第5話 家に帰ろう

 さて、加賀の一向一揆ねぇ。


「フブキ、伊賀者と連絡を取って、聖良女王が加賀に向かっていると噂を流して。セトは伊賀の藤林と服部に一乗谷で落ち合う様に連絡を取って。カエデ、明日の朝餉はグジの干物よ。ユリは作兵衛を呼んで来て」


 ここで、書状をパパパッと書く。


「作兵衛に御座います」

「入って。……作兵衛、この書状を長尾為景に、こっちを木曽義在に、で、これは慧仁にね。長尾へは船を使ってでも、なる早でお願い。木曽へは急いでないわ。」

「なる早ですか?」

「ごめん、1番早い方法で届けて。呼びつけるから、何人か出して、逐一報告させて。あとは、明日、一乗谷に向かうから、そうね、……手の者を15人くらいつけて貰える?」

「畏まりました」


〜・〜


 一乗谷は静かで良い所……だったのは転生前でした。こんな狭い所に1万人?いや、もっと居るでしょう。とにかく大勢の人が所狭しと闊歩している。活気あふれる城下町だ。そこで、宗滴の屋敷に厄介になる。街の中心からちょっとズレた、山際に有る武士っぽい屋敷だった。


「狭苦しい家ですが、どうぞお寛ぎ下さい。某、昨日の話を我が殿に報告して参ります」

「我が殿?私に臣従したのでは?」

「そうでした。では、朝倉本家に引導を渡して参ります」

「まあ、聞かなかったら、この谷くらい直ぐに制圧出来るから、気楽にね」


 ちょっと、顔が青いよ。だから最初から言ってるじゃない。


「さて、服部、藤林、居るわね、入って来て」

「はっ、失礼致します」


 え、やっぱり居るんだ。ダメよ、私、落ち着いて。知ってた振りを続けるのよ。


「服部は何してたの?」

「はっ、某は蓮如の後裔と下間一族を探ってました」

「越前には?」

「下間本人が入っております」

「この一向一揆の指導者共を拉致できる?」

「御所望と有れば」

「では、御所望よ、今夜拉致して、そうね、大和の斑鳩神社裏手の山中に洞窟が在るの。そこに監禁して」

「御意に」

「藤林は何してたの?」

「一揆勢の農民の先導者を調べておりました」

「では、その者らを本泉寺に集めて。明日の午の刻に私達は行くわ」

「畏まりました」

「今、一乗谷には何人?」

「70人程潜っております」

「なら安心ね。期待してるわよ」

「御意」


 2人が下がり、尚子が入って来る。


「尚子、お腹が空いた」

「では、家人に聞いて参ります」

「皆んなもでしょ?」

「そうですね、では、皆の分も」

「一緒に食べましょう」

「畏まりました」


 ふぅ〜、疲れた〜。ゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロ。うとうと、うとうと。


「お食事のご用意が出来ました」


 パッと目が覚めた。スッキリした。


「皆んなを呼んで、食べましょう」

「あら、急なのに豪勢ね」

「何を仰いますか、もう半刻ほど経ってますよ」

「そんなに寝たんだ」


〜・〜


「姫様、宗滴殿が捕らえられました」

「あちゃ〜、愚かねぇ。制圧出来るかしら?」

「御所望と有れば」

「じゃあ、孝景を拉致して来て。あと、宗滴を取り返して」

「御意に」


 気を失った孝景が差し出される。宗滴も保護されて屋敷に戻って来た。


「宗滴、これは謀叛未遂ですよね?」

「はっ」

「朝倉家中の者を評定の間に集めてくれる?」

「御意に」


 まったく、明日は早いのに、こんな事して。朝倉館まで距離がまあまあ有るのよね。


〜・〜


 皆が平伏する評定の間の上座に座る。今回は私を守る様に7人が勢揃いで上座に座る。


「宗滴以外は平伏したまま聞きなさい。貴方達は揃いも揃って馬鹿なの?唯一の朝倉を残す手段だったのに、自らふいにして。家臣一同、一族郎党、全て根切りになるのよ。赤子も何も分からず泣く子もよ。そんな命令を私に出させないで!いい?ここに居る者全て、今すぐ離縁しなさい。元服前の子供は母親に渡して実家に帰しなさい。そしてここに居る者全て、鬼籍に入るのよ。死んだ事にするの。景高!面を上げなさい。いい、貴方がこれから朝倉の当主よ。この者らを率いて、貴方が主導して蝦夷の地を開拓しなさい。分かった?蝦夷の地から脱走したら、離縁した妻子も含めて根切りだからね。その代わり30年蝦夷の地で頑張ったら、鬼籍から出してあげるわ」

「はっ!」

「次は無いわよ。宗滴、景紀は出家して私の下につきなさい。以上です」


〜・〜


「お優しいのですね」

「人を殺すのが怖くなっただけよ」

「さすが、私が育てただけあるわ」


 尚子はギュッと抱きしめて、頭を撫でてくれた。


〜・〜


「で、坊主達は逃げたわよ。もしかしたら、貴方達は先日の陛下の宣下を知らない」

「何の事だか」

「まず、宗教の自由の保証ね。誰がどんな宗教を信じても構わないって事ね。分かる?」

「はい」

「次にこの加賀国は今後3年間年貢無しって事。分かる?」


 ザワザワ、ザワザワ。


「真実ですか?そんな事有るんですか?」

「陛下が約束してくれたわ。周りを見てみなさい、田畑は荒れ放題よ。逆にこの荒れ放題の田畑を3年で元に戻さなきゃならないのよ」

「儂等は百姓ですから、なんて事ありません」

「では、貴方がたはまだ戦うの?命を賭けて戦うの?」

「……」

「解散して、家族が待つ家に帰りなさい、分かった?」

「はい、分かりました」

「皆んなにも教えてあげて、今後3年間年貢無し、何の宗教でも自由よ、良いわね」

「はい」

「これから皆に武器を持たせる様な人が現れたら私に言いなさい。成敗して上げます」

「はい、お願いします」


 ふぅ。終わったわ。

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姫巫女の戦国平定物語〜弟も転生者だったなんてご都合主義もいい所〜 manatsu @isawo

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