私は神になった。

つっちー

私は神になった。

 私は神になった。世界の外から、今まで自分がいた世界を眺めている。

この世界は昔から人間と魔族が対立を繰り返してきた。私は人間の為に魔族と戦った。多くの戦績を収めて、英雄と崇められるようになった。悪い気がするはずもなく、より一層、人間の為に戦う事を誓った。

戦争は激しいものとなり、多くの負傷者、戦死者を出した。次第に人間も魔族も兵隊たちだけではなく、何の罪もない平民たちも虐殺するようになった。私も当然虐殺を行った。

ある日、私は生まれ故郷を自らの手で火の海にした。魔族がすぐそこまで来ており、魔族に何も与えないために、町を焼いた。抱えきれない人は切り捨てた。そんな中、私の両親が目の前で、私の部下に切り殺された。何かをすることも考えることもできなかった。

 私は戦意を失った。助けを呼ぶ声、家族の名前を呼ぶ声が響き、絶望に打ちひしがれた者たちを無慈悲にも焼き払う。広げられた地獄の中にただ茫然と立ちすくんでいた。

仕方なかったのだ。人間のためにしたことだ。そう自分を説得させようとしたが無理だった。もう国に対する忠誠も愛も無くなっていた。

私は魔族に捕らえられ、捕虜となった。



 私の名前は魔族たちにも知れ渡っていた。連れていかれる途中、罵声と石を何度も投げられた。

 魔族の王の前に突き出された私は、国なんぞどうでもよかったので、情報を魔族の王に全て教えた。その後は殺されると思っていたが、何故か生かされた。

魔族の王は人間と魔族の歴史を語った。それは人間が国を造った土地に先住していた民族を魔族と名付けて、迫害し、奴隷にしていたことだった。私が教育された歴史とは違っていた。私は魔族が人間に攻めてき、人間を侵略しているのだと教わっていた。

そして、これからは魔族の為に戦うように言われた。かつて人間の英雄だった私が魔族の戦士となれば、相手の士気を下げることができ、さらには、それなりの戦力にもなるからだろう。

 魔族の歴史は人間に失望していた私が裏切るには十分だった。この際、歴史の真贋はどうでもよかった。私は魔族の戦士として人間の軍勢を打ち破っていった。



 ある日、私の功績が認められ、魔族の王から大いなる力を貰った。それは人間だった頃には到底、手に入れる事の出来なかった強大な力。神にも匹敵する力だった。地形を自在に変え、命を生み出すことも、消すことも自由自在であった。もはや私に勝る者は何処にもいない。

 圧倒的な力で人間の国を滅ぼした。魔族は人間を侵略し、人間を奴隷として扱いだした。私はその光景を横目に見ながら、昇天した。この有限な世界を超越し、永遠不変な世界の外へと出て、神となるためである。



私は神になった。世界の外から、今まで自分がいた世界を眺めている。

 これからこの世界を破壊し、新しい世界を創る。私が創る世界に争いも格差も種族による差別なんかも無い、誰もが私を頂点とし、誰もが平等な世界だ。

 世界を破壊した。あっという間の出来事だった。土くれを指で簡単に潰すようなものだった。新しい世界を創った。しかし、時が進むにつれて異種族同士で争うようになり、格差が生まれるようになった。同族同士でも争うようになった。私は世界を創り直すことにした。

 しかし、何度作り直しても同じ結果である。私がどれだけ手を加えても、同じである。やり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し。もう何回、世界を創り変えたか分からない。

 ある日、また世界を創り直そうとしたときである。パキパキと卵の殻が割れる様な音が頭上からした。ふと見上げると、世界に亀裂が入り割れていた。そして割れた隙間から光り輝く巨人の様な何かが私を見下ろしていた。



 その巨人に睨みつけられて体が動かなくなった。

「お、お前は誰だ!」

「私は神である」

なんとその巨人は神を名乗ったのである。私がこの世界に来てから一度も誰とも会ってはいない。

「ふざけるな!私こそが神である!見ろ、私は世界を創造し破壊することも自由だ。お前にこれができるか⁈」

神を名乗る巨人は少し黙った後、ゆっくりと喋りだした。

「当然である。以前、貴様が破壊した世界は私が創った。」

「ならば、お前は旧世界の神ではないか。私が新世界の神だ!手出しはするな‼」

「何か勘違いをしていないか。貴様も貴様自身も私が想像をした。貴様よりも上位の神なのだ」

 なんとこの巨人は私よりも上位の神だというのである。

「さらに私よりも上位の神もいるだろうがね……」

「ど、どういう事だ……」

「貴様が世界を創り、生命を生み出した様に、貴様のいる世界にも創造主がいたというだけの事である。……もっとも、厳密には貴様らは私の創造物の創造物なのだがな。」

「創造物の創造物だと?」

「ある日突然、神と設定していた存在が消えたのだよ。そして暫くすれば、貴様が神として世界を創りだした。」

そうすると巨人は手を伸ばし、私の頭に人差し指を置いてこう言った。

「私も世界を創り直そうと思う」



 この巨人は私もろとも、世界を創り直そうと言うのである。抵抗をするがなにもできない。

「何故だ!何故、神である私に何もできない⁉」

「小説の登場人物が作者に抗う事があるか?好き勝手に干渉してくることがあるか?……そんなことは無いのだよ」

巨人の指に力が入る。体が思うように動かない。

「ま、待て……」

なんの音も感触もなく、あっけなく神になった男は消された。暫く静寂が続いた後、再び卵の殻が割れるような音がした。、何もかもが無くなった。

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