卒業式

今日は卒業式だ。


長かった高校生活も今日で終わりと考えると、感慨深いものがある。

特に、最後の1年は本当にあっという間だった。

高原君と出会って、私の人生は大きく変わった。初めは誰とも喋れなかった私だけど、今はある程度話せるようになっていた。花菜以外の友達も出来た。誰かと一緒にいる楽しさを知った。


ホント、高原君のおかげだ。ありがとう。














「そう言って貰えると嬉しいよ。」

高原君の声だった。

だが、もちろん姿はどこにもない。

声だけが聞こえる。


「藤原さんと出会って、僕も楽しかった。人と話したりするのってこんなに楽しいんだって知った。全部藤原さんのおかげだよ。ありがとう。」


「私なんか何もしてないよ。それより、

高原君も私と一緒だったんだね。」


「そうだよ。藤原さんからどう見えてたかは分からないけど、僕も藤原さんと一緒で

異性と話すのは苦手だったんだ。」


「ごめんね、私、気付けなかった。高原君も、本当は気付いて欲しかったよね。」


「確かに、生きてた時はなんで気づいてくれ無いんだろうとは思ったけど、今になって分かった。むしろ気付いてたら、僕たちの間にはもっと距離があって、藤原さんも変わることが出来なかったと思う。だから、気付かなかったからって、自分を責めないで。」


「うん、分かった。ありがとう。

高原君って、死んでも優しいんだね。」


「死んでもって一言余計だよ笑

他の人と話す時は気をつけてね。」


「うん、分かった笑」


久しぶりに高原君の笑顔を見た。


私はとても嬉しかった。


だが、ここで1度冷静になった。

「ねぇ、どうして私には高原君の声が聞こえてるの?」

「なんでだろうね。僕にも分からない。

ただ、藤原さんの事ずっと見てて、話がしたいなと思ってたんだ。その願いが届いたみたい。」


彼がしみじみと言う。

が、私にはそれどころでは無かった事があった。


「え、もしかして全部見てたの?」

「もちろん、全部見てたよ。」

「私が号泣した時も?」

「うん、そうだよ。」

「えーーーー、恥ずかしいな。」

「死んだ人間に恥ずかしいとかいう感情持っても意味ないよ笑」

「ま、まぁそうか。」


久しぶりに高原君と会話ができて、

私はとても幸せだった


「ねぇ、私このままずっと高原君とお話してたいんだけど、ダメかな?」

「ダメだよ。折角他の人とも話せるようになったのに。そんなの勿体ない。」

「もう僕はいないんだから、僕が生きたかったこの世界を全力で楽しんでよ。」













「藤原さんには、僕の分も幸せになって欲しい。」











私の視界が揺らいだ。

涙が止まらなかった。








それを見て彼は笑っていた。


「そう言えば、ごめんね。あのハンカチ。

本当は僕から直接渡そうと思ってたんだけど。どうしても渡せなくて。」

「ううん、大丈夫だよ。私も高原君の立場だったら渡せてないと思うし。」


「そのハンカチの黄色い水仙の刺繍さ、

本当に藤原さんにピッタリだよね。」


「そうなのかな。」


「うん、きっとそう。」


「確かにそうだね。これからこのハンカチを見る度に高原君の事を思い出すよ。」

「それは嬉しいな。ありがとう。」


やがて、彼は少し静かに言う。

「じゃあ、そろそろ僕は行かなきゃ。」

「ちょっと待って。」




私は精一杯の声で言った。

「あの、最後に一つだけお願いがあるんだけど。」

「なに?」

「最後に、高原君のこと、下の名前で呼んでもいい?」



少しの間があった。





「いいよ。」







「良かった、ありがとう。」










私は初めて彼の目を見てしっかりと感謝できた。


いよいよ正真正銘お別れの時間だ。

「じゃあ、そろそろだから。」


「うん、ありがとう遼太。遼太のおかげで私は昔の自分を卒業出来た。遼太のおかげで私は強く生きていける。」





彼は最後にまた笑ってくれた。

「こちらこそありがとう。僕も千遥のおかげで過去の自分を卒業出来た。これからも僕は

千遥を見ているよ。」



「幸せになってね。」




そう言うと彼は消えた。



私は、自分が何度も自殺しようとしても

出来なかった理由を悟った。


きっと、遼太は私に幸せになって

欲しかったんだ。

例え、この世界に彼がいなくても。


だから、何度も私を現実世界に突き放した。







大丈夫だよ、心配しないで。

これからの私は1人じゃないから。











今、式では卒業証書が授与されている

最中だった。



花菜が証書を受け取っている。

彼女は笑顔だった。





私も笑顔で行こう。





やがて私の順番になった。

先生が大きな声で私の名前を呼んだ。




藤原千遥










私は笑顔で返事をした。











「はい!」










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黄色い水仙 ハレルヤ @Kubokakuu

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