Sランクパーティに捨てられた【器用貧乏】、あらゆる職業を極めて最強へと成り上がる~最難関ダンジョンで必死にもがいていたら、神を名乗るモンスターを倒したんだけど、あれは一体なんだったんだろうか?~

つくも/九十九弐式

最難関ダンジョンで捨てられる

「とっと歩け! この無能野郎!」


「は……はい」


 Sランクパーティーである『煉獄』に所属する俺——ザックは力なく答える。Sランクパーティーに所属しているとは言っても、そんな立派なものじゃなかった。俺は戦力として連れてこられたのではない。荷物持ち(ポーター)として連れてこられたのだ。


「ったく……この何もできない『器用貧乏』の無能が。荷物持って歩く事くらいできねぇのかよ?」


 俺は『煉獄』のリーダーであるギブソンに悪態をつかれる。この世界では誰もが一つ、固有(ユニーク)スキルを授かって生まれる。それは天から送られる贈り物(ギフト)だ。しかし、俺の授かった固有(ユニーク)スキルは『器用貧乏』だった。


この『器用貧乏』という固有(ユニーク)スキルの効果とはこういうものだった。


『ありとあらゆる職業スキルを習得できるが、習熟速度が極端に遅い』


この世界には職業スキルというものがあった。例えば剣士の職業スキルがあるとする。剣士の職業スキルを習得すると、剣士として剣技を振るう事ができるわけだ。そして、その剣士の職業スキルには習熟度(レベル)というものが存在していた。


 その習熟度(レベル)が上がるに従って、振るえる技の威力が上がってくる。より強力だったり、便利な技が使えるようになるわけだった。


 しかし、俺はあらゆる職業スキルを習得できるが、その代わりに習熟速度が極端に遅かった。それが固有スキル『器用貧乏』の効果だったのだ。


 職業スキルを習得できたところで、習熟速度が遅ければ何の意味もない。そう目されているが為、このスキルは所謂外れスキルと言われ、罵られている固有(ユニーク)スキルであった。


 その為、俺を戦力として入れてくれるパーティーはなかった。常に俺はこぼれ続けた。


 だが、俺は冒険者として金を稼がなければならなかった。俺には一人の妹——マインがいる。俺達は二人で生活をしていた。両親はいない。俺達が幼い頃に旅先で亡くなった。その為、俺達は二人きりで生活をしていかなければならなかったのだ。


 こぼれ続けた俺を拾ってくれたのはSランクパーティー『煉獄』だったというわけだ。

 当然のように戦力としてではない。荷物持ち(ポーター)としてだ。払われる賃金もSランクパーティーには見合わない、最低金額のものだ。だが、それでも俺はこの仕事にしがみつくしかなかったのだ。妹と生きていく為にはそれしかなかったのだ。


「兄貴……こんな奴、もう必要ないと思いますぜ」


「ええ……全くですよ。闘いの役にも立たねぇのに、荷物持ち(ポーター)もまともにできない足手まとい、必要ないですぜ」


 ギブソンの取り巻き二人組が言う。


「全くだぜ……心配するなよ。たまたま都合の良い奴がいなかったから、仕方なくこいつを雇用しただけだ。このクエストが終わったらこいつはクビにするから」


 ギブソンは冷酷にそう告げてくる。


「そ、そんな……待ってください! 荷物持ち(ポーター)の仕事をクビになったら、俺達はもう、飯を食っていけないんですっ! 家には妹もいて……妹は体が弱くて満足に働く事も……」


 俺は涙ながらに懇願する。このままいけば、俺達の行く末は絶望しかなかった。飢えて死ぬか……あるいは妹は想像したくもないような事で、日銭を稼がなければならない。

この世界には貧困が満ちていた。貧困街(スラム)では、貧困家庭の少女はよく、売春婦として働くのだ。体を売る仕事の割に実入りは少ない。何とか、食っていける程度の金しか稼げない。


 それか金持ちの家に奴隷として購入されるか。そのどちらかしかない。どちらにせよ、絶望的な未来だ。


「うるせぇ! お涙頂戴なんていらねぇんだよ!」


「うっ!」


 ガッ。俺はギブソンに蹴飛ばされ、尻餅をついた。


「冒険者は実力主義の世界だ! 能力のねぇ奴が切り捨てられるのは当然の事だろうが!」


「全くだぜ」


「てめーみたいな何もできない無能野郎は必要ねぇんだよ」


「うっ、ううっ……」


 やり返す事もできない、自分の情けなさに、俺は思わず泣き出しそうになった。


「ちっ……仕方ねぇ。今回のクエストだけはこんな意気地なしでも使うより他にねぇか。おら、立て! この無能野郎!」


「は……はい。すみません」


 俺は立ち上がり、荷物持ち(ポーター)としての責務を続ける。


「兄貴……どうするんですか? このまま最奥部まで目指すんですか?」


 取り巻きの一人がギブソンに尋ねる。俺達は今、最難関ダンジョンのひとつと言われる『ラピスラズリ』に来ていた。


 未だ制覇したものがいないとされている、難関のダンジョンだ。最深階層が何階かはまだ判明していないが、58階層まで到達した記録がある。俺達は今、50階層まで到達していた。


 どれほど粗暴な態度を取ろうが、やはりSランクパーティーである『煉獄』の実力は本物であった。このままいけば最高記録を更新するのは難しくないかもしれない。


 それでも最奥部は未知の領域だ。100階層で終わりになるのか、200階層まで続きがあるのか。神のみぞ知る領域である。


「いや、ここくらいで撤退だ。ポーションも食料も段々と目減りしてきた。それなりにレアアイテムや経験値も手に入ったから、決して無駄じゃなかっただろ」


「ですね」


「ええ……引き際が肝心ですぜ。命あっての物種ですから。流石、兄貴、わかってますぜ」


 ギブソン達が撤退を決め込んだ時だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ!


「な、なんだ!」


 突如、地響きがした。巨大な力の奔流を感じる。地面が割れたのだ。


 そして、割れ目から現れたのは巨大なドラゴンだ。それもただのドラゴンではない。頭が何個もある凶悪な怪物(モンスター)だったのだ。


「くっ! 多頭竜(ヒュドラ)だ!」


 突如、俺達の目の前に多頭竜(ヒュドラ)が姿を現す。その強烈なプレッシャーはSランクパーティーとは言え、決して侮れるものではない。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 多頭竜(ヒュドラ)はけたたましい咆哮を上げた。完全に臨戦態勢を取っていた。


「ちくしょう! ここまでかっ!」


「う、うわっ!」


 俺は割れ目に足を取られた。飲み込まれる。地面にしがみつこうとするが間に合わない。だめだ、落ちる。


「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺は悲鳴を上げた。自由落下を始める。


「逃げるぞ……あんな奴、放っておけ。荷物持ち(ポーター)の代わりなんて他にいくらでもいるんだからな」


 ギブソンは同情の欠片もなく告げる。


「へへっ……まったくですぜ」


「あんな無能野郎の顔、見れなくなって、せいせいしますぜ。けっけっけ」


 こうして俺は地下に落とされ、ギブソン達はダンジョン『ラピスラズリ』からの撤退を決めたのであった。










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