第2話 死霊術師は霊の声を聞く

 カランッ

 扉の鐘がなる。今日で約束の1週間後だ。


「いらっしゃい。」

 今日はすでに遊華がカウンターの前にある椅子座りコーヒーを飲んでいる。美幸が中に入ったのを確認すると笑顔で出迎えた。


「お久しぶりです。宜しくお願いします。」

 美幸が遊華に頭を下げる。その後、ユウが美幸をテーブル席に案内し、コーヒーを出した。


「前回言ったように、調査をしました。結論を申し上げるまえに今回の請求になります。」

 遊華は美幸が座った向かいの席に移動すると、そっと黒い革のバインダーに挟まっている請求書を伏せた状態で美幸の前に置いた。まるでカフェの伝票だ。


「はい。大丈夫です。」

 美幸は伝票を確認すると少し安心した表情で答えた。予想よりも費用が安かったのだろう。バインダーを受け取りつつ、美幸の了承を得て遊華が話し始める。


「まず、明美さんはすでに亡くなっています。」

「えっ!死体見つかったんですか!?」

 遊華の言葉に美幸は思わず身を乗り出した。


「いえ、でも場所はわかります。だって。」

「それってどういう……。」

 美幸は遊華の言葉の意味がわからず困惑している。それもそうだろう。亡くなった本人が死体の場所を教えてくれるなど意味がわからないことだ。


「あら?貴方は誰に依頼をしたの?ここは何という所でした?」

 遊華がすこし意地悪そうにほほえみながら美幸に質問する。


「……死霊術探偵所……で、でも本当にそんなこと出来る訳が……。」

「では、見せましょう。」

 遊華がそういうとユウが静かに遊華の横に近づき、テーブルの上に置いてあった美幸のコーヒーを持ち上げた。


「……一時的にお預かりします。」

 ユウはそう言うと美幸のコーヒーを隣のテーブルに置く。遊華と美幸が座るテーブルには白いテーブルクロスと遊華に出されたブラックのコーヒーが入っているティーカップのみになった。


「「我、汝を呼び出さん。死者の声、死者の覚醒。我が刻む印の元、我死者を覚醒する物なり。」」

 遊華とユウが同様の呪文を唱える。さらに遊華は手にとったティーカップを傾け、丸いテーブルに少しずつコーヒーを垂らす。絵を書くように腕を動かしながら出来て模様は漫画などでよく見る魔法陣のようだった。


「「我は命ずる。命亡き汝の姿を今見せよ。」」

「きゃっ!!!」

 二人が呪文を唱え終えるとテーブルクロスが青と緑を混ぜた炎で一瞬にして燃え上がった。急な炎と一瞬の熱に美幸は驚き顔を覆う。そして、目を開けたとき、テーブルの上には半透明の明美の姿があった。


「あ、明美?う、嘘……。」

 美幸は目を見開いた。かなり驚いているようで、身動きすら取れないでいるようだ。


「心配しなくても大丈夫よ。死霊術師が呼び出した霊は死霊術師の命でしか動けないもの。そして、死霊術師は霊の声を聞くことが出来る。」

 遊華はそう言うと、隣にあった椅子を引いた。明美の霊は音も立てずその椅子に腰掛ける。美幸はその様子をみて震えているようだ。


「で、彼女に聞いたわ。彼女の体がどこにあるのか。」

 遊華は少し目を細める。猫が獲物を見定めているような瞳の奥に何かが光っている気がする。


「彼女の体は貴方の学校の近く。山にある沼の中よ。」

「あ、あんな所に……。」

 遊華が明美に聞いた死体の位置を美幸に伝える。心当たりがあるのだろう。


「じゃ、じゃあそれを早く警察に伝えないと!」

 美幸は焦った様子でスマホを取り出した。


「止めといたほうがいいわよ?」

「なぜですか!?」

 警察へ連絡しようとする美幸を焦った様子もなく遊華は止める。その意味が理解出来ないのか美幸は少々の苛立ちを感じているようだ。


「警察にはどう説明するの?幽霊に聞きましたって言って信じてくれると思いますか?」

「そ、それは……。」

 そう、あくまでこれはであってその他に証拠はないのだ。遊華達からしたら本人から聞いたのだから何よりの証拠であるが、幽霊など信じて居ない人からすると根拠のないデタラメを言っている似すぎない。


「じゃあ、どうすれば……。」

 美幸はあからさまに焦っているようだ。


「それは簡単です。殺した犯人に自首してもらえばいい。」

 美幸を見る遊華は怪しげな笑みを浮かべている。


「そんなこと…どうやって……。」

「私がやるわ。準備するから待ってて?」

 遊華はそう言うとすっと立ち上がりユウと共にカウンターの奥に消えるのだった。

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死霊術探偵所~死者の恨み晴らします~ kika @kika101385

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