Ⅳ 呪いのダイヤには静かな眠りを
よく言い含めたのがよかったのか? それとも常に携帯している魔導書『シグザンド写本』の魔除けの力か? 俺は呪いにかかることもなく、無事に〝ディアマンテ・エスペランサ〟を総督府まで持ち帰ることができた。
「――いやあ、よくぞ取り戻してくれた! ダメもとで頼んだんじゃが、まさかほんとに持ち帰るとはの!」
「かくなる上は船ごと嵐で海に沈んだことにしようかとも考えていましたが、いやあ、助かりました。お約束通り報酬ははずみますよ」
取り戻したダイヤを目の前にすると、クルロス総督とエヴェリコさんは思いの外だったという様子で驚いたように歓喜の声をあげる。
どうやら俺をまったく信用していなかったらしいが、ま、どうせそんなこったろうと思ってたぜ。貴族って輩はいつもこんな感じだ。
「へえ。ありがとうございやす。謹んでいただかせてもらいまさあ」
ま、俺としては金さえ貰えりゃそれでいい……呪いのダイヤにはもうこれ以上、関わりたくなかったし、俺は素直に礼を言って銀貨をたんまり受け取ると、早々に喜ぶ二人の前を後にした。
んま、その金も魔導書借りた代金と家賃を爺さんに支払って、その他もろもろ方々のツケを払えばなくなっちまうんだがな。
ともかくも、これで呪いのダイヤ――〝ディアマンテ・エスペランサ〟にまつわる事件は一件落着した……かに見えたんだが、じつはその呪いはまだ終わっちゃあいなかったようだ。
皇帝陛下へ献上するダイヤを携えた特使エヴェリコさんを乗せ、護送船団がサント・ミゲルを発ってから数日後のこと。
巡回中の駐留艦隊により総督府へもたらされた報告に寄ると、〝嘘から出たまこと〟とでも言おうかなんと言おうか、エヴェリコさんの乗っていたガレオン船だけが、件のダイヤもろとも近くの沖で難破して沈んだらしいのだ。
護送船団には海の悪魔を操る凄腕の魔法修士が乗ってるんで、普通だったらまずありえねえことだ。
それも、やっぱりダイヤの呪いだったんだろうか?
そういや、そもそもが本国へ輸送しようとした時から凶事が起こり始めたわけだし、もしかしたらあのダイヤは、この新天地から離れることを嫌がっていたのかもしれねえな……。
ま、あんな持ち主に破滅をもたらす恐ろしい呪物、むしろ皇帝陛下も受け取らなくてよかったような……。
いずれにしろ、今やあのダイヤも同じ青い色をした、この美しい新天地の海の底だ。
「もう、おまえを手に入れようなんていう輩は誰もいねえ。この深い深い海の底で静かに眠るんだな、ディアマンテ・エスペランサ……」
俺は白い砂浜に立つと船が沈んだという沖合いの方を眺め、あの紺碧に輝くダイヤへ語りかけるようにしてそう呟いた。
Le Diamant Maudit ~呪いのダイヤ~ 平中なごん @HiranakaNagon
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