ここはドラゴンのおなかの中

本編

「いいか、マホ。ここはドラゴンのおなかの中（なか）だ。ぼくたち、食（た）べられちゃったんだ。でもだいじょうぶ。おにいちゃんがきっと助（たす）けてやるからな」

　おにいちゃんの言葉（ことば）に、マホちゃんはこくりと頷（うなず）きました。

　でもどうやって外（そと）に出（で）たらいいのでしょう。

　ドラゴンのおなかの中（なか）は、とてもあたたかです。

　それに、うすぼんやりと明（あか）るくて、おにいちゃんの顔（かお）もよく見（み）えます。

　マホちゃんは少（すこ）しだけ安心（あんしん）しました。

「おにいちゃん、おなかの中（なか）なのに、どうしてこんなに明（あか）るいの？」

「ドラゴンはさ、火（ひ）を噴（ふ）くだろう？　ドラゴンのおなかの近（ちか）くには、火（ひ）をつくっている場所（ばしょ）があって、そこがずっと燃（も）えてるから、こんなに明（あか）るいんだよ」

　マホちゃんは、なるほど、と思（おも）いました。

　おにいちゃんは物知（ものし）りです。

「おにいちゃん、どうやったらお外（そと）に出（で）れるかな？」

「そうだな。出口（でぐち）をさがそう。とりあえず、上（うえ）か下（した）かに向（む）かおうか。マホ、どっちがいい？」

「下（した）はイヤだよ」

　出（で）るなら、お口（くち）からが良（い）い。

　マホちゃんは、そう言（い）いました。

　マホちゃんとおにいちゃんのふたりは、ドラゴンのおなかから、お口（くち）を目指（めざ）すことにしました。

　もぞもぞ、もぞもぞ。

　立（た）って歩（ある）けるほどの高（たか）さはないので、ハイハイのようなかっこうです。

　もぞもぞ、もぞもぞ。

　ちょっとずつしか進（すす）めません。

「おにいちゃん、わたし、おなかすいてきちゃった」

「よしよし。おにいちゃんはチョコを持（も）ってるからな。いっこ分（わ）けてやるよ」

「ええ？　こんなとこで食（た）べたら怒（おこ）られるよう」

「平気（へいき）さ。わかりっこないもん」

　ふたりはこっそりチョコを食（た）べました。

　でももうおにいちゃんのポケットは空（から）っぽです。

　早（はや）く出口（でぐち）を見（み）つけないと、大変（たいへん）なことになってしまいそう。

　それになんだかマホちゃんの様子（ようす）が変（へん）です。

「おにいちゃん。わたし、なんだかあつくなってきちゃった。それにちょっと苦（くる）しい。もう出（で）たいよう。出口（でぐち）、まだ？」

「もう少（すこ）しだ、がんばれ」

「……おかあさん、探（さが）しに来（き）てくれないかな」

　マホちゃんは、ついに悲（かな）しくなってきました。

　ドラゴンのおなかの中（なか）は、思（おも）った以上（いじょう）に狭（せま）くて、動（うご）きにくくて、だんだん熱（あつ）くなってくるのです。

　それにずっと頑張（がんば）っているのに、全然（ぜんぜん）おなかから他（ほか）の場所（ばしょ）に行（い）けません。

　本当（ほんとう）に出口（でぐち）は見（み）つかるのでしょうか。

　その時（とき）です。

「お兄（にい）ちゃぁん――？　マホちゃぁん――？　どこにいるの――？」

「あっ、おかあさんの声（こえ）だ！！」

　マホちゃんの顔（かお）が、ぱっと輝（かがや）きました。

「おかあさん、ここぉ――」

　マホちゃんが叫（さけ）ぼうとした口（くち）を、あわてておにいちゃんがふさぎます。

「ダメだよ、おかあさんまでドラゴンに見（み）つかって、食（た）べられちゃうよ」

「そんな！！　おかあさん、食（た）べられたら困（こま）る」

　おにいちゃんは、腕組（うでぐ）みして考（かんが）え始（はじ）めました。

「おにいちゃん！　たすけてよ。マホ、もうお外（そと）に出（で）たい！」

「……わかった。おにいちゃんが魔法（まほう）で、ドラゴンのおなかを吹（ふ）き飛（と）ばす！」

「えっ」

「危（あぶ）ないから、マホは端（はし）によっとけ。いくぞ？」

「せーの！　ドカーン！！」

　おにいちゃんのかけ声（ごえ）と一緒（いっしょ）に、いきおいよく跳（は）ねのけられたのは、お布団（ふとん）。

　ベッドの下（した）に、ぽふりと落（お）ちて、中（なか）からふたりの子（こ）どもたちが元気（げんき）いっぱいにあらわれました。

　おかあさんは目（め）を丸（まる）くします。

「あらあら、ふたりとも、大（おお）きな貝（かい）に食（た）べられてたの？　可愛（かわい）い真珠（しんじゅ）ちゃんたち、みぃつけた」

「違（ちが）うよ、貝（かい）じゃないよ！」

「じゃあクジラさんかな？」

「ドラゴンだよ、おかあさん！　わたしたち、おっきなドラゴンに食（た）べられてたの！　でもおにいちゃんてば魔法（まほう）が使（つか）えたんだよ。それでね……」

　探（さが）したお口（くち）からは出（で）られなかったけど、おにいちゃんの魔法（まほう）で、マホちゃんは無事（ぶじ）おかあさんの元（もと）へ戻（もど）ることが出来（でき）ました。

　ふたりの冒険（ぼうけん）を聞きながら、おかあさんはニコニコと美味（おい）しいおやつを出（だ）してくれました。

　あれ、あれあれ？

　ふたりとも、ドラゴンのおなかの中（なか）に残（のこ）して来たチョコの包（つつ）み紙（がみ）、おかあさんに見（み）つからないようにね？

　おしまい