淡々と客観的に綴られる「残念さ」の魅力

 ある朝、目覚めると同時に「SNSの投稿を見れば本名と住所がわかる」という能力を得た男の、激しいネットバトルの物語。

 現代ファンタジー、あるいはSF的なショートショートです。いやそれともミステリー? ざっくりしたジャンル的な紹介が難しいというか、もう本当に「SNSの投稿を見れば本名と住所がわかる能力を得た男の話」という説明が一番しっくりきてしまうお話。

 面白くてスイスイ読んじゃった……いわゆるネットの辺境的な、ものすごくローカルな社会を主軸に据えているにもかかわらず、読者にその経験や知識を要求しないところが好きです。

 現実にSNSでの炎上騒動や揉め事は絶えることなく、連想されるような実例にはきっと事欠かないと思うのですけれど。しかしそれらの何か特定の事例や社会の空気に依存することなく、独立した物語として機能しているところ。
 ちょっと説明が難しいのですけれど、その客観的な姿勢を保った上で、しっかり我がことに置き換えて読める感じが、読んでいてとても気持ちいいです。
 こういう題材の物語を、何か作者や読者自身のメタや内輪的な成分を排した形でエンタメとして仕上げるのって、それだけで本当に好きになっちゃう……。

 あと主人公が好きです。もっというならそのどうしようもないクズっぷりが大好き。
 文章自体はどこまでも端的な三人称体で、でもその中にくっきり客観的な表現で綴られる、主人公・天野さんの本当にダメな人物造形。ほどよい「なんなのこいつ」感というか、嫌は嫌だけどでも投げさせることなく彼の結末を気にさせる、その書き方にまんまと乗せられてぐいぐい読みました。

 尖った一発ネタに見えて、いや尖ったネタには違いないのですけれど、でも異様に丁寧に仕上げられた作品です。
 題材が題材だけに特に身構えることもなく、気軽に読めるところも素敵なお話でした。結びの爽快感がもう本当に最高!