綺麗なおねえさんは好きですか
休みの日というのは、つい起きるのが遅くなってしまいがちだ。よって、食事の時間が寝坊した時間のぶんだけずれこんでくる。
土曜日の午後二時半。昼食というには幾分おそい栄養摂取。それをコンビニのパンで済ませてしまう程度には自堕落な性格を自覚しているので、気休めに買ったビタミン剤のビンをみた。
「あ、これ意外とカロリーあるんだ」
なにげなく流し読みしている成分表示であるが、やはり女性としてはカロリーが気になるところ……いうほどには気にしていないのであるが。それが最近じわじわとお腹まわりに現れはじめたようで、さほど気にしていなかった過去の自分を若干責めた。
すこし前によく耳にした、干物女に選別されるほど女を捨てていない。最低限には身綺麗にしているし、運動不足解消にジムに通っていたこともある。同じジムに通うウワサ好きの主婦に閉口してやめてしまったが。健康や美容にはそれなりに関心がある。
「ダイエットしよっかなぁ」
そんな一言が口をついてでたのも、なけなしの女心だ。
正直なところ、「キレイになりたい」というよりも「下着や服のサイズが合わなくなったら買い替えるの面倒くさい」というのが本音。
しかし本音というのは得てして心の中にしまってあるもの。ダイエット発言の真意を知らずにそれを聞いていた少年(部屋を教えてないのになぜか来た)は、驚いたようにこちらをみた。
「え、羽雪さんダイエットするの?なんで?」
なんでと言われても、此方からすれば君がいるのがなんでなんだけど……そう言いたいのは山々だった。が、言っても納得のいく答えは返ってきそうにない。その問答にかけるだけ時間が無駄になることがわかっていたので、少年の問いに答えた。
「ちょっと太ったかも」
「太ったぁ?」
頓狂な声をあげる少年、名を椎月(しいづき)細(ささめ)という。ひとが太ったと聞いて、なぜか嬉しそうににやにやしだした。けして性格が良いとは言えないことは知っていたが他人の不幸を喜ぶほどに性格が破綻していたとは……。
冷やかな視線を向ける私に、ササメ君は聞かれてもいないのにその理由を話しはじめた。
「羽雪さんが太ったってことはさー、この地球上から羽雪さんが増えたってことだよね。なんか嬉しくない?羽雪さんがいっぱいになったら幸せだし」
どこが幸せなんだ。ひとが太ったっていうのに!やっぱりこの子は馬鹿だ。前から思っていたけど。
心底呆れ、心底腹が立ち、そして少しだけ嬉しかった私は意外とカロリーのあるビタミン剤を一気飲みした。
世の女性たちが言うであろうセリフを心に刻みつつ。
(ダイエットは明日から!)
【了】
薬指の約束 張替ショウジ @harishooo
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