第12話聖女フェルマ、魔導士シオンと両想いのようですー終



私はシオンの顔を見つめた。


黒い濡れたような艶やかな髪が、顔にぱらって掛かってて、紅がかった目が、私を見ている。その唇は何か言いたそうに少し開いて……



うわ



私は急に胸がドキドキしてきた。え、ちょっ、これ何?顔も熱い。


私、シオンのこと……



「私、たぶん本当はシオンのことが好きみたい」



あれ?


気付いたら言っちゃってた。



そのとたん、シオンがベッドから立ち上がって、私をぎゅうっと抱き締めた。



ええ?


どうなった?



「俺も、たぶん……いや、たぶんじゃない。お前のことが好きだ」



え。


えーーー!?


いつ、好きになった!?


なに、この急展開!?



「うそぉ!?」


思わず叫んだ。



「嘘じゃない」


「え、だって、意地悪だったし、いつそんな、好きになんてなったわけ?」



「お前が残念聖女でごめんなさい、って言ったあたり」


はっきり答えられた。



えー。



「お前があの古代遺跡のダンジョンで、魔物を素手で嬉しそーにぶっ倒しまくってるの見た時、なんか面白い奴だなって思ってさ」


「あれを見て!?」


「うん。まあやばい奴だとも思ったけど」



あ、やばい奴と思われてたのか。まあそりゃそうだよな。あの時は完全に脳汁出てたもん。脳内麻薬出まくりだったもん。



「それで、そのあともお前がやることいちいち面白くて。まあ女に面白いとか誉め言葉じゃないとは思うけど……その時にはもう、お前のことが好きになってたんだよな。で、転移の罠に引っかかってどこかの部屋に飛ばされた時な」


「う、うん」


とりあえず、長そうなので頷きつつ聞く。



「お互い服脱いで、くっついてたろ。あれ、実は、柄にもなく俺もちょっとドキドキしてたんだ。でも、そんなこと悟られたらお前が気まずいと思って、なんとか何でもないふりし続けたけど、あの時は今思えば、もうかなり好きになってたんだ」


一気に語られた。



えーー、そうなんだ。あの時、私だけがドキドキしてるのかと思ってたよ。


まあ確かにシオンの心臓もドクドクはしてたけど、そういう意味で鼓動が早くなってるとは思わなかった。



「ダンジョンから帰ってきてから、気付いたらお前のことばっかり見てた。でも、そういえばお前はイグニスのこと好きだったんだよな、って思い出したら、胸が苦しくてさ……だからさっきイグニスの部屋の前にいるの見たら、つい……勝手に誤解してあんなこと言って悪かった」


「いや、もうそれはいいんだけど」



いやいやいや、待って待って。こんな懇切丁寧に『私を好きになった経緯』を説明してもらって、もうなんか、私、いっぱいいっぱいだわ。


しかも最初からずーーっとシオンってば、私のことをぎゅうぎゅう抱き締めたまんまだし。



あーーなんかいい匂いするー。これってシオンの愛用の石鹸の匂いかな。


はあ、落ち着く匂い……ってそうじゃなくて。


いや、キャラ違いすぎない?



「えっと、あの、すごく丁寧に詳しく分かりやすく、教えてくれてありがとう」


とりあえず礼を言う。



「それに、そんなに私のこと好きって言ってもらえて、すごく嬉しいよ……ていうか、そしたら私たちって両想いってこと?好き同士ってことだよね?」


「うん、そういうこと。俺の恋人になってくれよ」


「うん……恋人……えーー!!」



シオンのいい匂いにぼーっとしていた私は、はっと我に返って叫んだ。



「いいだろ?」


シオンの紅がかった潤んだ黒い瞳が、私を見つめてくる。


うわ……何、この色気。女の私より色っぽいって、なに?



