死霊術探偵所~死者の恨み晴らします~
kika
第1話 昔ながらの洋風なカフェといった様子
カランッ
入り口の扉についていた鐘がなる。つまり来客の知らせだ。カウンターと何席かテーブルがある。昔ながらの洋風なカフェといった様子だ。しかし、ここがカフェでないことは分かっている。私はある目的の為にこの建物に入ったのだから。
トントントントン
鐘の音に気づいたこの店の人がこちらに近づいてきている足音がする。
「……いらっしゃいませ。」
奥からカウンターに顔を出したのは高校生か大学生になったばかりくらいの青年だ。静かな声でこちらに挨拶をしてくれている。
黒い髪と黒縁眼鏡で大人しそうな男の人だ。眼鏡の奥の目は少しぼーっとしているのかどこか遠くを見ている気がする。
「あ、あの!」
青年は私の言葉を待っているようだ。ぼーっとした瞳が私の瞳を見つめている。少し照れる。
「ここは
そう。私の目的は、死霊術師にある依頼をすることだった。
「……はい。所長のことですね。……そちらのテーブルに掛けて少しお待ち下さい。」
青年はそう言うと私の目の前にあるテーブル席に私を案内する。テーブルは丸く椅子が四脚設置されている。丸いテーブルに上座があるのかはわからないが、出入り口から遠い側の椅子を引かれ着席した。
「……所長を呼んで参ります。」
そう言うと男性は静かにカウンターの奥の扉に入っていった。
「……只今所長が来られますので。」
1分もしない内に男性が戻ってきて私に報告すると、カウンターの裏で作業をし始めた。
漂うのはコーヒーの匂いだ。メニューはないがカフェの見た目通りコーヒーも作れるようだ。
ジョロジョロジョロとお湯を注ぐ音が聞こえる。しっかり青年がドリップしているようである。
「お待たせ。」
そうこうしていると、カウンターの奥から女性の声が聞こえた。カウンター方を見るとまるで日本人形のような美少女が立っている。肌は白く、対照的な黒髪は長くキューティクルでキラキラ光って見える。
「丁度コーヒーも入った感じね。あの子が相談人?」
「……はい。コーヒーもすぐお持ちします。」
美少女と青年が会話をして、美少女が私の座るテーブルの向かいの席に座る。
「始めまして。私がここの所長で死霊術師の
美少女は明るく私に話しかける。しかし私は固まってしまった。だって、探偵の所長って言うとおじさんを想像するじゃないですか?それにわざわざ訪ねて言うのもあれですが、死霊術師とか意味分かんないこと言っている人ともなればもっとよぼよぼで、持ち手が髑髏の杖とか使ってる怪しい感じの人を思い浮かべるものだ。表情には出さなかったが、どんなやばい人が来るのかと内心ビクビクして待っていたのだから。それなのに目の前にいるのは私より年下に見える美少女なのだから固まってしまってもしょうがないと思う。
「……コーヒーです。ミルクと砂糖はお好みでご使用ください。」
「ありがとっ。」
「あ、あありがとうございます。」
私は青年の声で我に帰る。そして、不安な眼差しを青年に向けていたのだろう。
「……所長で間違いありませんよ。僕もカウンターで仕事をしていますが、聞いたことは誰にも話しませんのでご安心ください。」
青年はそう言って一礼すると、静かにカウンターの裏に戻っていってしまった。
「さて、なにか失礼なことを想像してそうだから言っておくけど私25歳ですからね?子供じゃないですよ?それに死霊術師だからといってよぼよぼの髑髏とか杖にしているような怪しい人じゃないですからね!」
「えっ!?」
完全に心を読まれている。これが死霊術なんだろうか?ちょっと怖くなってきた。
「えっと…それも死霊術か何かでわかるんですか?」
私は恐る恐る訪ねてみる。すると遊華さんはキョトンとした表情になる。
「いや、勘よ。今まで依頼に来た人みんなそうだから。いや~若くて美しいて罪ね~。」
話さないと美少女なのだが話すと少し残念な気がする。でも、私より年上らしいし、どう接すればいいのだろうか悩む相手だ。
「まぁ、私のことは置いといて、なにか相談事があったんでしょ?私の力で対応できる事ならばご依頼お受けしますのでまずは内容を聞かせて貰えますか?」
商売モードなのだろうか、セリフが後半に行くに連れて少し凛とした雰囲気を感じる。ここまで来てしまったのだ遊華さんを信じて相談してみよう。
「じ、実は、探し物をお願いしたくて。」
話は一週間ほど前に遡る。
「
「待ったよ~。罰としてアイス奢りね。」
「えぇ~。」
私には同じ大学に通う明美と言う友人がいました。
明美とは大学に入ってから知り合ったんですが、同じサークルに入ったこともありよく話すようになりました。明美は美人で明るく、大学の皆からもとても人気がありました。
「ねぇ、今日も家で課題やらない?」
「いいね!明美のアパート広いからいいよね~。」
お互い実家を出て一人暮らしをしていることや趣味について話が合ったこともあり、アパートでお泊りすることもあったんです。
そんな明美が急に余所余所しくなりました。
「あ、明美~今日遊ばない?」
「ごめん今日無理!」
と言った具合に私と距離を置き始めたんです。大学の他の友だちに対しても一緒らしく、サークルもほとんど来なくなりました。
「うん。分かった。うん。」
学校でたまに見かけても誰かと電話するとすぐ早退するようになって、初めは彼氏でも出来たのかなって思ってたんです。でも、だんだん明美の様子が変わっていきました。
「あーもうっ!」
学校で見かける明美は見るからにイライラしていて、近寄りがたい雰囲気でした。
「明美、どうしたの?最近ちょっと変だよ?」
私は心配になって明美を見かけたときに話しかけてみたんです。もしかしたら私が力になれることがあるかもしれないと思って。
「今おこってることはあんたのせいでしょっ!いいからどっか行ってよ!」
私は余計に明美を怒らせてしまいました。その時は周りにいた友達が間に入ってくれて終わったんです。でも、その後から学校で見かけることもなくなりました。
そして1週間前、学校で明美が行方不明になったからなにか情報がないか教授たちから聞かれました。私が明美を怒らせてしまったからどっかに行ってしまったのかもしれない。そう思うと居ても立っても居られなくなりました。
「っと言うわけなんです。」
私はすべてを話し終わると、砂糖2つとミルクを入れたコーヒーで口の乾きを潤した。
「なるほどね。」
遊華さんは真剣な表情で話を聞き終わると机に肘を付き手を口元に持っていきました。
「明美さんはあなたのせいで怒っているって言ったのよね?なにか心当たりはある?」
遊華さんはまっすぐ私の目を見つめてくる。美少女にまっすぐ見つめられてドキッとしてしまうのは不謹慎なのだろうか?
「はい…。思い当たることはありません。」
「そう。じゃあ、それを踏まえて調べてみます。次はいつ来れるかしら?そういえば、お名前聞いてませんでしたね。」
「
私が遊華さんの質問に答え、調査をしてもらえることになったらしい。次回は1週間後にまたこちらに来ることを告げ、建物を後にした。
「……所長?」
青年は美幸と名乗った女性が立ち去った後も同じ席に座り続けている遊華に対して声をかける。遊華はゆっくりと青年の方へ振り向き微笑んだ。窓から差し込む日差しが絶妙な陰影を作り、その様はまるで絵画の一部を切り取ったかのように神秘的な雰囲気を醸していた。
「ユウくんはどう思う?」
「……多分もう駄目です…。」
ユウくんと呼ばれた青年は少し悲しげに目を伏せ答える。まるで答えを知っているかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます