りゅげむ

高橋 白蔵主

りゅげむぅう

毎度ばかばかしいお笑いを一席。

ええ、ゴルファーの襟足と男のナニは長ければ長いほどいい、なんつって言う人がありますが、何事にも限度があるってお話でございます。

一昨年亡くなったオジャンボリー棒太郎ってゴルファーの襟足は実に3m。ちっちゃい時に聞いたこの話をひたすら信じてずっと伸ばしてきた襟足ですが、そいつをキャディカーに巻き込まれて死んじまったっていうんですから禍福は糾える縄の如し、ひと頃は一世風靡した襟足が命を奪っちまうんですから、人間の未来ってのはホント、分からないもんですねえ。


分からないって言えば睦言だ。平たく言ったら閨のしどけなき秘奥のわななき…って、まだ意味がわからない方もいらっしゃいますかね。客席拝見すると皆様お若くていらっしゃる。令和生まれの方もちらほらいらっしゃるかな。ハイ、バブー。お元気かなあー。話それちまいましたね。まあ要するに男女が、夜、布団の中ですることのお話ですよ。違う違う、夜のリングフィットアドベンチャーじゃあありません。はっきり言ってしまうと野暮ってもんだがズバリ、おセックスのことでございます。


中でも、最中にお相手の声を聞きたがる殿方ってのは存外多い。かわいい、エロい、聞きたくなるんだぁ、なんつってね。

時は幕末、吉原にメスイキ太夫って大人気の花魁が居たんですが、この花魁、花魁のくせにどうも「声」を聞かれるのがイヤだァ、なんて申します。でもそこんとこくるとどうしても聞きたくなるのが男ってもんだ。

もう今夜こそ絶対ひんひん言わせて夜のうまぴょいしてやるぞって鼻息荒いのはお大尽。どこで聞いたかan-anのセックス特集やら東京カレンダーとか、脱法ドラッグに呪いの本、色んなものを持ち込んで今夜こそはメスイキ太夫に淫語言わせてやろうと張り切って廓に向かいます。


「おう、メスイキ太夫」

「あい」

「今日こそ、おめえに『あん、あん、お大尽様のお大尽様がメスイキのメスイキでメスイキでしゅうう』って言わせて見せるからな!」

「わっちのパートだけキモい裏声やめてほしいでありんす」

「いいか、この原稿をな、読み込んでこの通りに言えばいいからな」

「お大尽、こういうの原稿書いてて死にたくならないんですか」

「うるせぇな、いいから読み込んで暗記しておけ、本番の本番は二時間後だぞ」

「お前さま、ほかに生産的なことないんですか」


なんつってメスイキ太夫も素直に原稿を読み込もうとするんだから、決してお大尽のことが嫌いじゃないんですね。ただ、メスイキ太夫、間違えてべつの本を読んじゃった。そしたら、ひゃっくりみたいに喉のところで、なんかが引っかかったみたいになるからたまったもんじゃない。メスイキはくいくいっとすお大尽の袖を引きます。


「お大尽」

「なんだい」

「お大尽、わっち、身体が変でござんす」

「おっ、さっき酒にこっそり入れた目薬がもう効いてきたのかい」

「おまえそんなこともしたのか」

「それよりいいか、十年ぶりに再開した幼馴染が女の格好してて驚いたんだけど実は女装しただけ男だって言い張るからとりあえずベッドインして確かめようってシチュエーション、頭に入ったのか。いいか、お前の喘ぎ声と長台詞がプレイの鍵だからな。読者の方もそこでお前が女だったのか男だったのか判断するんだからな、舞台はお前にかかってるんだぞ」

「キモいぃよお゛お゛お゛ぉ」

「そうそう、その調子だぞ」


大尽ったら、まるで聞いちゃいませんが、この時、メスイキ太夫の体には大変なことが起こっていました。なんと、台本と間違えて「呪いの本」を読んでしまった結果、興奮すると喋る言葉が「みさくら語」になってしまうようになってしまっていたんですね。


さあ、そうこうしてるうちにお大尽お待ちかねのハイパーお大尽タイムです。


「太夫」

「あい」

「今日こそは『あん、あん、お大尽様のお大尽様がメスイキのメスイキでメスイキでしゅうう』って言わせてみせるからな」

「ぁあああ あぉん、ぁあああ あぉん、お゙ぉおォおん大尽様のぉおおお゙ぉおォおん大尽様がメスイキのぉおおメスイキれメスイキれしゅうう!」

「わ、わあ、いきなりテンションを上げるな」

「お゙ぉおォおん大尽、にゃんか喉がお゙ぉおォおんかしいぃんれぁあああ あぉりんしゅ!!!」


ここでやっとお大尽、メスイキ太夫が呪いの本を読んだことに気付きました。


「太夫、おめえ!」


って少し心配したんですが、これはこれでいいチャンスじゃねえかってんで色んなことをサラサラ書いて太夫に読ませていきます。


「ほれ、これ読んでみろ」

「じゅげむ、じゅげむ、ごこうのぉおおしゅりきれ、かいぃに゛ゃりしゅいぃぎょのぉおお、しゅいぃぎょうまちゅ・うんらいぃまちゅ・ふうらいぃまちゅ、喰う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぉおおぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのぉおおシューリンガン、シューリンガンのぉおおグーリンダイ、グーリンダイのぉおおポンポコピーのぉおおポンポコナのぉおお、ちょうきゅうめいぃのぉおお長助」

「おおお」


お大尽、心配よりも興味の方が勝ってしまったんですね。男の人はけっこう、こういうとこあります。また筆をとって、さらさらさらあ。太夫に渡します。


「じゃあ、これはどうだ」

「ポルナレフ、人間は何のぉおおために生きるのぉおおか考えたことがぁあああ あぉるかね?「人間はられれも不安や恐怖を克服してぇぇぇぇ゛安心を得るために生きるのぉおお」名声を手に入れたり、人を支配したり、金んもぉ゛お゛お゛ぉぉけをしゅるのぉおおのぉおおも安心しゅるのぉおおためら、結婚したり、友人を作ったりしゅるのぉおおのぉおおも安心しゅるのぉおおためら、人のぉおおために役立ちゅらとか、愛と平和のぉおおためにらとか、全て自分を安心しゃせるためら」

「おお、すごいな。じゃあこっちはどうだ」

「お゙ぉおォおんまえたち人間には信じられにゃいぃようにゃものぉおおを私は見てきたのぉおお。オリオン座のぉおお近くれ燃える宇宙戦艦。タンホイザー・ゲートのぉおお近くれ暗闇に瞬くCビーム、そんにゃ思いぃ出も時間と共にやがて消えるのぉおお。雨のぉおお中のぉおお涙のぉおおように。死ぬ時が来たのぉおお」

「だいぶ嫌なシーンになるな。今度は趣向を変えてシンプルなやつ」

「夢らけど!夢に゛ゃにゃかったのぉおお!」

「急にエロいシーンみたいになった。じゃあこれは」

「お゙ぉおォおん前にゃんかより煉獄しゃんのぉおお方がずっとしゅごいぃのぉおおょぉぉぅんら!強いぃんら!煉獄しゃんは負けてにゃいぃのぉおお!誰も死にゃせにゃかったのぉおお!戦いぃ抜いぃたのぉおお!守り抜いぃたのぉおお!煉獄しゃんのぉおお勝ちら!」

「これは!!くっころ!!これは!!」


なんつってひたすら叫ばせているうちにお大尽がふと気づいて曰く、


「いけねえ、いつのまにかおれのお大尽がすっかり萎んじまった」







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