JAN KEN WORLD CUP

あびす

JAN KEN WORLD CUP

「さあ始まりました、第三十四回ジャンケンワールドカップ」

「解説は林田邦夫ジャンケン名人、聞き手は私小町沙羅でお送りいたします」

「よろしくお願いします」

「早速ですが、ジャンケンというのはあのジャンケンですか?」

「はい、あのジャンケンです。三種類の指の出し方で三すくみを構成し、その相性で勝敗を決める世界各地に古くからある遊戯ですね。地域によっては手の出し方が四種類だったりもっと多かったりしますが、公式戦では基本的に『グー』『チョキ』『パー』の三種類を使用します」

「これは普通に運ゲーなのではないですか?」

「一見そう思われがちですが、相手の表情、今まで出した手のパターン、手を振り下ろす僅かな瞬間すらも観察して最善の手を出す。精神力を限界まで高める必要があります。かなり高度な読み合いですよ」

「そういうものですか」

「そういうものです」

「では対戦者紹介に移らせていただきます。鈴木慎二ジャンケン竜王……ジャンケン、竜王です」

「ジャンケン七代タイトルの一つ、ジャンケン竜王の持ち主ですね。相手の策略を真っ向から受け止める姿勢からついた異名は『魔王』。今回もそれに恥じない試合を見せてくれることを期待しています」

「対するのはシーザー・ロッペジャンケンアマチュア五段……ジャンケンアマチュア五段……?」

「アメリカ出身のストリートジャンケニスト」

「ジャンケニスト」

「プロではないものの、五段まで上り詰めたその実力は大したもの。祖国では敵なしになったので、更に強い相手を探しにきたそうです。彼の持ち味は圧倒的な分析力。それにちなんで『サイエンティスト』と呼ばれています。公式戦でパーを五回連続で出したのは歴史上彼が初めてです」

「ではルール説明を……えー林田名人」

「林田『ジャンケン』名人です」

「……林田ジャンケン名人、ルール説明をどうぞ」

「はい。ジャンケン公式戦は、三本先取で勝利の五回勝負で行われます。審判の『最初はグー、ジャンケン』の声を合図に、二人で『ポン!』と手を出し合ってその結果で一回ずつの勝敗を決めます」

「まあ、つまりは普通のジャンケンと同じというですね」

「いえ、一見シンプルに見えますがこの裏では高度な読み合いが」

「それでは一戦目の開始です」

「お互いに、構えて。一戦目、最初はグー、ジャンケン」

「ポン!」

「ポン!」

「鈴木選手の出した手は『グー』で……」

「シーザー選手が『パー』を出しました。一戦目はシーザー選手の勝ちです」

「なんというか……随分あっさり決まりましたね」

「まあ元々ジャンケンというのはそういうものです。相撲なんかとも通じるところがありそうですね。さあ、二戦目が始まります」

「同列に並べられる相撲が不憫です」

「お互いに、構えて。二戦目、最初は」

「『パー!』」

「!?鈴木選手、審判の掛け声に割り込んで『パー』を出しましたよ!?これはルール的に大丈夫なんでしょうか!?」

「はい、ジャンケン公式戦では審判の掛け声に割り込んでグー以外の手を出すのは一回だけという条件付きで許されています。ほぼ確実に勝てるため、これをどのタイミングで使うかというのも読みあいになるわけです。その証拠に見てください。シーザー選手の出した手を」

「!?『チョキ』です、シーザー選手『チョキ』を出しています!」

「彼はここまで読んでいたわけですねえ。深すぎる読み。これが彼が『サイエンティスト』と呼ばれる所以ですよ。これでシーザー選手の二連勝、鈴木選手もう後がありません。果たしてここから逆転できるのか」

「お互いに、構えて。三戦目、最初はグー、ジャンケン」

「ポン!」

「ポン!」

「シーザー選手が出した手は『チョキ』、対する鈴木選手は……なんですかねこれ……親指と小指だけを立てています。見たことない形ですね」

「おおっ、これは『ヌー』です!珍しい、『ヌー』が見られるとは!強さの序列は『ナメクジ』より上『ベンチプレス』より下なので『チョキ』には勝利です。いやあここで『ヌー』を使ってくるとは!さすが『魔王』ですねえ」

「すみません、怒涛の展開すぎてついていけないのですが」

「ジャンケンは『グー』『チョキ』『パー』の三つの手しかないと思われがちですが、実はそれ以外に約七万種類程の手があります。だんだん簡略化されて行った結果その三つしか使われないようになっただけで、世界ジャンケン連盟に登録されている手なら公式戦でも使うことができます」

「な、七万……」

「さらにその手の中には出すのに条件がつくものもあります。例をあげると、『ケルベロス』は事前に『犬』を三回出していなければ使用することができません。まあ、これは十七回勝負などの長期戦でしか使われませんけどね」

「はあ……」

「ともかくこれで鈴木選手は首の皮一枚繋がったというところですね。四戦目、果たしてどうなるか」

「お互いに、構えて。四戦目、最初はグー、ジャンケン」

「ポン!」

「ポン!」

「……私には二人が出している手が全くわかりませんので、林田ジャンケン名人解説をお願いします」

「鈴木選手が出している手は『悪魔』ですね。神聖特攻がついているので、シーザー選手の出した『神父』に効果は抜群です。よって四戦目も鈴木選手の勝利。これは逆転が見えてきましたよ」

「お互いに、構えて。最終戦、最初はグー、ジャンケン」

「ポン!」

「ポン!」

「……んん?私には、シーザー選手の出した手が『チョキ』に見えるのですが?」

「そうですね、手の形は『チョキ』と同様です。しかし、ひとつ前の試合で『神父』を出している場合、あれは『ガブリエル』になります。比較的簡単に出せて強力な手です。そもそも神父は弱い手ですが、そこから繋げることのできる手が多いという特徴があるので布石として出しておいたんですね」

「対する鈴木選手は……なんですか?」

「おおお!!これはすごい!『バフォメット』です!ここで『バフォメット』に繋げるとは!まさに大逆転勝利ですよ!」

「……どこら辺がすごいんですか?」

「『バフォメット』を出すには『角のある生物』から一つ、『闇の眷属』から一つを繋げなくてはいけません。なので鈴木選手は『ヌー』、『悪魔』を出したんですね。しかし、当然シーザー選手もこれは読んでいました。なので『ガブリエル』を出したんです」

「そこまで読めていたなら、なぜシーザー選手は負けたのですか?」

「実は、この手順を行って出す手は『バフォメット』だけではありません。というより、同じ手順の『サタン』を出すために使われるほうが多いんです。ですが、『サタン』では『ガブリエル』に負けてしまう。つまり、鈴木選手はシーザー選手が『ガブリエル』を出すことを読み切った上で『バフォメット』を出したんです。いやあ、まさに『魔王』ですね」

「はあ……」

「さあ、第三十四回ジャンケンワールドカップ、優勝は鈴木慎二ジャンケン竜王です!今回も白熱した戦いが見られましたねえ!これからのジャンケン業界が楽しみです!それでは皆さん、また来年のワールドカップをお楽しみに!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

JAN KEN WORLD CUP あびす @abyss_elze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