あとがき


 ここまでご愛読いただき誠にありがとうございました。


 今回の物語は、簡単に言うと「ごく普通の少女が大いなる運命に巻き込まれて、絶望的状況でも立ち向かおうとする、その第一歩を踏み出す物語」なのです。

 謎を探求する秀才でもなく。

 人望厚いハイスペックな好青年でもなく。

 ましてやその分野を愛して知識に長けた者でもない。

 特筆すべき点のない、むしろ後ろ向きな思考を持つ力のない少女が主人公。

 そんなモブキャラ同然な子が選ばれた存在になり、特別な力に目覚めていく。

 物語の主軸自体はそんなかんじであり、それ以上でも以下でもありません。


 では、作中でなにがあったのか。

 当然の疑問だと思いますが、それについては深掘りしません。

 ああ、ちょっと待ってください。

 別に謎をぶん投げエンドって話ではないんです。

 作中で起きた事象自体はきちんと決まっており、それに沿ってストーリーは進んでおります。

 ただ、この作品の目的はそこにありません。

 今回のテーマは「圧倒的な謎」にあるからです。


 様々なホラー作品を読んで、こう思ったことはないでしょうか。

 幽霊がどうして恨み憎しみを持つようになったかわかった途端、怖くなくなったし愛着も湧いてきた……とか。

 主人公が武器を手に入れて怪物に反撃を始めてから、ただのバトルもののになってしまい怖くない……とか。

 どうしてもホラーにつきものな、後半部分の怖くなさ。

 特にサスペンス要素が入っていると、どうしても謎が解け始めた段階で恐怖が薄れてしまいます。

 そこでこの作品では、最後の最後まで謎を引っ張り、主人公の反撃を思わせる場所で終わらせました。

 長時間恐怖が維持できていましたでしょうか?

 もし「大して怖くなかったぞ」という意見があるのでしたらこの作品における実験は失敗、ということになるでしょう。

 また謎について明らかにしなかった理由として、恐怖を現実世界に持ち越してほしいという意図もあるからです。

 この物語はもちろんフィクションですが、描かれたようなことが実際に起きないと言い切れるでしょうか?

 少なくとも自殺者数は増えていますし、もしかすると突然黒い少女が見えるようになるかもしれません。

 そう考えると、小説の中以外でも恐怖を味わうことができるわけです。お得なのです。


 また、この作品にはあるメッセージも込められています。

 それは「常に考える」ことです。

 作中の登場人物達があの手この手で謎について答えを出そうとしたり折り合いをつけようとしたり、知識と経験を総動員して立ち向かっていました。

 私が読者の方々に求めたのは、彼らと同様の考えることです。

 謎を解き明かすためのヒントは作中に散りばめられています。考えるための道筋として、キャラクター達の思考例も書かれています。

 それらを元にして、読者のみなさまなりの答えを導いてもらいたいのです。

 もちろん、真の答えはきちんとありますし、それを元にこの作品はできています。

 しかし、それ自体に意味はないのです。

 完璧な答えという確証がないのにそれを追い求めることそのものが生きることであり、この不安定な世の中を渡り歩くために必要なスキルだからです。

 つまり、いつも考えること。

 物事に対して正しいのか間違っているのか、それとどう付き合っていくか。

 思考を止めるな、ということなのです。


 さて、ここまでしつこく食い下がって読んでくださるということは、よほどこの作品が気になっているのでしょう。

 では、最後にこの作品に関して最大のヒントを出します。

 キーワードは「神」「管理」「コンピュータ」です。

 そして章の題名が示すのは、黒い少女とそれを司るなにかの行動や出来事です。


 長くなりましたが、ひとまずこの辺で。

 あなた方の、よきシンキングライフを祈っています。

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深淵よりのЯuin 黒糖はるる @5910haruru

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