気づいたら幼馴染と学校のアイドルが修羅場なんだが?

愚弟

第1話

俺の名前は畑山楓はたやま かえで。俺は幼馴染である、超絶美少女の松永乃絵まつなが のえを高校の体育館裏に呼び出していた。

呼び出した理由は‥‥そう、告白である。


小学校の時に人見知りだった俺は、中々友達ができずにいた。そんな中、唯一仲良くしてくれた乃絵に惚れ、16年間片想いをしている。

今日は記念すべき30回目の告白!乃絵のハートを射抜いてやるぜぇぇ!!!!



「乃絵、小学校の頃から好きでした!付き合って下さい!」


乃絵は腰まで届いている甘栗色をした艶のある髪を靡かせ、呆れたように俺を見ていた。

クリっとした目でジーッと見られるなんてご褒美でしかないぜ。へへっ。


「はぁ、懲りないですね‥‥」


「知っていたか?俺の乃絵に対する愛は不滅なんだぜ?」


「全く‥‥楓さんは‥‥」


乃絵は頬を赤く染めて、視線を逸らす。

乃絵の反応を見て、俺は勝ちを確信した。

前回は人前で告白してしまい、ムードが無いと怒られてしまったが今回は違う!薔薇色の未来が見える、見えるぞぉぉ!!


「キャッ!」


その時、強めの風が吹き乃絵のスカートが捲れたのに俺は気づかなかった。


「ん?大丈夫か?」


俺は乃絵の反応で妄想から現実に戻り、心配して声をかける。


「大丈夫では無いですけど、大丈夫と言いますか‥‥それより、み、見ましたか‥‥?」


見た?‥‥あっ、俺と乃絵のランデブーな未来のことか!乃絵も同じ未来が見えたんだな。

これが以心伝心ってやつか‥‥ふっ、少し照れるぜ。


「ああ、薔薇のように真っ赤で情熱的だった」


「なっ‥‥な‥‥」


乃絵はそれこそ、薔薇のように顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせていた。

今日も可愛いな〜と思って見ていると、ハムスターのように、可愛くて小さい手が俺の頬に吸い込まれる。


「ひ、人の下着を詳細に語らないで下さい!!」


「パンツ!?」


パァンっと気持ちいい音を立てて、俺の頬を叩いて通り過ぎる手。可愛い手でも威力は全然可愛くなかった。


「そ、そんなにストレートに言わないで下さい!」


「ふべっ!?」


手がそのまま往復してきて、今度はベキッと音を鳴らしてもう片方の頬に直撃した。て、手の甲が1番痛え‥‥。


「もう知らないです!!」


痛みで悶絶している俺に乃絵はそう言い、小走りで去っていった。


「パ、パンツの話をしていたのか‥‥くっ、俺とした事が見逃すなんて!!それにしても赤色か、意外と大人っぽいな‥‥」


俺は色んな意味でショックを受けつつ、帰るために歩き出した。


「振られるしビンタされるし最悪だ‥‥いや、ビンタはご褒美か?」


俺はビンタを受けた時に触れた、乃絵のプニプニとした手の温もりを感じながら人通りの少ない道を歩いていた。


「う〜ん、次は同じ失敗をしないようにしないとな。屋内で告白するべきか?」


次の告白について考えていると、女の子の悲鳴と男の怒鳴り声が聞こえた。


「や、辞めてください!」


「いいから来いや!」


「誰か助けて!!あっ‥‥」


あっ、ちょっと好奇心で見に行ったら女の子と目が合っちゃった。確か、あの子は学校でアイドル扱いされている白浜千夜しらはま ちよ。パッと見ると怖そうなお兄さんにナンパされてんのか?

はぁ、怖いから嫌だけど助けるしか無いか。俺は怖そうなお兄さんと白浜さんに近づく。


「あの」


「なんだてめえ!今いい所なんだよ!」


男はそう言い、白浜さんの手をギュッと掴む。白浜さんは怖いのか、それとも痛いのか、あるいは両方かわからないが涙目で縮こまっている。


「ヒイッ‥‥」


「いや、この子泣きそうじゃないですか。無理矢理はダメですよ」


万が一の為、白浜さんの名前は伏せて説得をする。しかし、男は白浜さんを掴んでいる手に力を入れて癇癪を起こす。


「‥‥いたい!」


「てめえは関係ねえだろ!殴られてえのか!」


「殴ったら傷害罪で訴えますよ?それに、その子を握っている手を離した方が良いんじゃないですか?下手したら脅迫罪になるかもしれないですし」


法律は分からないが、それっぽい事を言っておけば大丈夫だろ。それにこの人馬鹿っぽいし。

めちゃくちゃ失礼な事を考えていると、男は白浜さんを掴んでいた手を離して俺に迫ってくる。え?本当に殴るの?え?