いや、でも答えは一つよ。


私だってシオンのこと好きだもん。そう、私はシオンのことが好き。



「うん……いいよ。私をシオンの恋人にして」


私がきっぱりそう言うと、シオンはくすくす笑った。



「やっぱり、お前面白いよ。でも、すげえ嬉しい……」


そう言って、シオンの超絶美しい顔が私の顔に近づいてきた。


うわっ、睫毛ながっ。瞳もすごく綺麗。



「……そんなずっと見つめられるとキスしにくいんだけど」


「あ、わ、分かった」



きゅっと瞼を閉じると、ふっと笑ってシオンの熱が近づいてくる。


ちゅ、っと私の唇に柔らかいシオンの唇が当たった。



♢♢♢



目が覚めると、まだ早朝のようだった。私の隣でシオンはまだ目を閉じて眠っている。


二人とも裸のままだ。



何回見ても綺麗だなあ。


彫刻みたいな、綺麗な横顔を眺めていると、


ふっと目を醒ましたシオンがこっちを向いた。紅がかった黒い瞳が私を映す。



「おはよう」


そう言うと、



体を私の方に向けてぎゅっと抱き締めて来る。



「……体、大丈夫?」


「ん。大丈夫だよ」


「そっか。ならいい。初めてだったのに、何回も続けてしちまったからな……」



言われて、ぼっと赤くなる。


そうだよ、私初めてだったのに、あんなに……自分でも、むちゃくちゃあられもない姿を晒してしまった気がする。



「すごく可愛かった」


ふふ、と笑われてますます恥ずかしくなる。



「ーーもう!シオンのえっち!エロ魔人!」


「えー、俺だけか?」


「知らないよっ」


「ごめんごめん。俺はあんなふうにフェルマが俺に全部見せてくれたことも、俺で感じてくれたのも、すごく嬉しかったよ」



ちゅっとキスされてそう言われると、私もじんわりした。


「私も、シオンの全部見れて嬉しかった」


「……可愛いなフェルマは。あー好き」


「私も……」



ちゅ、ちゅっとキスが続き、だんだんそれが深いものになってくると、向かい合って抱き合っているお腹に触れていた、シオンのものが存在感を増して来た。



「あー……またしたくなる」


「も、もうっ」


「まだ朝、早いし……一回だけ、いい?」


「……うん」



なんだかんだ言っておきながら、私もシオンが欲しくなってしまった。


結局私たちが起きだしたのは、いつも起きる時間を大分過ぎた頃だった。



あーーー……イグニス様たちに顔、合わせづらいなー……



何しろ、イグニス様たちのむつみあう声を聴いてしまった上に、そのあとは私もシオンとあんなことやこんなことをしてしまったのだ。



なんか、気付かれたらどうしよう~。


ああ、恥ずかしいよ~~。



とりあえず、私はシオンの部屋を出て(誰もいないか確認して)、自分の部屋でシャワーを浴びて服を着替えた。



そして、宿の1階にある食堂に行く。


もうイグニス様とリアナ、シオンがテーブルについていて、運ばれて来た朝ご飯のセットに手を付けようとしていたところだった。



うーー……平常心平常心。



「おはようございます」


にこっと挨拶すると、



「おはようフェルマ」


「おはよう」


リアナとイグニス様も笑顔で挨拶を返してくれた。



ふー。とりあえず、大丈夫……かな?


私も座って、まずは紅茶のカップを手にした。



すると、シオンが


「あ、フェルマ。もうイグニス達には言っといたから」


「え?……なにを?」


嫌な予感がしながら言うと、



「俺らが付き合い始めたこと」


「ッげほごほぶほ!」


ぶしゃーー!


盛大にムセて紅茶撒き散らしたわ。



「ちょ、ちょっとフェルマ大丈夫?」


リアナが慌ててナプキンで私の口周りやテーブルを拭いてくれる。



「ちょっちょっ、ちょっーーー!?」


「落ち着けよ」


いや、落ち着けるか。


なに言ってくれちゃってんの!?


馬鹿なの?



「こういうのは変に黙っとくより、言っといた方がいいんだよ。色々」


「ーーー!!?」


いやもう、ちょっと落ち着こう。すーはーしていると、リアナが苦笑いで言った。



「ごめんねえ。私たちのこと、言ってなくて。だって、あなた初めて会った頃、イグニスのこと好きみたいだったから、言いにくくて」


「俺の方からも謝らせてよ。ごめんね。フェルマにだけ隠してるみたいで嫌だったんだけど、リアナもシオンも変に拗らせたくなかったら、黙っておけって言うからさ……」


イグニス様も肩をすくめる。



え、どういうこと?


