残された家政婦AIへの、最後の贈り物、または願い

 仕えていた主人の急死により、屋敷にひとり取り残された家政婦AIの、「最後のアップデート」とそれからの物語。

 AIの主観から描かれるSF短編です。
 一件のお屋敷のみを舞台にして進行するお話、というか、むしろ主人公(AI)自身がそのお屋敷そのものであるとも言えるお話。

 魅力はやはり物語そのもの、作中で描かれる人間のドラマです。
 住むべき人間を失ってなお在り続けるお屋敷の寂しさ。それを維持し続ける主人公の振る舞いは、しかし事実上(あるいは結果的に)その主人の生前の望みによるもので、しかし屋敷にあってもはや命令を与えられることのないAIの、その孤独な煩悶が胸に突き刺さるかのようでした。

 丁寧かつ静謐な筆致もまた魅力のひとつ。主人公の主観視点から綴られる文章の、一見淡々としているようでいて、でもよく見ると相当に抒情的なところなど。
 静かでうら寂しい光景の中に、かすかに息づく暖かさのような感触が嬉しい作品でした。