詩「最終電車」

有原野分

最終電車

迷路のような地下鉄

脳内を駆け巡る思い出の

慌ただしい侵攻と信仰のクーリングオフ

私はきみに言葉を届けたくて

なにか言葉を送り届けたくて

今夜も手紙を書くのです

  丸くて四角くてところどころ尖ってて

  虫みたいな貨物列車みたいな星みたいな

  懐かしいあなたの横顔を思い出しながら


真夜中の郵便受けは

過去の手紙でぐしゃぐしゃだ

それでも切手を貼り続けることは

封を決して切らないでいる日中の

明日という曖昧な言葉が影のように揺らいで

 消えていくということだ

  明日も晴れるだろうか


ありのままに想像する

昨日捨てた扇風機の羽の枚数を

その風を目を閉じてただ浴びる

思い出が目の前を通過していく

羽が風もなく回っている

また今夜も日が落ちる

つい先ほど胃の中に落ちていった夕焼けの

その余韻は息を吐く度にマスクを赤く染め

私の常備している胃薬を三錠ほど溶かし

どうにか夜を迎え入れようと頑張っていたの

 だけれども

夕焼けの真っ赤に光る残光が美しすぎて

もう今夜は間に合いそうにないのです

 「

  まもなく到着の電車は本日の最終電車で

  す。お乗り遅れのないようにご注意下さ

  い。まもなく到着の電車は本日の……

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詩「最終電車」 有原野分 @yujiarihara

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