However
私は時折、思うのです。
この世は障害をもった方に、ドラマを期待しすぎるって。
障害をもってもなお、挑み続ける人に心を動かされる。それは納得がいく。
だからって、私にまでそれを求めないでほしい。こんな惨めな元アイドルに、感動するような要素などない。
『Four ever最近いい感じじゃない?』
『あの居なくなった子……名前なんだっけ?』
『最近の推しは満ちゃん!』
『Four ever』はあれから、CD化もしたし、テレビ出演も果たした。
人気急上昇中のアイドルグループとして、注目を浴びている。
だからって、私の病室から見えるビルのプロジェクションマッピングに映さなくても……。
この病院は自然光を取り込もうとしすぎだ。窓が異様にデカい。そのせいか、病院の3階のはずなのに表の道路にいる人も見えてしまう。
だから、眼前で存在感を放つFour everの広告は見事視界に入り込んでくるのだ。
私はEverを辞めたことを、悔やんではいない。むしろあの事故で、自分が変われたとすら思ってきている。
それでもやっぱり、傷つくっちゃ傷つくよ。私がいなくなった途端、うまくいっちゃうんだもん。
そりゃ傷つくし……ちょっと妬く。
人間としてこれくらいの感情は仕方ないよね?
「飯島さん。こちら、野村さんから贈り物です」
「あぁ、ありがとうございます」
「この人、すごい贈り物くれますよね」
「えぇ、そういう人なので」
野村
前からひまわりはプレゼントとかが好きだったなぁ……。
私はひまわりからの贈り物を開封し、中身を確認する。中にはよもぎ
よもぎ饅頭……。
本当に和菓子が好きな子だなぁ。
そう思いながら今度は手紙を開封する。
『しおりへ
このよもぎまんじゅうは、雪乃と選んで買ったの。バクバク食べて太らないようにね!
あと、今はお仕事が忙しくて行けないけど、今度はお見舞いにも行くからね!
ひまわりより』
子供っぽい字で綴られたその手紙は、かわいい紙に書かれていて、子供の文通を読んでいる気分だったけど、なんだか胸がホッコリする。
ひまわりはあのキャラが結構ウケて、前に一度バラエティ番組に出ていた。
あれから仕事のオファーとかも増えて、おそらく嬉しい悲鳴をあげているのだろう。
なんだかんだ言って、ひまわりが一番強いのかもしれない。
すると、急に電話が鳴った。満だった。
満は心配しすぎというか……私が脚を失くした時に一番ショックを受けていたし。
「もしもし」
「もしもし、しおり?」
「どうしたの? 急に」
「ごめんね、あのさ、今から病院行ってもいいかな?」
「あぁうん。いいけど」
「ほんと急でごめん。あとでちゃんと話すから」
プツリ、と電話が切れた後、私は気が気ではなかった。なにかに焦っているような満の声に、少し悪い予感がしていた。
✣✣✣✣
息切れが止まらない満を落ち着かせ、水を飲ませてから話を聞いた。
談話室なので他にも人がいるけど、話の内容的に大丈夫だろうか?
「ほんとごめん」
「大丈夫。話って何?」
「……しおりに話すなんて、おかしいとは思うんだけどね。Four everのことなんだけど」
心臓がズキっとする。
受け入れていたはずなのに、今になって実感する。私はもう、メンバーじゃないんだって。
ただ、自らの意志で脱退しなかった、事故によって抜けた私にみんな同情しているだけなんだ。
その途端に呼吸が苦しくなった。
けれど満からの話はしっかりと聞かなければならない。
「私、Four everになってから、正式にリーダーになったんだけど……今ちょっと、問題があって」
「……うん」
ダメだ、苦しい。
油断すれば涙が出てきそうだ。
グッと堪えると、余計に苦しくて、思わず真っ白な天井を見つめる。
「その、方向性の違い、っていうの?」
バンドの解散した理由ランキング1位だ。
ということは、Four everも解散の危機ということだろうか。
そんな考えを
「私のやり方に、ひまわりと雪乃は賛同してくれたんだけど……希望が、反対して……で話し合ったんだけど、雪乃と希望が感情的になっちゃって……それで今、喧嘩中」
なんとなくわかる。あのふたりはどっちも我が強いから、主張がぶつかり合う。人気が出たからこそ、ぶつかり合うことは仕方の無いことなのだろう。
ましてEverは自分たちで結成したグループだから、プロデューサーなんていない。Four everになってもそれは変わらない。自分たちで、自分たちのこれからを決めなければならないのだ。
「……ねえ、どうすればいいと思う?」
満、それは私に聞くことじゃないよ。
満が希望と雪乃の間を取り持てばいい。それだけの話じゃん。私にそんな助言なんて、できるわけない……。
ていうか……それよりも……。
「大丈夫、満。時間が解決してくれるよ」
「……そうかな?」
うん、そうだよ。きっと。
その後、少しだけ話して、満は帰っていった。
心の奥がモヤモヤする。
「……私、最低だな……」
あの時。
私は思ってしまったんだ。
──解散してしまえ。
って。
どこかでずっと思ってた。
私のいないEverには成功してほしくないって。だって、うまくいってたら嫌だよ。私が邪魔者だったみたいじゃん。
でも、今日、わかった。
しみじみと、自分の醜さに気づいた。
私は邪魔者だったんだ。
あの頃の自分を少しでも価値のあるものにするために、私は今日、満の相談に適当なアドバイスをして受け流した。
──うまくいかないでほしい。
込み上げた思いは止まらなかった。
──
その途端に自己嫌悪に
もはや自分ですら、自分がわからない。
✣✣✣ ✣
夕日が綺麗な、黄昏時。
談話室でさえ、夕日色に染まりつつある。
「ねえ志織さん、どうして落ち込んでるの」
「落ち込んでないよ……」
「ほら、落ち込んでるじゃん。どうしても話せないの?」
なんでわかっちゃったんだろう。
片峰くんは私の作り笑顔を見抜いた。理由は『僕の好きな笑顔じゃなかったから』って。
今の私にその言葉は、ズルい。
その男らしい優しい声も。
しかもこういう時だけ敬語じゃないとか。
甘えたくなるでしょ。
でも、今ここで甘えたら絶対に自分を許せなくなる。
だから……
「今は放っておいて……」
「……ごめんなさい……また明日来ます」
優しい表情のまま、荷物を持って立ち上がった。
私は病室から出ていく片峰くんの背中を見てしまった。
罪悪感に襲われて、再び自己嫌悪に陥る。
あぁ、なんでこうなっちゃったんだろう。
最低すぎる。
今までの仲間を見捨てて、優しくしてくれた人を傷つけて。
こんなことしたいわけじゃないのに……。
自分が怖かった。
関わってくる全ての人を傷つけてしまいそうで、怖かった。
片脚を失ったアイドル 成瀬 ひだり @lim5
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