第56話 前王妃エンフィーネの部屋(2)(陛下視点)

部屋の中に入ると、レイモンドは一緒に入らなかったようで、扉の閉まる音だけが響いた。


入ってすぐはリビングルームだったが誰もいない。


"誰かいるわけはないのだ。エンフィーネはとうの昔に亡くなったのだから。役に立ちそうなアルストロメリア帝国の魔法書でも持ち出そう"


そう思い、リビングルームに本棚はないため、次の部屋への扉を開けた瞬間、聞こえるはずのない人の声がきこえてきた。


「今日はレイモンドがくると言っていたからティータイムは庭園で出来るよう準備してちょうだい」


よく通る声でメイドに話しかけているその人は、まさしくエンフィーネだった。


"!?!?"


扉が開く音に気付いたのかエンフィーネが、扉の方を向き、話しかけてきた。


「レイモンド?もう来たの?」


"どういうことだ……"


私は固まったまま動かないでいると、エンフィーネがやってきて、扉を大きく開けた。


「まぁ、カイン様でしたか。今まで会いに来てくださらなかったのに、会いに来てくれたのですね」


「…………あなたは誰ですか?なぜ、この部屋にいるのですか?」


エンフィーネは、苦笑しつつ

「何も知らないということは、カイン様の意思で私の部屋に来てくださったのかしら、嬉しいわ」

と言い、フワッと微笑んだ。


"あぁ、こんな素敵な笑顔を向けてくれたのは結婚当初以来だな。この笑顔が好きだった"


そんなことを思いつつ、違和感に気づいてしまった。エンフィーネは結婚当初のままの姿だと。老いていない。


「まぁ、あなたのことだから、私の部屋の魔法書に用事があるのかしらね」


ふふ、と楽しそうに笑いながら、手をひかれ、バルコニーの長椅子に一緒に腰掛けた。


「ビックリしたかしら。レイモンドから本当に何も聞いていないのね。この部屋の空間は、アルストロメリア帝国が作ったゲームの中よ。私はエンフィーネだけれども、エンフィーネじゃないの」






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