貧困家庭

俺は子供を店に招き入れた。

招き入れたは良いが、何を食わせよう。

店には今日の余った食材が少しある。

鶏肉と、卵と、玉ねぎと、、よし親子丼にしよう。

俺は何も言わずに料理を作り始めた。

冷製を装っているが気持ちはずいぶんどきどきしている。

こやれからどうしたものか考えていた。

子供に目をやると何も言わずに申し訳なさそうに縮こまりながらカウンターの一番端っこの席で座っている。


「お待たせ。親子丼作ったぞ。」

俺は子供の前に丼を差し出した。

子供は嬉しそうに目を輝かせ、手を合わせていただきます。と言ってがっついて食べ始める。

食べさせながら俺は子供に事情聴取を始めた。

「お前、名前は?」

「ゆうきです。」

「いくつ?」

「10歳」

「えっと、悪いんだけど女?男?」

「女です。」

「そっか。失礼なこと聞いて悪い。」

ゆうきは照れ笑いしながら「こんな格好だから仕方ないよね」といった。

ゆうきは短めな髪に細すぎるくらいの体つきでヨレヨレのTシャツとズボンを着ていた。背も小さめで10歳にしては少し発育が悪く見える。


「こんな時間にこんなところでお腹空かせて、どうした?親は心配してるんじゃないの?家でご飯とか用意してない?もしかして、家出とか?」


ついつい質問をたたみかけてしまう。

もしも家出だったら警察に連絡しなければいけないのだろうか。

家出ならまだ良い。

虐待とかだったらどうしよう。


「うちはお母さんしかいなくて、貧乏だからお母さん朝から晩まで働いてくれてるんだ。夕ご飯はいつも500円お母さんが置いてってくれるからそれで買って食べてるんだけど2日に1回は食べないでお金を貯めてるの。お母さんがお金足りないときに払えるように。」

ゆうきは少し恥ずかしそうに答えた。


俺は決して裕福ではなかったけど貧乏でもなくて、当たり前のように学校に行くときも帰ってきても休みの日でも親がいてご飯を作ってくれて洗濯や身の回りの世話をしてくれた。旅行なんかにも回数は多くないけどたまには連れてってくれて、大学まで行かせてもらえた。

温室で育ったもんだからこんなふうに苦労している親子がいることを想像すらできなかった。

そしてそんな環境の中でもこんなに子供が真っ直ぐいい子に育っている事にも驚いた。きっとすごく子供思いの優しいお母さんで、毎日必死に頑張っているんだろう。



「ゆうき、お前偉いなあ」

そう言いながら俺は目頭が熱くなった。

「なんでお兄さん泣くの?私のこと可哀想って思ってる?苦労は多いけど、お母さん私のために頑張ってくれてるし、優しいし、すごく幸せだよ」

このセリフが俺を余計泣かす。

「誰かが私のために作ったご飯食べたの久しぶりで嬉しかった!すごくおいしかった!ご馳走さまでした!」

そう言ってゆうきは500円を差し出してきた。

俺はそれを受け取らずに返す。

「お前全然かわいそうなんかじゃないよ!むしろ幸せそうで羨ましい!俺なんかさ、もう親も死んじまって彼女もいないし一人ぼっちなのよ。うちでよければお金なんていらないから、毎日でも飯食べに来いよ!お前一食分くらいなんて事ないし!」

ゆうきは驚いて嬉しそうな顔をした。

「ありがとう。すごく嬉しい!でもいいよ。流石に申し訳ないよ。」

いつもお客さんに料理を提供してはいるけど、こんなに感謝された事はなくすごく嬉しかった。こんなに喜んで美味しそうに食べてくれるなら毎日来てもらっても全く構わない。俺は初めて料理を出す仕事にやりがいを感じられる気がした。

「遠慮するな!毎日俺がご飯食わせてやる!迷惑かな。同情とかじゃなくて、ほんとこんな美味しそうにご飯食べてもらえるのが嬉しかったんだ。それに俺で力になれるならお前たち親子のことも応援したいと思った。でも俺もさほど金はないし、俺ができるのはこれくらいのことしかないから、、、」

「本当にいいの?」

「もちろん!あっでもお前の親心配するよな。今日だってお前のことこのまま1人で帰すわけにいかないし、親に迎えきてもらえよ。親の仕事が終わる時間までいてくれて構わないから。そしたら俺からちゃんと事情を説明するから。」

「お兄さん本当にありがとう!嬉しい!私お金は払えないけど、放課後ここへきたらお店のお手伝いする!お皿洗とか掃除とか台拭きとか!」

「それは助かるな」

店の外にいた時とは大違いの明るい顔でゆうきは笑ってみせた。

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子供弁当 @pyun_

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