「ゴチャゴチャ言いやがって!」


「それに、もう警察を呼んでるんで逃げた方が良いと思いますよ?」


本当は呼んでないけどね!ハッタリ最強!と強がっていたら胸ぐらを掴まれた。ふぇ?


「ふざけた事しやがって!!気が済むまでぶん殴ってやる!」


「ちょ!暴力反対!」


「うるせえ!!」


げぇ!漫画だと直ぐに逃げて行くのに!乃絵には振られて往復ビンタされるし、白浜さんを助けようとしたら怖い人とトラブルになりそうだしついてねえ‥‥‥。


「あ、あの‥‥」


「あぁ!?」


「うっ‥‥」


白浜さんは俺を助けようと、男の人を止めようとするが直ぐに怖気付いてしまう。

この子、俺を助けようとしてくれるなんてアイドルじゃなくて天使や!‥‥ってそうじゃねえ、早く逃がさないと!


「この人は俺が相手をするから早く逃げて!」


「で、でも!」


白浜さんは俺の言葉に戸惑っていた。あ〜本当に優しい子だなぁ。でも、今はそんな事言ってる場合じゃないんだよな〜。


「良いから!」


「ご、ごめんなさい!」


そう言い残し、白浜さんは申し訳なさそうに去っていった。

はぁ、こっからどうなんのかな〜。


「チッ、余計な邪魔してくれやがって。ついてねえぜ」


俺は男に引きずられ、さらに人通りが少ない路地裏まで連れて行かれた。

くそっ、ついてないのはこっちだっての。


「先ずは1発だな!オラッ!」


「ゔぉえっ!」


路地裏に着いた瞬間、俺は男に鳩尾を殴られる。不意だったため力を入れておらず、男のパンチはより深く入った。

あまりの痛さに吐き気が止まらず、少し泣きそうになる。


「良いのが入ったなぁ!ほら!」


「うっ‥‥あ」


「オラオラオラッ!」


「ぐっ!あぁぁ!!!」


その後、俺は10分程殴られ続け、意識が飛びそうな時にサイレンが聞こえてきた。


「チッ、本当に呼んでやがったのか!次はこんなモンじゃ済まさねえからな!」


男は捨て台詞を吐いて消えていった。た、助かった‥‥白浜さんが呼んでくれたのかな?お礼を言わないと。

足音が聞こえてきた。警察か?何て説明すれば良いんだろうと考えていると、来たのは警察では無く先程絡まれていた白浜さんだった。


「畑山くん!だ、大丈夫ですか!?」


「し‥‥白浜さん。なん‥‥で」


白浜さんが泣きながら俺に説明をする。


「警察が来る気配がなかったので、スマホからパトカーのサイレンを流して、警察が来たように見せかけたんです!」


「そっか‥‥警察を呼んだのは嘘だから来る気配はないだろうな‥‥ははっ」


俺がそう言うと、白浜さんが目を見開いた後必死に謝ってくる。こんな時に思うことでは無いけれど、白浜さんが涙を流している姿が綺麗で見惚れてしまっていた。


「ご、ごめんなさい!私のせいで畑山君を巻き込んじゃった‥‥ヒッグ、そ、それにもっと早くに助けに来れたのに‥‥グスッ‥‥ごめん‥‥なさい‥‥」


「泣かないで、白浜さん。白浜さんが巻き込んだんじゃ無くて、俺が巻き込まれに行ったんだよ」


「もう‥‥なにそれ。ふふっ」


そう言い、白浜さんは少しだけ笑顔になった。良かった良かった。

ふぅ、少し寝転がっていたから多少動けるようにはなったな。さて、帰るか〜。


「よっ!!うっ、いってぇぇ!!」


俺は勢いをつけて立ち上がろうとすると、男に殴られたところが想像以上に痛く、ゴロゴロと地面を転がった。あの男ぉ!覚えてやがれ!

俺が男に対して復讐に燃えていると、白浜さんが慌てたように俺を止める。


「だ、ダメだよ!まだ安静にしてないと!」


「少し休んだからイケると思ったんだ‥‥!」


「もう‥‥はい、肩に捕まって?」


「え?」


何を言われたのか理解できず、情けない声を出してしまった。いつまでも黙っている俺に、白浜さんが恥ずかしそうに微笑んだ。


「立てないんでしょ?恥ずかしいから早くして?」


「良いのか?俺、今汚れてるし‥‥」


「うん、畑山君なら良いよ。それに、私が断れる立場じゃ無いし」


「そう言うならお言葉に甘えて」


白浜さんに寄っかかる体勢になると、白浜さんから柔軟剤の良い匂いがした。

何で女子って良い匂いがするんだろうな〜ちょっとドキってしちまったぜ。俺とした事が乃絵以外にドキドキするなんて、不覚っ!


