クリフハンガー

(没案)クリフハンガーより愛を込めて

 その少年は地球ともアスタリスクとも違う異世界の廃屋にいた。


「ユーゴ!やっと、やっとか!」


 小さな穴の空いた壁からうっすらと月の光が差し込む暗い部屋の中で破れたソファに座り、両手を握りこぶしにして興奮を隠さずに叫んでいる。綺麗に整えた老竹色の髪を揺らして。幼いが端正な顔を歪めて。


「僕にもあの世界の映像がはっきりと見えた!ユーゴの影響力がに拮抗しつつあるようだ!」


 刺繍の入った分厚いロングコートの下にシャツとジャボ、半ズボンを纏った少年が目を閉じた。瞼の裏にアスタリスクの、いや、見藤祐護を中心とした映像を浮かべて、ほくそ笑む。


(ユーゴの精神に影響された流星。やはり綺麗だ……。……っと、またこのガキか)


 チッ、と舌打ちをしてから、少年は目を開いた。


「今世でも僕の邪魔をするんだな。目障りな」


 眉間に皺を寄せ、忌々しげに独りごちてから、腕を組む。


(ユーゴが己の真実にたどり着くのを待つべきか。……いや、これ以上とあのガキにユーゴを好きにさせるわけにはいかない、


 少年は結論を出すと立ち上がり、右手を前にかざした。空間が切り裂かれ、そこから赤い光が溢れる。

 

(来訪者のを奪って無理矢理入り込もう。そうすればある程度はを欺くこともできるだろう)


「ユーゴ。かわいそうな来世の恋人。僕は今世でも会いに行くよ」


 床に落ちている無数の刃物の中から錆びた包丁を拾い上げると、少年の表情が慈しみを含んだ笑みに変化した。


(あのガキの愛を、ユーゴ)


 赤い光に吸い込まれ、地球ともアスタリスクとも違う異世界から、少年の存在が消え去った。

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糠星に聖なる願いを 眞石ユキヒロ @YukichiAwaji

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