3.俺の思い
ナナは一度だけ、母親にほのめかしたことがあった。「同性愛者の人ってどう思う?」って。その時、ナナの母親は娘の事情を何も知らないが故に残酷にも否定した。ナナは酷く絶望し幻滅した。母親のことは大好きだ。ただ、昔からの思考をいつまでも更新しないで引きずって、現代を否定するその思考だけが大嫌いだった。一番大好きな家族に否定された。一番の良き理解者に否定された。そのことはナナのトラウマになってしまった。それから二度とほのめかすことはなかった。墓場まで持っていこうとしていた。だけど、昔からの友達、いや親友のコウガに見透かされて、一気にそれがあふれ出した。家族には否定されたが、コウガは理解してくれた。そのことがこれまでにないほど、とても嬉しかったのだ。
「んん……」
「んん、あ、ナナちゃん、おはよう」
「……え」
ナナちゃんは布団を両手で握り閉めながら目を丸くさせている。
「ナナナナ、ナナちゃん! 何にもない! ほんとうに何にもないよ!!」
本当に何もないことが、慌てて否定してるせいで、何かあったように見える。
「……うん、そうだよね。コウちゃん、何もしないって約束してくれたし」
微かに笑うナナちゃんを見ると、赤面しそうになった。ナナちゃんは本当に俺のことを信じてくれてる。俺は誓ってナナちゃんを襲わない。
「ごめん、私、寝ちゃったのかな? コウちゃん、ここまで運んでくれたの?」
「うん、そう。運んだ」
「ありがとう」
「ぜ、全然! それくらい、全然」
さっきから動揺していて、話し方がぎこちない。おまけにまた赤面しそうだった。
「ナ、ナナちゃん、良く寝れた?」
「うん。コウちゃんがいてたからか、ぽかぽかしててとっても気持ちよかった」
ナナちゃんって人は。俺の気持ちを知らないからこそ、ナナちゃんは俺が赤面するようなことを平気で言う。本当に……俺をここまで赤面させるのはナナちゃんしかいない。
「……そっか、良かった」
「ベッドに運んでくれたし。嫌なこと全部忘れてて幸せだった」
ナナちゃんは少しは元気になったようで、安心した。また微かに笑うナナちゃんを見て俺は決心した。そして、思い切って切り出した。
「あのさ、ナナちゃん」
「なに?」
「好き」
「え?」
「俺、昔からずっとナナちゃんのことが好きなんだ。ナナちゃん、いつも俺が誘ったら一緒にご飯行ってくれるし、いつも優しいし、お日様のような笑顔で笑うのが可愛いし好きだよ」
「うん……」
「でね、今日ナナちゃんが泣いてたの……正直言って辛かった。ナナちゃんがミクさんのこと大切に思っているのは知っているから、本当に苦しかった。だから、こんな俺でもナナちゃんのために何かしてあげたいと思った」
「コウちゃん……ありがとう、気持ち嬉しい……けど、ごめ、」
「分かってる。俺はこの恋が叶わないのを知ってて言ってるから。だから、お願い。ナナちゃん、謝らないで」
「うん……」
「でも、迷惑かもしれないけど、この思いは伝えたかった」
「そんな……迷惑じゃないよ! コウちゃんの気持ち嬉しいよ……」
「そっか、良かった……」
俺たちは微かに笑い合った。
「ナナちゃん」
「うん?」
「俺ね、本当にナナちゃんが好きなんだ。一生って誓える! 俺、重いんだ!!」
「う、うん……?」
俺はいつの間にか熱弁していた。ナナちゃんは少し困惑気味だった。
「だから、これからも仲良くしてほしい」
「うん、それはもちろん! これからもよろしくね」
「でも、それだけじゃ嫌なんだ。我儘だけど、もし何かあったら絶対に知らせてほしい。ナナちゃんに何かあるのは本当に嫌だから」
「うん、分かった」
ナナちゃんは真剣な顔で俺を見て、そう約束してくれた。
「それと……俺は、ナナちゃんに俺が出来ることはすべてしたい」
「……」
「だから、俺に愛されてほしい」
「コウちゃん……」
「ナナちゃんは何も考えなくていいんだ。俺の愛を利用しているとか、それが良くないとか、迷惑だとか、だめだとかって考えなくていい。だって俺がナナちゃんにそうしたいから。遠慮せずに、我儘もいっぱい言ってほしい」
「コウちゃん、でも……」
「ナナちゃん、お願い」
俺は真剣な目でナナちゃんを見つめた。ナナちゃんは俺のその目に偽りがないのだと確信したようだった。
「分かった。コウちゃん、本当にありがとう」
「ううん。こちらこそ、ありがとう、ナナちゃん」
俺たちはまた笑い合った。
時間が経つのは早くて、俺たちはあっという間に社会人になった。沢山の色々なことがあった。嬉しいことも楽しいことも辛いことも悲しいことも。けれど、それを俺とナナちゃんは一緒に乗り越えた。ナナちゃんとの良い思い出が沢山あって、忘れたいことも沢山あった。これからどんなことがあろうときっと、いや、絶対俺たちは大丈夫だ。俺とナナちゃんは今も仲良くやっている。俺たちにもう怖いものはない。
同性愛者の君を愛したい。 ABC @mikadukirui
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