第46話 ルーカスとエイルの対談
ふた月後、災害の連鎖がピタリと止まった。時には戦い、時には逃げ、時には救う。そういった行動を取る必要がなくなる。ようやくひとつの場所で安定した支援をすることが出来るようになった。
「ストリア大陸全土、災害の連鎖が止まったか。各支部およびチームに連絡だ。安全な場で拠点を築き、支援を行うようにと」
先に本部があるドラグディアに戻っていたエイルは事務部に指示を出す。落ち着いてはいるが、やるべきことはそれなりにある。なにせドラグディアの方も災害に見舞われ、半壊した建物が王都全体の80%といった状態だ。全体の指示を下しながら、王都での活動もする必要がある。
「おーい。エイル。手伝いに来たぞ」
日にちが経ち、曇りがないとある日、エイルの師匠であるガレヌスが白いテントの中に入る。
「師匠。お願いします。こちらの方をやっていただけると助かるのですが」
エイルは指示書をガレヌスに渡す。こうして医療体制を整えていく。怪我人だけではなく、病に罹っている者や急病になった者など、治す必要のある人たちがいるためだ。それ以外にも衛生面が悪化しているので、その辺りを改善するような活動も行う。
「ドラグディア建築組合のベロニカと申す。エイル殿はいるか」
「いるぞ。入れ」
ガレヌスと話し合おうとした矢先、ベロニカと名乗る黒い建築士が白いテントの中に入ってきた。
「こちらが仮の住居の設計図だ。それと診療所のも作っておいた」
ベロニカはボロボロの薄汚い紙2枚をエイルに渡す。
「助かる。いつぐらいに作業に取り掛かれそうだ」
「ひと月後から出来そうだ。こちらも動けない奴がいるからな」
「分かった。機能訓練表を作っておこう。その前に診る必要があるな。1時間後に3人派遣したいが問題ないか」
「ああ。そうしてくれると助かる。そろそろ失礼しよう。互いに忙しい。ここでのんびりとしている暇はない」
「そうだな。ありがとう。ベロニカ」
ベロニカの言った通り、互いに忙しい。王都を駆け回ったり、会議に出たりと、休む暇がない。ホッとする余裕が出来た頃には元の生活が出来る状態まで戻っていた。半年程度でレンガの建物が並び、時計の塔が造られ、市場が再開して、ほぼいつもの王都の様子に戻ってくる。
「英雄様が戻って来たぞ! ドラグ王国が誇る英雄、ルーカス・カモマイル達だ!」
そしてエイルがようやくまともな休日を過ごしていた時、王都内が騒がしくなった。住人の誰かが叫ぶその名に聞き覚えがあった。一致しているが、エイルが知るルーカスかどうかは不明である。それを確認するため、3階の自室から様子を見る。窓から見ることが出来る大通りにたくさんの人が集まっていた。人で道を作っているような形だ。
「俺の知るルーカスだ」
先頭に立つ男を見て確信した。太陽の光に当てられた金髪が輝くお人好し、エイルの知るルーカスで間違いなかった。盾を持つ大男ウッドと紫色の女性ソフィア、そして以前はノーボーダーズに所属していたイザベラ。何かしらの関与があるという話を耳にし、彼らが英雄と呼ばれるようになったからこそ、察することが出来た。亜人を暴走させた主犯たちの主を打ち倒したのではないかと。エイルの答えが正確だと判明したのはルーカス達の帰還から数日後のことだった。
「エイルさん。国王陛下から手紙が来ました。それと来客がいるのですが」
普段と同じように新しく建てられた本部で仕事をしている途中、事務員のひとりである女性から話しかけられる。その隣に緑目の金髪のお人好しな感じの男がいた。生地の薄いジャケットを羽織っている。
「やあ。久しぶりだね。エイル。時間をもらってもいいかい」
「ああ。急ぎの仕事はないから問題ない。付いて来い」
新しい建物には屋上がある。基本事務員ですら使わないところなので、エイルはそこでルーカスと話す事にする。4階まで上り、鍵の解除をして、ドアを開ける。レンガの建物に囲まれている。
「ドラグディアがここまで復興してたとはね」
ルーカスはぐるりと360°回って、外を見ていた。そしてエイルの目を見て言う。
「戦っている時に言われたよ。部下たちを大陸に解き放って、侵略の土台を築き上げているだろうって。仮に頭を潰したところで、帰るところがなかったら無意味だろうとね。それを聞いたら誰だって止まるだろ。俺だってそうだった。けどイザベラは違った」
エイルはルーカス達が倒した悪人について詳しくはない。そこまで興味を持っているわけでもない。その一方でイザベラは元々ノーボーダーズにいた者だ。元上司として気になるので、エイルは質問をする。
「イザベラか。何か言ったりしたか」
「うん。そんなにやわじゃありませんって言い返してたよ。元々いたノーボーダーズがやってくれてるって信じてたんだろうね。どういうとこかぐらいは知ってたから、彼女の言葉を聞いて俺達も大丈夫だと信じた。実際そうだった。たくさんの被害があったけど、こうして日常の生活に戻りつつあるわけだし」
「そうだな。ようやく落ち着いた」
数か月にも渡る長期休暇なしは流石に仲間達もきつかった。ひと段落した後、少しずつ休みを与えている。色んな意味で大暴れをした人もいるみたいだが、その辺りは確証がないため、スルーだったりする。
「エイル。俺は思うんだ」
「何がだ」
「確かに俺達は悪い者を倒した。真相を知り、戦い、打ち倒したさ。そしてその行動は英雄と呼ばれるに等しいものだった。けどね。悪い者、強力な者を倒すだけが英雄じゃない。人を救うのも英雄に相応しいものだ。だから俺達にとって、君たちノーボーダーズは影の英雄さ。だって帰る場所があるのは、君たちも頑張ってくれたからね」
ルーカスの台詞を聞いたエイルは山がある北方面を眺める。穏やかな顔で長として発言する。
「だが俺達は出来ることをしたまでだ。それはこれからも同じだ」
物語はこれにて閉幕。しかしノーボーダーズという組織に終わりはない。活動自体、終わりがあるわけではないためだ。だからエイル達はこれからも人を救い続ける。国境を超えて。大陸を超えて。影の英雄と呼ばれながら、いつも通りに動くことだろう。
ノーボーダーズ!~国境超えて救助します! いちのさつき @satuki1
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