最難関ダンジョンに取り残される

 ドスンッ。


「はぁ……はぁ……はぁ……死ぬかと思った」


 俺は地面に尻餅をついた。痛烈な痛みが走るが、死にはしなかった。落下による死亡こそしなかったが、それでも絶望的な状況に変わりはなかった。


何階層まであるのかは判明していないが、この地下迷宮(ダンジョン)『ラピスラズリ』は最難関と目されているダンジョンである。それもかなり奥深くまで来ている。


 ここまで来れたのは――性格の良し悪しは捨て置いてあのSランクパーティである『煉獄』の面々がいたからに他ならない。荷物持ち(ポーター)として、ただ荷物を運んで連中についてきただけだ。決して俺の実力でここに来れたわけではないのだ。


 幸い、荷物持ち(ポーター)をやっていた事もあり、荷物を持ったままだ。


 目減りこそしているものの、食料と回復アイテムが最低限揃っている事は不幸中の幸いだった。


『アイテム欄』


 食料×5日分

 ポーション×5個


 だが、この食料もいずれは尽きる事だろう。何とかして、俺は生き残らなければならない。生きてこの地下迷宮(ダンジョン)から脱出しなければ。


 家では今も妹のマインが俺の帰りを待っているんだ。だから俺は絶対にこんなところで死ぬわけにはいかなかった。


 何とかしなければならない。絶望していても仕方ない。現状を確認し、打開していく他になかったのだ。


 俺はステータスを確認する。

 

★ステータス


 【名 前】 ザック


 【年 齢】 15歳


 【固有スキル】 器用貧乏


 ※全ての職業スキルを習得できる代わりに、習熟速度が著しく遅い


 【レベル】 1


 【HP】    10


 【MP】     5


 【攻撃力】    1


 【防御力】    1


 【俊敏性】    1


 【魔力】     1


 【魔力防御力】  1


 【運気】     1


 【職業スキル】


 剣士LV1

 魔導士LV1

 神官LV1

 錬金術師LV1

 鍛冶師LV1

 拳闘士LV1


 俺は『器用貧乏』の固有(ユニーク)スキルがある為、初級職業であるこれらの職業スキルを習得していた。習熟度が遅い為、どれもLVは1ではあるが。職業LVは最高で100まである。LVを100まで上げれば、より上位の職業スキルを習得する事もできた。


 噂によると複数の職業スキルをLV100まで極めれば、複合された新たな職業スキルを習得する事も可能らしい。


 例えば剣士LVと魔導士LVを100まで極めれば、『魔法剣士』という、魔法剣を使用する事ができる、上位職業スキルを習得する事ができる。


 だが、遠い話であった。ただでさえ、職業LVを100まで上げるのは難しい事だ。その上に複数の職業のLVを上げるのはさらに困難だ。普通でさえ難しい事なのに、俺には『器用貧乏』という固有スキルがあった。


 このスキルはあらゆる職業を習得できる代わりに、習熟速度が著しく遅くなってしまう。


 どんな職業を習得できたとしても、習熟度(LV)が低ければ使いものにならない。


 だから俺は『器用貧乏』として馬鹿にされ、どのパーティにも入れて貰う事ができなかったのだ。


 その結果、何とかたどり着いた仕事が荷物持ち(ポーター)の仕事だった。それも人手がなかったから仕方なく入れて貰ったに過ぎない。


 絶望していても仕方ない。恨んでもどうしようもない。俺は現状を受け入れ、自分の手札で生き残っていくより他になかったからだ。


「とりあえずは安全に眠れる場所を探そうか」


 俺はそう考えた。体力と気力を回復させなければならない。その上で、敵に襲われる心配の少ない場所を。


 探す為に移動しようと思っていた。そんな時の事であった。


「「「グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」」」


 薄暗闇の中から無数の眼光が光った。そして、無数の唸り声も聞こえてきたのだ。


 無数の狼型のモンスターが姿を現す。


「う、うわっ!」


 恐らくは人の匂いを嗅ぎつけてここまで来たのだろう。


 どうする? 逃げるか、闘うか。迷う猶予など、当然のようにモンスターが与えてくれるわけもなかった。


 モンスターは唸り声を上げ、俺に襲い掛かってきた。


「くっ!」


 俺は慌てて、護身用に持っていた剣に手をかける。


 キィン!


 モンスターの牙と剣がぶつかり合い、けたたましい音を奏でた。


 そう、もう自分の身を守ってくれる他人はこの場にはいないのだ。自分一人しかない。


 忍び寄る死の絶望感と恐怖が俺に襲い掛かってくる。


 だが、俺は決して諦めるつもりはなかった。妹のマインを天涯孤独の身にするわけにもいかない。


 生きてこのダンジョンを脱する。そう、心に誓ったのだ。

 



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