存在の証明
先輩が涙するのを見ていた。
時々現実と妄想が区別できていない時がある先輩だったが、基本的には善人でお人好しなので好きな先輩だった。
その先輩が聞いた居場所があるので車を出して欲しいと言うので、今日は車を走らせた。
頼まれた時は、他の先輩に対するよりもかなりすんなりと了承したので恨みがましい目で見られたけれど、諸先輩方は日頃の行いを反省して欲しい。
先輩に頼まれて来たのは郊外の資料館だった。併設されている古民家は元々ここにあったものらしく、所々に人が生活してきた痕跡が残っていた。
先輩がその跡を愛おしそうに撫でていく。
ここは、先輩の好きな作品の中でキャラクターの生家とされている場所だった。その作者はかなり巧妙で、実在する資料を絡めて作品を作るため時々ネットでキャラクター実在説が持ち上がる程だった。
そんなキャラクターの生家、先輩にとっては聖地である古民家。そんな中、先輩は1つの傷を見つけて涙を流した。
普通の生活ではつかないだろう天井の傷。キャラクターと兄弟が幼少期に遊ぶ中で作ったという設定だったはずだ。
それが確かにそこにあった。
その傷を見つけ実在したんだと涙を流す先輩に、その傷がとても新しいものだという事を告げる事は出来なかった。
三題噺 @skysound98
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