絶体絶命の状況から何とか逃げ出す

 キィン!


 狼型モンスターであるウォーウルフの攻撃が俺の剣とぶつかり合い、けたたましい音を奏でた。


「くそっ!」


 俺は『器用貧乏』の固有(ユニーク)スキルを保有している結果として、『剣士』の職業スキルも習得している。だから、とりあえずの剣術でウォーウルフの攻撃を防ぐ事ができた。


 だが、所詮は低レベルな剣術しか使えない。一度だけ、運よく防げただけだ。


「「「グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」」」


 ウォーウルフの群れは唸り声をあげ、今にも俺に襲いかからんとする。このウォーウルフというモンスターのLV自体はそう高いものではない。解析(アナライズ)の魔法スキルを習得していない為、厳密にはわからないが。動きが素早いというだけで、低レベルなモンスターだったと認識している。


 だが、そんなモンスター相手でも、俺の剣術では倒し切る事は困難だった。


 無理だ。俺の剣術ではこいつ等を倒し切る事など不可能だ。


 悲観的なわけではない。それが現実だった。『器用貧乏』の固有(ユニーク)スキルにより、職業スキルの習得自体は出来るが、習熟速度が異様な程遅いのだ。俺の剣は未熟だった。俺の剣ではこいつ等を倒し切る事など到底できない。


 だが、決して俺は生きる事を諦めたわけではなかった。倒す事を諦めただけである。


「フラッシュ!」


 俺は『神官』として使える数少ない支援魔法を放った。それは『フラッシュ』の魔法だ。ダメージも何も出ない、ただ光を放つだけの目くらまし。


 眩い光を俺は放つ。


 ウォーウルフの群れは一瞬、視界を奪われた。


 「やった……逃げるぞ」


 俺は脱兎の如く、その場を逃げ出したのだ。


 ◇


「はぁ……はぁ……はぁ」


 自分の弱さが情けなかった。だが、どんなに情けなくても、俺は死ぬわけにはいかなかったのだ。


 生きてこのダンジョンから生還しなければならなかった。


 俺はウォーウルフが追ってきていない事を確認し、地面にへたれこんだ。


「どうすればいいんだ……これから」


 俺はこの固有(ユニーク)スキルを授けた神を恨んだ。色々な職業スキルを習得できるものの、習熟速度が遅いせいで、どれの職業も使いものにならない。使いものにならなければ、習得する意味なんてないじゃないか。


 皆が俺の固有(ユニーク)スキル馬鹿にしただけど、確かに馬鹿にされるのも納得だった。無意味なんだ。使いものにならないのに、習得だけできても。


 嘆いていても仕方ない。俺は立ち上がった。


「強くならないと……もっと、強く」


 習熟速度が著しく遅い。だが、遅いという事は成長しないというわけではない。だから、通常より数をこなせば習熟度(LV)は上がっていくはずだ。


 きっと活路はある。絶対に。俺はそう思った。


 それに俺は低LVながらもいくつもの職業を習得している。これは他の冒険者にはできない事だ。この汎用性の高さは恐らくは、利用できるはずだ。


「……ん?」


 俺の目の前に結晶(クリスタル)がある事に気づいた。紫色に輝く、不思議な力を秘めた結晶だ。


 魔力の波動を感じる。間違いない。魔力結晶(マナクリスタル)だ。ダンジョンによくある、結晶石(クリスタル)である。装備や魔法道具(アーティファクト)の原材料にもなっている、ありふれた素材だ。


 この時、俺の脳裏に名案が閃いた。そうだ、この魔法結晶(マナクリスタル)だ。この魔法結晶(マナクリスタル)を利用すれば、この前に一歩進む事が出来るかもしれない。


 複数個習得している俺の職業スキルを利用すれば。


 俺の中の絶望が段々と消え去り、そしてどこか自分に期待をし始めている事に気づいた。


 自分の心に希望の光が差し込んで来たのだ。


 さあ、反撃開始だ。


 俺はにやりと微笑を浮かべるのであった。ここから俺のどん底からの逆転劇が始まるのであった。




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Sランクパーティに捨てられた【器用貧乏】、あらゆる職業を極めて最強へと成り上がる~最難関ダンジョンで必死にもがいていたら、神を名乗るモンスターを倒したんだけど、あれは一体なんだったんだろうか?~ つくも/九十九弐式 @gekigannga2

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