「シオンはもう、イグニス様とリアナが付き合ってたのは知ってたってこと?」


「ああ、まあな。俺とイグニス達はずっと前から仲間だし」



「ちょ、ちょっと待って、私がいない間に何をどこまで話したの?」


聞くのが怖いが、どこまで情報開示されたのかは確かめねば。



「昨日恋人同士になって、一緒に夜を過ごしたってこと言っておいた」


「いやあああああ!!??」



私が昨日の夜、あれやこれやしたこと、すでにみんなが知ってるってことっ!?



何!?何なのこいつ。羞恥心ないの!?心臓に毛生えてる?動じない心、山のごとしなの!?



私が真っ赤になったり真っ青になったり死にそうになっているのを、シオンたちは不思議そうに見てくる。


いや、その反応何?こんなこと普通に話す方がおかしくない!?



「そういえばお前、神殿育ちだったなー」



あ、そうか、みたいにシオンが言ってくるけど、それがなに?



「神殿みたいな特殊なとこは違うだろうけど、この国、そういうの緩いぞ。好きなやつがいればすぐ寝るし、それを周りに隠したりもしないし、特に俺らみたいに魔物と戦ったりするような仕事してるやつは、いつどうなるか分からないから、体を合わせることを躊躇したりしない」


「う、うそ、そうなの!?」



私がややショックから立ち直って聞くと、イグニス様も頷く。


「王族でもそんなに厳しくないしね」


「うん。当たり前かなー」


リアナも頷く。



なんと。私が神殿で世俗と離れた生活をしている間、世の中の皆さんはそんな自由に色恋を愉しんでいらっしゃったなんて。



うわーー……カルチャーショックぅ……。



性知識のネタが神官のおじいちゃんが隠し持ってる、ふっるーーい、えっち本だったから、そんなの全然知らなかった……



しかもあの本、今考えたらそんなにえっちくなかったわ。大したこと書いてなかったし。



『そういうこと』をみんながそれほど恥ずかしいと思ってないと聞いて、私もちょっと落ち着いてきたけど、



「だから、今度から俺とお前、二人部屋な。イグニスたちも二人で部屋取るようにするから」



シオンに平然と言われ、


口から魂を飛ばしたまま、かくんと首を頷かせた……仲間公認えっち……ハードルが高すぎる……。



**********



その後、私たちは準備を整えて、最初の目的だったダンジョンの探索を終え、潜んでいた魔物のボスを倒した。



そして今日は、他の地方へ向かうために、また旅を始めようとしている。


街の門を出て、少し歩いたところ。


ここからは整備された道はない。



「それじゃ行こうか」


イグニス様が輝く金髪を煌めかせて、相変わらず素敵な笑顔で私を振り返る。



「はーい!」


私も元気に応えるけど、もう今はイグニス様は大事な仲間だ。



「これから行くところってどんな魔物がいるのかしらね」


艶やかな赤毛を風に靡かせ、リアナがイグニス様の横に並んで立つ。



「ん、まあ、どんなのでも何とかなるだろ」


シオンが、いつものように認識阻害のローブ姿で何でもないように言う。



私たちも大分力を付けて来た。きっと、これからまた経験を積んで、それから、きっと魔王も倒せるだろう。てか、ぜったい倒せる!



イグニス様とリアナが先に歩き出し、シオンが私の方にやって来た。



「フェルマ」


「ん?なに?」



シオンが自分のフードをさっと下げて顔を露にした。


そして大きな手で私の後ろ頭を掴んで、ぐいっと自分に寄せると、私の唇に深いキスをする。



シオンの紅が滲む黒い瞳が、私を真っ直ぐに捉えていた。



「愛してるよ。何があっても俺が守ってやる」



私はきゅううう、っと胸が切なくなってしまい、感極まってシオンにぎゅうっと抱き着いた。そして、


「私も愛してるっ!シオンのこと、絶対守るっ!」


と叫んだ。



シオンは目を丸くしていたけど、くくっと笑って言った。


「ーーああ。頼りにしてるよ。何しろ物理も行ける、脳筋残念聖女だもんな」



私はおかしくなって笑った。


イグニス様とリアナもこっちを振り返って笑ってた。



ーーーー私、脳筋聖女で良かった。だって、守られるだけじゃなくて、大好きな人を守れるんだもん。


シオンの手をぎゅっと握ると、シオンも私を見て笑って、手を握り返してくれた。


うん、私これからも脳筋聖女で頑張る!



(終)

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塩対応の隠れイケメン魔導士が残念聖女(笑)を溺愛するまで(イラスト有) にあ @padma

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