第57話 前王妃エンフィーネの部屋(3)(陛下視点)
「少し頭を整理する時間が必要なようだ」
「ふふふ、そうね、もちろん!私はいくらでも時間はあるわ」
エンフィーネは最後に別れた時には微笑まなくなっていたのに、今のエンフィーネはよく笑う。
「夢のようだ」
「ふふふ、夢だもの」
「………そうか」
「………カイン様が来てくれるなんて、本当に夢のよう。私たちはいつの間にかすれ違ってしまったけれど、こんなふうに穏やかな日々を一緒に過ごすことが夢だったわ」
「そうか………すまない」
「簡単に謝るのですね、夢の私だからかしら?もう王妃じゃないから」
寂しそうな微笑みを讃えながら、私に向き合っているエンフィーネは、昔とは違いよく話す。
「貴女がこんなに気持ちを話しているのを初めて聞いた気がするよ」
そんなことを言うと、悲しい顔をしただけだった。
「さて、今日のところは引き上げるかな」
「え?私に用事があったのでしょう?」
「貴女に用事があったというよりは、ある魔法薬について知りたいと思ってきたんだ」
「そうなのですか?」
「………とても言いにくいが。エンフィーネ、貴女が孤児院の子供宛に渡した薬のことだ。覚えているかい?」
私はなるべく問い詰める口調にならないように注意しながら問いかけた。
「ごめんなさい、私はエンフィーネであってエンフィーネじゃないの。レイモンドにアルストロメリア帝国の魔法を伝授しきれていないから魔法の知識だけはゲームのエンフィーネにインプットしたわ。だけど、それ以外は強い思いや感情しか覚えていないの」
「エンフィーネ。孤児院を覚えているかい?貴女が………伝染病にかかってしまったところだ」
「ごめんなさい、わからないわ」
「そうか………」
「でも、魔法薬のことならわかると思うわ。持ってきてもらえたら何の魔法薬かわかると思う」
「今は持ってきていない。ただ、あなたの扉の紋様に似た魔法陣がえがかれているらしいのだ」
「そうなの。では、私が作ったのかもしれないわね」
「作った?貴女が?」
「ええ、そうよ」
「薬を作れるのか?」
「え、カイン様はそんなことも知らないの?」
あぁ、私は自分の魔法を秘匿していたのね、と笑いながらエンフィーネは事もなげに言った。
"私はエンフィーネともっと話すべきだったのか。このような壮大な世界を作り、薬も作れたとは"
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