最終話 卒業、そして――

 星見の里の出来事から数年が経った。

 王国首都はどうなっていたか? 結果から言うと、滅びていた。

 フェアトたちが辿り着いたらすでに封鎖されていて、入ることができなかったのだ。

 それから詳しく調べていくと、どうやら貴族たちが住む館の多い地域から疫病が発生して、それが瞬く間に首都に広まったという。

 それを、元々格差があったために多くいた貧民たちが死体漁りのようなことをして、貴族たちの身元確認も困難だということらしい。

 スカーレットや、その婚約者ウィルの消息も不明だ。

 ただ、ウィルは疫病を研究する医者としての側面も持っていたらしいので、もしかしたら二人は無事かも知れない。


 それからもフェアトは生徒たちと旅を続けた。

 時には迎え入れ、時には――そう、卒業だ。


「せ、先生! 私様が卒業ってどういうことだよ!? だって、まだ呪いだって解けてないし――」

「いいえ、呪いはすでに解けていたのです」

「え……?」


 英雄の教室の中でフェアトは、一番最初の生徒であるメラニと向き合っていた。

 今日は新月の夜だ。

 メラニも美しい少女の身体に戻っている。


「ケイローン様が仰っていた呪いとは、魔術的なものではなかったのです」

「じゃあ、いったい……」

「誰かを信じられなくなってしまった、心の呪いです」

「そ、そんな……だって……」

「長い旅を通じて、メラニ君は学んだはずです。人には醜い面もありますが、それ以上に愛すべき面もあると。人に優しく接することができるようになった貴女にはわかるはずです」


 最近、メラニは自由に人の姿と仔馬の姿を使い分けることができるようになってきた。

 フェアトには隠していたつもりだったのだが、そんなことはお見通しだったのだ。


「まだ……! まだ私様は卒業なんてしたくない! だって、だって――先生のことが――」

「それは貴女が卒業して、きちんと大人になれたあとで再び考えてください。それが僕の最後の授業です」

「……先生、そのときになったらはぐらかさないでちゃんと答えてくれるのか?」

「はい、ケイローン様に誓って」


 こうして、フェアトの元から生徒たちは旅立っていった。

 メラニは自分も教師になるために日々勉強し、パイは世界の災害を予知して解決するという組織に入ったという。

 そして――フェアトはというと。




 ***




「ここですか……子どもたちの表情が陰っていますね……」


 フェアトは領主からの紹介で、小さな村で勉強を教える事になった。

 その村は鉱山によって井戸が毒で侵されていて、まともな飲み水すら手に入れるのに苦労しているという。

 その鉱山も寂れてしまって、大人たちの活気というものがまるでない。

 それに伴って子どもたちも、今まで教育を受けることができなかったようだ。


「依頼者は『親ガチャに失敗した子どもたちにチャンスをあげてほしい』と言っていましたね……。たしかにこんな状況ならそう言いたくなるのもわかります」


 人は老若男女、どの場所でも学ぶチャンスを与えられるべきだ。

 彼らが求めるのならば、それを与えるのが教師だ。

 フェアトの近くに一人の少年がやってきた。

 黒髪で、その一部が虐待による白髪化でメッシュのようになっている。

 ろくな食べ物を与えられていないのか痩せ細り、汚れていて、眼も虚ろだ。


「あなたが村に来た先生ですか……? でも、もう――」


 前を向いて生きることを諦めたような口調に対して、フェアトは子どもだからと見下すわけでもなく、馬鹿にするでもなく、マジメに答えた。


「もう遅いなんて言わせません。僕の生徒になったからには、知識によってチャンスを掴み取れる力を与えましょう。キミは何を望みますか?」

「……冒険者になりたい」

「良い返事です。では――授業開始です!」





――――――

あとがき


十万文字ちょっと、つまり本一冊分くらいの文章量で完結です!

ここまでお付き合い頂きありがとうございました!

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もう遅いなんて言わせない! ~理不尽に貴族の家庭教師をクビにされたけど、仔馬を助けて神馬ケイローンの加護を授かり、スキル『超速』『星弓』『カリスマ教師』で急成長。可愛い生徒達との旅は幸せいっぱいです~ タック @tak

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