ヘンナコ
流れで避難所を飛び出してしまって、どうするかはまだ決めていない。他の避難所を目指すのか、あるいは二人だけで生き抜くか。――とりあえずは命ある限り前へ歩こうと、そう思った。……あれ? 僕ってこんなに前向きな人間だったっけ。
「よし、行こうか……って、どうした?」
少女はさっきの駅ビルの方を向いたまま動かない。怒っているのか、それとも名残惜しいのか。僕には分かりかねた。少女は手を真っ直ぐ駅ビルの方に伸ばすと、ゆっくり手のひらを固く閉じた。
――それと、耳が壊れるような金属音を発して駅ビルが潰れるのが同時だった。あまりの音に頭が痛くなりながらも、その異様な光景を目に焼き付けた。駅ビルはまるで丸めたティッシュのように中心に向かってぐしゃぐしゃになっていて、一瞬のことだったので微かな悲鳴すらも聞こえることはなかった。
「一体……何が……?」
「要らないものを殺しただけダヨ? もうあいつらは必要ないデショ」
少女は振り返ると、そう言って笑った。少女が振り返った瞬間に、変な風に浮かんでいた瓦礫が一気に落下して砂ぼこりを巻き上げた。
「お前が……やったのか……?」
「モチロン」
少女の猫のような大きい目が赤く光る。それはまさしく、人間を狙う「人間の天敵」のようだった。
「お前は……お前は一体なんなんだ!」
薄々分かっていた。少女は――こいつは人間ではない。少女は楽しそうに駅ビルだった瓦礫を駆けあがっていくと、尖っている一番高いところに片足で立って、満月を背にこう答えた。
「ウチュウジン」
その笑顔は本当に恐ろしいものだった。腰が抜けて、僕はその場に尻をついた。
「オマエ、自分がいなくても世界は回ると思っていたダロウ?」
一歩一歩、僕の方に近付いてきていた。
「ザンネン♪ それはオマエだけじゃないよ」
遂に目の前まで来て、手のひらをこちらに突き出す。
「人間がいなくても世界は回る。勉強になったネ」
「――っ」
……数秒間目を瞑っていたが僕の身体がぐちゃぐちゃになった感覚はない。恐る恐る目を開けると、少女の姿は跡形もなく消えていた。潰された駅ビルは、月の光に淡く照らされていた。
壊滅した東京にいたヘンな女の子と行動を共にすることになりました。 前花しずく @shizuku_maehana
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