その後、俺と白浜さんは世間話をしつつゆっくり家へと帰った。


「ここが俺の家だ。悪いな送ってやれなくて」


「ううん。畑山君、今日は助けてくれてありがとう。カッコよくてドキッてしちゃった」


そういう事を平気で言ってくる白浜さんにドキってしちゃった。全く、俺じゃなきゃ勘違いしちゃうね。


「まあ俺はいつでもカッコいいからな。また学校で会おうぜ。気をつけて帰れよ」


「そうだね!帰る前に2つだけいいかな?」


「ん?何だ?」


まさか‥‥白浜さんに触ったから、金を払わないと訴えるって脅すつもりか?ぐっ、あんなに優しくして汚いぞ!


「名前で呼んでいいかな?それと、私の事を名前で呼んで欲しいな?」


上目遣いで頼む白浜さん。ちょっと頬が赤いのは気のせいか?はぁ、訴えられなくて良かった‥‥。


「ああ、その位なら良いぞ。それじゃあな、千夜」


「!!ありがとう!じゃあね、楓君!また明日!」


嬉しそうに帰って行く千夜。学校の男子が知ったら嫉妬で殺されそうだ。





翌日、起きて鏡を見ると怪我はあまり目立たなくなっていた。昨日は家に入って母さんに怒られたからなぁ‥‥。

昨日の母さんの説教を思い出し、げんなりしていると乃絵に遭遇した。朝から乃絵を見れるなんて!  


「おはようマイハニー!」


「誰がマイハニーですか!って、その怪我はどうしたんですか?ま、まさか、昨日のビンタで?ご、ごめんなさい!そんななら強くやったつもりじゃ‥‥」


乃絵は俺の怪我を見るなり慌て始める。あ〜乃絵に心配されるならあの男に感謝してやっても良いかな。


「いや、この怪我は関係ないからそんなに慌てなくていいぞ」


「ほ、本当ですか?それでも昨日はごめんなさい。流石に暴力はやりすぎでした‥‥」


「いやいや、俺も悪かったよ。デリカシーがなさすぎた」


まあ、乃絵の真っ赤なパンツを見れてないんだけどな!くっ、昨日に戻って覗きたい!


「い、いえ。あと昨日の告白の件なんで‥‥‥」


「おはよう楓くん!あと松永さん!」


「うおっ、千夜!?」


乃絵の言葉を遮るように挨拶してきたのは、千夜だった。あの〜何で俺に抱きついてるんですかね?それと乃絵さん?何でそんなに睨んでいるの?


「白浜さん、おはようございます。それにしても何で楓に抱きついているんですか?」


不機嫌そうに質問する乃絵に対して、千夜は嬉しそうに返事をする。


「え〜?何でって言われても〜私と楓くんの仲だからかな?昨日もくっついて帰ったもんね?」


「そ、そうだけど」


「なっ!!」


間違っちゃいない!間違ってはいないけど誤解を招くような言い方を乃絵の前でするなぁぁぁ!!!ほら、乃絵なんて俺の事めっちゃ睨んでんじゃん!ん?なんで睨まれてるんだ?


「か、楓くんと白浜さんはそんなに仲が良さそうでしたか?今までは接点が無かったと思いますが‥‥」


そう言い、乃絵も俺に抱きついてくる。

え?今日死ぬのかな?あの乃絵と学校のアイドルに抱きつかれてんだけど。ふへへ、腕に柔らかいマシュマロの感触が‥‥。あっ、そんなに強く抱きしめられると、あっ、あっ!


「へ〜‥‥いや、昨日の帰りにちょっとね。楓くんが私を助けてくれたの。ね?それで松永さんは何で楓君に抱きついているのかな?ねぇ」


そう言い、千夜は俺を引き寄せる。それに対抗するように乃絵も俺を自分の方へと引き寄せる。う、腕がぁぁ!ミシミシって変な音なってる!ねえ、痛い柔い痛い!!こ、これが飴と鞭ってやつか!


「なるほど‥‥‥その時に名前呼びになったんですね?楓さんは私以外の女子は眼中にないので不思議でした。私が楓さんに抱きついているのはそういう仲ですので。それにお邪魔虫が近寄っているので守ってあげようかと」


確かに乃絵以外の女の子はあまり興味がないけれども!あとそういう仲って事はどういう仲?期待していいの?ん?ん?

っていうか何でこんなに雰囲気が悪いの?君達そんなに仲が悪かったっけ?


「面白い冗談ね。ふふっ」


「白浜さんこそ。あと楓さんが痛がっているので離してあげたらどうですか?」


「え?乃絵も‥‥」


ギロッ!と睨まれ、俺は続きの言葉を言う事ができなかった。何故こんな雰囲気が悪いんだ。


「楓君?言いたい事があるなら言わないとダメだよ?松永さんが鬱陶しんだよね?」


「楓さん?鬱陶しいのは白浜さんの方ですよね?」


「お、俺はどっちも‥‥」


「「どっちの味方(ですか)?」」


「ヒィ!」




気づいたら幼馴染と学園のアイドルが修羅場なんだが。



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