行くか」
浅倉は僕を駅前のファミレスに連れてきた。
「そういや、君、名前は?」
「正義です」
「正義、飯食ったか?」
浅倉の質問に無言で頷く。
「なんか甘いものでも食うか?ケーキとかなんでもいいぞ」
「いや、大丈夫です」
「遠慮することないのに。まぁいいや。ドリンクバーだけ頼もう」
そう言って注文し、僕の好みを聞いてウーロン茶と、自分用にコーヒーを取ってきた。
「ほら」
「ありがとう、ございます」
僕は礼を言って受け取る。
「さてと。で、人を探してるんだって?」
浅倉に促されて僕は、修斗が突然学校に来なくなったこと、夜に悪い人と会っているのではないかと噂があり探していると言うことを話した。
「その修斗君が心配になって探しに来たってことか。でも、危ないぞ。君みたいな夜遊びに慣れてなさそうな子は不良どもの餌食になってしまう」
僕は俯いた。
「まぁ、友だちが心配で居ても立っても居られない気持ちはわかる。けれど、月並みかもしれないが、先生に相談してみたらどうだ。何か事情を知ってるかもしれないし。少ししたらまた学校に出て来るかもしれない」
「そうですね……」
先生に聞くと言う手があった。クラスが違うし、仲良くないから訝しがられるかもしれないが、なんとか聞き出してみようと思った。
一息ついて、僕は気になったことを聞いてみた。
「浅倉さんはいつもこういう事をしているんですか」
「こういうこと?」
「ファミレスで食事を奢ったりして学生の話を聞いたりすること」
「いつも奢ったりはしないけどな。でも、甘いものとか食いながらの方がリラックスできるだろ」
そんなことを話していると、ファミレスの扉が開いて、見知らぬ青年が真っ直ぐ僕たちの席に走ってやってきた。
大学生くらいの青年は肩までの明るい茶髪に、街では滅多に見ない真っ青なチェック柄のスーツを着ていた。誰、この人。
「正義! 大丈夫ニャンか! 待っててって言ったのに置いていくニャンて!」
「「ニャン?」」
僕と浅倉は二人してハモった。
ニャッピーみたいな話し方だな、ってまさか。
自分の失態に気付いた青年はコホンと咳をひとつして言い直す。
「正義。準備に時間が掛かるって言ったのに」
このちょっと猫目の青年はやっぱりニャッピーだ。ニャッピーは人間の姿になれるのか。僕は口をポカーンと開けてまじまじと彼を見た。
「あの、君は?」
浅倉が不審げに尋ねる。
「正義の兄です。一人で夜外に出るのは危ないと言ったのに、僕が準備できる前に出てしまって。貴方は?」
今度はニャッピーが浅倉を胡乱げな目で見る。
「俺は浅倉という。このあたりの青少年を見守るために、ボランティアで見廻りをしている者だ」
朝倉は僕の兄と聞いて、自己紹介をする。
「正義がご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ。少し話を聞いただけなので」
何か大人だけの会話が進んでいる。
しばらくボーッと見ていると突然、人間になったニャッピーが話しかけてきた。
「正義。もう用事は終わったのか?」
「終わったけど」
「じゃあ、一緒に帰ろう」
ニャッピーが促す。
「一緒に?」
僕は問い返す。
「当然だろ」
当たり前のように言うニャッピーに僕は反発する。
「そんな格好をした人と歩いてたら目立つから嫌だ!」
「なにを言う! これは最新ファッションなのだぞ!」
「そんな派手なスーツ街では誰も着ないよ」
「ニャンだと!」
奇妙な漫才のような会話を続ける僕たちを浅倉が目を丸くして見ていた。
美少年戦士☆ホーリームーン 万之葉 文郁 @kaorufumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。美少年戦士☆ホーリームーンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます