第30話 コイビト ②

 次の日、朝起きると待ち合わせ時間まで既に一時間も無く、私は慌てて出掛ける支度をし始めます。


 ひっじょーに拙い!夜更かししすぎた!


 中々寝れなかったからって、布団の中でアニメを見始めたんだけど、一度見始めると中々途中で止められなくて、つい・・・


 で、でも!駅までは余り時間がかからないから、今からでも走れば何とか間に合うはず!




「お、おまたせー!」


「ねぇ、サキ?アンタ、ギリギリ遅刻じゃないけどさぁ・・・?自分で時間指定しておいて、それはどうなのよ?」


 息も絶え絶えに、何とか待ち合わせ場所へは数分前に到着したのですが、呆れた表情のマコトに開口一番でそう言われてしまいます。


「まぁまぁマコトさん。サキさんは何時もこうですから。」


 ミキからも暗に責められているのは、多分気のせいではないでしょう。


「いくら何でも流石に、彼氏の誕生日プレゼント選びに行くのに寝坊はしないと思ってたんだけど・・・ホント、ブレないね?」


 その納得のされ方はちょっと不服だけど、事実だから何も言い返せないや。


「揃ったから行こっか!もうすぐ電車きちゃうし!」


「あーもう・・・はいはい。」


 気まずさを誤魔化すために私が先に改札へ向かうと、仕方ないと言わんばかりの表情で二人も続きます。




 私達の住む地区は学校や住宅地、小規模の商店や娯楽施設はありますが、大規模な複合型商業施設は無く、そういった施設を利用したい場合は他の衛星都市へ高速鉄道を利用して向かう事になります。


 都市間は基本地下を通る鉄道を利用して移動するように整備をされていますので、距離の割にお金は余りかかりません。


 因みに、他にも幾つかの衛星都市を地下で結んで周遊しており、そこから行政の中心地へ行く事も可能なのですが、そちらは専用の身分証が必要となる為、行ったとしても私達では入る事までは出来ません。




 そんな商業施設が存在する衛星都市までは、私達の街から高速鉄道で大凡1時間程かかるので、開店直後ぐらいに到着するよう待ち合わせをしたのです。


 周辺の他の衛星都市からも来客が見込める為かかなり広いので、1日をかけて見て回りながら、ついでに遊んだりするつもりだった為です。



 私達は到着までの間、お昼に何を食べるかや、以前行った際にどんなお店があったか等、他愛もない会話を楽しみながら到着までの間を過ごしていると、不意にマコトが真剣な表情で私に尋ねてきました。


「ねぇ・・・サキ?」


「なぁに?」


「昨日から気になってたんだけどアンタ、お母さんとは連絡とってるの?」


「ううん・・・してないよ。それがどうかしたの?」


 連絡自体は、時間が掛かりはするものの可能ではあるのですが、父の葬儀の際に連絡の一つも遣さなかった母に思う所が当時あった所為か、未だに私から連絡をした事はありません。


「やっぱりね・・・何となく、そうなんじゃ無いかなって、思ったんだ。」


「何が?」


 今のマコトの口ぶりだと、私が敢えて連絡していないのだと考えていたようですが・・・


「いや、昨日はお父さんの話とか、アイツの家族の話は沢山出てきたけど、サキのお母さんの話が殆ど無かったから気になっててね・・・覚えてないぐらい小さい頃に別れたのだとしても、昨日の話だと全く連絡が取れないって感じでもなさそうだったし。」


 私としては、意図していた訳では無かったのでマコトに言われて少し驚いてしまいます。


 そう・・・確かに、母との思い出はありませんが、ナツキさんから母への連絡の仕方そのものは教えられているので、不可能では無いのです。


 ・・・ただ、私の中で母と直接やりとりをするキッカケが無かっただけなのだと思います。


「余計なお世話だろうけど、昨日の話からすると相当サキの事を気にかけていたんじゃないかなって、思ってさ・・・サキは本当にそれでいいのかなって・・・」


 私だって解ってはいるんです。


 恐らく連絡が無かった理由は、父の訃報が母に届くまでに、相当な時間が経ってしまったからなのでしょう。


 実は、葬儀からかなりの時間が経過した頃、差出人不明の電報が一通だけ届いた事があるんです。


 その時の私は内容も見ないままに仕舞ってしまったのですが、今思えば恐らくアレが母からの連絡だったのかもしれません。


「あたしが言うのもなんだけどね?連絡・・・したほうがいいんじゃないかな?」


「連絡かぁ・・・」

 

 もしかしたらこれが、キッカケなのだと思います。


「気分を悪くさせたなら、ごめん!でも、嫌ってるって感じもしなかったからさ・・・お母さんもきっと連絡を、待ってるんじゃないかな・・・?」


「うん・・・そう、だね。そうだと、いいな・・・」


 私はきっと、誰かに背中を押して欲しかったのでしょう。


「余計な話して、ごめんね。」


「ううん。大丈夫だよ。」


 帰ったら、確かめてみよう。


 連絡するかどうかは、それから考えても遅くはない・・・よね?




 そうして気づけば一時間程が経過して目的地に到着した私達は、三人で入り口にある施設案内を確認しながら、本日の相談を始めました。


「じゃあ、最初は何から見て回ろうか?・・・サキ、何かアテはあるの?」


「うーん・・・悩んだんだけど、身に付ける物がいいかなって思ったんだよね。ブレスレットとかが、恋人へのプレゼントとしては定番みたいだし?」


「アクセサリーですか?こう言っては何ですが、彼が身に着ける所を想像出来ませんよ・・・?」


 確かに、ミキの言う通り普通の装飾品だと私でもそう思うよ。


 多分、当人も余り興味ないだろうし。


 とはいえ・・・


「えっとね・・・アクセサリーだけじゃなくて、お財布とかそういう身に付ける物も含めて見てみようかなって思ったの。・・・それに、アニメのキャラモチーフのアクセサリーとか、小物だってあるんだよ?コラボとかでさ。」


 どうせなら、大事に仕舞われるより使って欲しいもんね。


「だから、ここのお店に行こうかなって思ってたんだ。」


 普通のお店では置いていませんが、アニメ関連商品を取り扱うお店なら取り扱いがある可能性もあるので、そこを中心に見て回るつもりだった事を二人に伝えました。


「そっかー・・・アクセとか、あたしじゃわかんない世界だからなー・・・あんまり助言出来ないけど、三人で見ればなんとかなるっしょ!」


「そうですね。私も余り詳しくは無いですが、意見を出すくらいは出来ますし。」


「ありがとう二人とも!勿論、お礼はするからね?」


「そんなの、気にしないで?・・・良さそうなのが、見つかるといいね。」


 三人で案内板を見ながらアニメ関連のお店までの道順を決め、途中にあるお店も見て回りながら施設内を進む事にしました。



 ですが、色々なお店を見て回りはするものの、中々これといったものは見つけられません。


「んー・・・財布とかも種類がいっぱいで、どれがいいのかよくわかんないや・・・キーケースは分かるけど、よくわからない物もあるし・・・」


「えぇ・・・私も男性用の物がこんなにあるとは思いませんでした・・・恐らくは、ビジネス用なんでしょうけれど・・・」


「あたしら、そういうのとも縁があんま無いからね。・・・とはいえ、オヤジに聞いてくるぐらいはすればよかったかな?」


 それはそれで両親が心配しそうな気もしますが、それは敢えて口に出さずに私達は様々なお店を見て周りました。




 そうして探し始めてから二時間程が経過した頃、二人にお礼を兼ねてお昼をご馳走しようかと考え、一階からフードコートのある二階に上がろうした時でした。


 エスカレーターの手前のとある装飾品店が、私の目に止まります。


 店内は安価な指輪や、時計等を取り扱っている所謂若者向けのお店だった為、最初は立ち寄るつもりは無かったのですが、私はふと目に入った中央のショーケースがどうしても気になって、つい近寄ってしまいました。


「サキさん?急にどうしたんですか?」


「サキ、何見てるの?んー・・・これは、ペアリング?」


「ううん・・・この値段だと、婚約指輪に使うもの、かな?」


 他の商品とは明らかに表示の値段が違うので、恐らくはきちんとした物なのでしょう。


 宝石が散りばめられているわけでもないから、材質が違うのかな?


 にしても、婚約指輪・・・かぁ。


「サキさん?顔、赤いですよ?」


「あー・・・多分、アイツに渡されるとこでも想像したんじゃない?あたしらの声聞こえてないっぽいし。」


 大人になったら、どんな風に渡してくれるのかな?


 きっと、彼も奥手だから凄く恥ずかしそうに頬を染めながら、真っ直ぐな言葉で渡すんだろうな。


 私達はどっちも駆け引きが出来るような性格じゃないもんね。


「・・・これはホントに妄想してるね。段々とにやけてきてるし。」


「最近、時々ありますよね。」


「ちょっとムカつくから、ほっぺた引っ張っちゃえ!」


 子供は二人がいいかな?


 どっちも女の子がいいな。


 結婚式は、海の見える場所かなぁ・・・


 そんな幸せな想像を暫くしている内に、気付けば足元までフワフワしてるような感覚に陥ります。


「サキ!こっち!」「サキちゃん!」


 すると、不意に焦ったような声のマコトに腕を掴まれ、私は店の外に引っ張り出されました。


「えっ?な・・・」


 何?と聞き返そうとした瞬間、沢山の怒号やガラスの割れる共に地面が縦に揺れ、私は立っていられずに転んでしまいます。


 何が起きているのかも分からずに、揺れる地面から必死で起き上がろうとすると、至近距離からマコトとミキの悲鳴が聞こえたかと思えば、鈍い衝撃と共に私の意識は途絶えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱庭少女育成計画 眠る人 @nemurevo0992

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