第58話 前王妃エンフィーネの部屋(4)

母上たちは、バルコニーにいるのか。

俺は母上の部屋に静かに入り、2人の話し声を壁越しに聞いていた。

そして、母上が調薬魔法の話をしたとき、そんなことも知らないの?と母上が無邪気に言っていて、ゲームの中の母上は本当に少女のような人だな、と思った。


「そろそろ私もご挨拶させていただいても宜しいですか?」


「レイモンド!来ていたのね」


母上はすぐ私のところに駆け寄ってきた。


「ええ、約束しましたから」


「遅かったじゃない。しかもカイン様がいらっしゃるなら先に言って欲しかったわ」


「私も知らなかったのです、申し訳ございません」


「それにしては、カイン様がいることに驚いていないじゃない」


「それは、母上の部屋の前で偶然お会いしたからですよ。陛下がせっかくいらしてくださったのですから、お邪魔しないように先に陛下だけ行ってもらったのです」


「そうなのね、カイン様は本当に何も知らなかったみたいで凄く驚かれていたわ。可哀想よ」


"かわいそう、ねぇ。この男にかわいそうなどという言葉をかけてやる義理はないのだが"


「母上に会えるのですから、陛下も喜んだことでしょう」


「そうかしら?カイン様」


「あ、あぁ」

陛下は、どう答えれば良いのかわからない曖昧な顔をしていた。


「母上、そろそろ寒くなりますから部屋の中でお茶でも飲みませんか?」


「そうね、皆で温かいお茶にしましょう!」

母上は満面の笑みで答えた。


「いや、私はそろそろ席を外そう」


「そうなのですか?せっかく家族3人久しぶりに揃いましたのに」


″家族3人………なんともしっくりこない響きなのか″


「また来るよ……」

陛下は母上にそう言った後、俺の方を見ながら、最後に「来ても良いのなら」と付け加えた。


俺は苦笑いしながら、

「誰かに入れないと言われたのを信じて自分で確かめに来ないからわからないのですよ。初めから陛下はこの部屋に入れますよ。母上の扉の魔法陣は家族以外部屋に入れないようにしているので」


「家族、か……」

陛下はボソリとそう呟いた後、母上に挨拶して出て行った。


「レイモンド、お茶にしましょうか」


母上はにこやかに俺を誘った。


″母上であって母上ではない。母上は、父上に会った後、こんなに穏やかに過ごせたことなどないのだから″

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悪役王子は死にたくないので、悪役令嬢と未来を見る しーき @shikiworiwori

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