第4話 伝説男
ザワザワ、ザワザワ。オジサンの臭いが充満する評定の間。少ない情報の中、少しでも情報を得ようと、皆が躍起になっている。スーッと襖が開くと、一瞬で静寂が訪れ、そして皆が平伏する。衣擦れの音が聞こえ、尚子・キヨを従え上座に着席する。
「今日はよく来てくれた。私が聖良です。皆さん、面を上げて下さい」
一斉に面を上げる国人衆。まだ8歳の巫女が目の前に居る事に驚く。
「この度、35年にも及ぶ禁裏御料金横領の責任を取り、若狭国は武田家より返上され、親王御料所となりました。それに伴い、皆さんの治めている土地も召し上げる事になります」
室内は侃々諤々の様相を呈した。それに構わず私は話を続ける。
「今後は、皇室に臣従を誓って貰い、天皇家の為に働いて貰い、対価としてこちらが給金を銭で支払う事となります」
これから若狭は、貨幣制度の普及、管理通貨制度導入の実験場になる。
「これから若狭国内の全ての関を廃止、全ての座の廃止を行います。以上です」
ああ、ぜんぜん聞いてないよ。良いのかな?
「臣従なされる方は、別室で手続きを行います。なされない方は、ご自分の領地に戻り戦支度を始めて下さい」
「え?」
今まで騒がしかった評定の間が一瞬にして静まり返った。
「こちらの命令に従えぬと言うなら、朝敵と見做し、戦をしてでも従って貰うと言う事です」
「儂等はどう生きて行けば良いんだ」
「それにつきましては、今、ご説明しました。いい大人なんだから人の話は聞きましょうね。良いですか、そもそも今回の横領の件ですが、全てを武田家が被った形になりましたが、皆さんも天皇家及び公家の荘園を乗っ取って横領してたんですからね。開き直った泥棒ですよ。何がどう生きて行けば良いんだじゃないですよ。畑を耕しなさい、漁に出なさい、炭を焼きなさい。選択肢なんて幾らでも有ります。先程の提案は選択肢の1つです。宜しいですね。天皇家に仕えればお給金は出します。臣従なされる方は別室で手続きを行いますので、この後、速やかに別室へ移動して下さい。今日、来てない方、臣従しない方は戦うか、お家取り潰しかを選べますよ」
そう言って、私達は退室して部屋に戻りました。さて、どうなる事か。
〜・〜
うわ、信じられない!全員臣従だって。マジか。誰も死なないって良い事だけどね。
〜・〜
さて、本日のメインイベントです。先程、朝倉宗滴から先触れが来ました。伝説の男よ。もうドキドキです。ワクワクです。甘い物が欲しい。持って来た蜂蜜をベロ〜ンって舐めちゃいました。尚子に見られたら、はしたないと叱られちゃうね。
「謁見賜り、有り難き幸せに存じます。某、朝倉家家臣、朝倉宗滴に御座います」
あ〜ん、ぜんぜんお爺ちゃんじゃない!ナイスミドルの45歳だ。
「聖良です。どうぞ、面を上げて下さい」
「これは又、可愛いお姫様で、驚きました」
まあ、無礼だけど、お姫様も事実だし、可愛いも事実だから仕方ないね、ウフフ。
「早速本題ですが、河合荘に聞き覚えは有りませんか?」
「河合荘は朝倉の領地ですが、何か?」
「いえ、禁裏御料所ですが、何か?月に15貫文の年貢が、3000疋しか払われてないのですが、これって横領ですよね」
「……」
「横領ですよね?と、優しく聞いています。横領ですと朝敵として討たねばなりません。横領ですよね?」
「……」
「返事が無いと言う事は、お認めになると言う事ですね。今上陛下は21年もの間、即位の礼が出来ずに辛い思いをしていました。その年貢さえ有れば、辛い思いをしないで済んでたのに。最早朝敵に違いないですよね。朝倉家は取り潰します。これは決定事項です。それとは別に宗滴、私に臣従しなさい。朝倉家を残す道は、その一本しか有りません。如何でしょうか」
「……」
「それとも貴方の知勇で天皇家と戦いますか?受けて立ちますが、ふふふ」
お、初めて反応した。カッと目を見開き、私を値踏みする様に見る。
「勝てませぬ」
「流石は宗滴ね。見る目が有るわ。でもね、弟は私より強いわよ。万が一私に勝っても弟には無理ね」
「方仁殿下はそれ程まで」
「ふふふ、弟は1人じゃないわ。もう1人弟がいるの。方仁は神童、慧仁は神の子よ。では、朝倉家は越前追放となります。貴方はどうしますか?私に臣従しますか?」
「はっ、誠心誠意お仕え致します」
「追放は朝倉本家だけね。家臣は付いて行くかしら?」
「私が残れば、大半は残ると思います」
「その残った家臣で、加賀も治める事ができそう?」
「それはどう言った意味でしょうか?」
「貴方が朝倉の始末をしている間に、加賀の一向一揆を解散させるわ。その後に治めて貰うためよ」
「一向一揆をですか?」
「頭さえ居なければ、ただの農民よ。烏合の衆だわ。目的を思い出させて、目的を達成させてやれば解散するわ」
「はあ、そんなものですかね?」
「えっ、宗滴はその程度なの?ダメねぇ、それじゃあ使えないわ」
「初めて言われた言葉です。姫様の元で学ばせて下さい」
「ん〜、仕方ないわね。私は貴方に憧れていたんですからね。扱き使うわよ」
「はっ!」
「では、今日は泊まって行きなさい。明日、出発します」
「御意」
「下がりなさい」
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